第33話 巫女は期待する
竜の塒にて――
今日は、一日があっという間に終わってしまった。
色々な人と出会って……会談が終わったあと、御方に連れられて
戻らなければならない
御方は色々と動かれている様子だ、ますます敬愛の念が強くなる。
御方はもう眠られているので、私も身体を清めてから床につこう。
……以前、湖で身を清めようとしたところを御方にとめられてしまったな……あれは、今でも顔が真っ赤になる。
あの後、御方が色々と動かれて、私専用の身体を清める場を作っていただいたのも併せて、恥ずかしいお話だ。
身体を洗いながら……今日のことを思い起こしている。
なにせ、ひどく
セーズ村を訪れた3つの勢力……ダンケルハイト帝国、フェイス教国、そして
それぞれの代表と御方が話をしたのだ。御方も
アインス皇帝やフェイス強国の司祭様については、セーズ村への宿泊も勧めたが、帝国も教国も、実は王国には通達していない完全な領土侵犯行為らしく長期滞在はまずいらしい。
それに、御方と話をした内容を一刻も早くすぐにでも本国に持ち帰りたいとの話だったし……でも、大丈夫かな?
帝国の人と扶桑国の人はともかく、フェイス教国の人は今にも倒れそうなくらいに顔が真っ青だったけれど……。
フェイス教国の人たち――私たちの開拓村にも小さな教会はあるけれど聖職者の人はおらず、単にみんなが自分の信じる神様にお祈りを捧げるだけの場所だけれど……今日やってきたのは月曜神に仕える本物の聖職者、しかも王国の教会に務めている人ではなくて、教国本国からやってきた司祭様。
正直にいうとどれくらい偉い人なのか、ちょっと良く解らない。
お貴族様みたいなものだと思えばいいって、フォルト村長やお父さんには教わったけれど。
以前、冒険者として訪れていたエレーヌ助祭様も来ていた。
エレーヌ助祭様は、今回は聖職者としての立場で村に来たと言っていた。
御方はフェイス教国の来訪については、拒否をされた。
先ほど御方は、帝国のダンケルハイト皇帝陛下とは友になり、帝国を来訪するとまで回答したのに……しかしフェイス教国に対しては、申し出を明確に断られた。
これが示すことは一つ……御方は、ダンケルハイト帝国との縁を重視するという表明。つまり、帝国との間に同盟を結ばれたということだ。
……同盟と言っても御方は飽く迄も個人、国家ではないから……少し違うかもしれないけれど。
御方の深慮までは分からないけれど……一国を代表する皇帝が「友になりたい」といって、純粋に村人同士のように個人が仲良くできるものではない。
これは友という、同じ立場での目線を持ちつつ関係を深めていきたい……臣下でもなく部下でもなく、逆に従属を宣言したわけでもない……つまりは、同盟の申し出に他ならない。
それに了承なされたのだ。
まさか御方が単純に純粋な意味で皇帝陛下と友人になった、と思っている筈もないだろうから。
セーズ村は……実際問題として、領主様と敵対した時点でほぼ離脱してしまっているようなものだけれど……リュミエール王国という敵国に属する場所であるし、正式な調印を押す場でもなければ、契約を司る紋章宮を挟んでいるわけでもない。
非公式な場で、さらに国家ではなく御方個人へのお話であったから、皇帝陛下も「友になりたい」と、おっしゃったのだろう。
きっと皇帝陛下の正式なお誘いを受けた、帝国訪問の日に、同盟についての調印をする流れになると思う。
――それ故に、もはやフェイス教国が挟まる余地が、ない。
フェイス教国も枢機卿様……国のトップが来ていれば、まだ御方もお話をする心づもりがあったかもしれないけれど。
実際にフェイス教国が派遣したのは、司祭様……かたや皇帝陛下と司祭様では、さすがに格付けするのも烏滸がましい。
どちらの国がより御方を重視しているのか、というのが一目瞭然なのだから。
それを察した司祭様の心中は、私では想像もつかない。
……ああ、そういえば。
「ミコ様」
「? どうしましたか、エレーヌ助祭様」
会談が終わり、意気消沈で帰り支度をしていたフェイス教国の方々を見送った私に、エレーヌ助祭様が声をかけてきたのだった。
……今思うと、エレーヌ助祭様は司祭様と比べてさほど顔色も悪くなく、むしろ何か自信に溢れているような様子であった。
御方がフェイス教国への来訪を断ったときには、司祭様と一緒に落胆こそ、されていたけれど。
「ミコ様……ドラゴン様は、神様だと思いますか?」
「はい、もちろんです」
私の回答にエレーヌ助祭様は満足されたのか、とても良い笑顔を浮かべられたのを覚えている。
会談が失敗したというのに、エレーヌ助祭様だけは足取りが軽い様子だったのも――酷く、印象に残っていた。
次に――扶桑国の方。
見たこともないような衣服や武具を纏った方々で、長い金髪の白肌。
美しい人間のようにも見えるけれど、長い耳がそれは違うと物語っていて。
尋ねれば確かに、自分たちのことを「
エルフを代表して交渉をするのは、彼らの国の代表を務めるショーグン……?という役職のヤマトという人と、その娘のお
ヤマトさんは、皴も深いお爺さんだけれど身体つきがもう、岩石か何かと思わせんばかりで、こんなに鍛えた人は自警団でも見たことがない……実際に、ちょっと自警団の人と手合わせをされたみたいだけれど、まったく相手にならないくらいに強い人だった。
私も腕に覚えはあるけれど、ちょっと勝てる気がしない。なにあれ。
ソメイさんは、見たこともない、幾重にも布を重ねた不思議な衣装を着た女性だ。
細い指先に長い睫毛、そして流れるほどに美しくて長い髪……とても綺麗で思わず見とれてしまうほどだった。
今度お話をしてみたいな。
アインス皇帝陛下とヤマトさんの会話を御方が了承し……みんなが帝国を訪れることに決まったため、もう少し具体的な話を進めることになった。
帝国に公式に訪問するのは御方と私の2名に……扶桑国のエルフの人が数人。
皇帝陛下は「歓迎の式典を開きたいので、2週間ほど待って欲しい。具体的な日時だとかは改めて人を寄越し、連絡する」とのことだった。
御方はとても上機嫌で……私も、セーズ村と御方の
……ああ、ダンケルハイト帝国といえば……。
……アインス皇帝陛下が時折、私の首をちらちら見ていたな。
一度「なにか?」って尋ねてみたけどはぐらかされた……嘘だよ絶対見てたよ。
ちょっと気になる……。
うーん……やっぱり私の首、長いかな……?
村の人にちょっと揶揄されたことあるもんな……変かなあ……?
ただ男の人って私と話をするときは、胸とかお尻とかをちらっと見てから話をする人ばかりなんだよね……首ばかり見られたのは、ちょっと新鮮だった。
うーん、でもなんで男の人って、胸とかお尻とかを見るのかな?……お父さんに聞けばわかるかな?
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