第35話 竜が楽しんでいる

ここがダンケルハイト帝国か~。

テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~。


完全にお上りさんな俺は、キョロキョロとダンケルハイト帝国の都市を見る。


こうやって間近で、しっかりと確認すると、帝国の街並みっていかにも中世ファンタジー!っていう趣きとは、ちょっとベクトルが違う感じだな。


なんというかこう、中盤以降の拠点になる城っていうか、あるいは敵として登場した相手の拠点って感じだ。全体的に石造りなんだけど、所々金属っぽい材が使われているし、家の形が直方体や立方体を組み合わせた様な、所謂みたいな感じだ。ただそれが整然と並んでるから圧巻である。なんか魔法と科学を融合させた魔科学とかやってそう。


「うわぁ〜……!」


「ここが今の原人人間の都か……ううむ、このように石を使うとは。我々が原人と交流していた頃は、木材を使うのが主流であったのだが」


「面妖な……」


「それだけではない、見よ、家屋に鉄を使っておるぞ!」


「なんと!貴重な鉄を……!」


「鉄などよりも、今の時代の原人の召物衣服が気になりますわ……」


一緒に連れてきたミコさんと、エルフの人たち……えーと、将軍のヤマトさんに、侍衆のヤハギさん、トネさん、キドさん。そして姫様のソメイさん。


皆も、俺と同じように「はえー、すっごい」みたいな顔をしている。


まあ、ミコさんは村娘だし、こういう都なんて初めていくって聞いていたからこの反応も頷ける。

……いや娘か?赤ん坊か?正しく言うなら村赤ん坊……いやもう村娘でいいわ。


そして、エルフの人たちは百年単位で人と会ってないもんなぁ……日本で言えば室町とか江戸時代くらいろ、現代を見比べるようなもんだろう。そりゃあ何もかも違うわ。


前世でファンタジーを予習している俺とは違い、この興味や興奮も一入ひとしおだろう……とはいえ、俺も勿論、感動しているわけだが。


いや~~~……やっぱちゃんと、目の前で現実として存在していると違うわ……いくらゲームの画面がキレイになったところで、この……太陽が石畳に反射して照り返す暑さだとか、建物や石畳の隙間から漏れ出た雑草が風に揺れている様子だとか。

人が生活することで出てくる料理や食品の良い匂い、排泄物やゴミの嫌な臭い、花壇に植えられた花の甘い匂いなんかは、こうして現地を歩かなければ解らない。


ただ、でも……そうだなぁ。


例えば装飾品を売っている店だとか、異世界らしい鍛冶屋とか武器屋だとか……酒場みたいなところもあるんだけれど、俺は、そこには入れない。


ミコさんも、エルフの人たちは店に入ろうとはしないけれど……これはきっと俺に気を遣っているんだろうな。

逆に言えば、俺がいないときには、後で目ぼしい店に足を運ぶんだろうか。


あぁ、良いなあ。





「いかがかな?ドラゴン殿や従者の方々は、このダンケルハイト帝国の帝都をご堪能いただけているだろうか?」


グルルルルル!(もちろんさぁ!)


「はい!とても素敵です!」


「うむ、まさかこれほどまでに変化しているとは……いや、これは恥ずかしい。やはり森を出てきて正解であったな」


「はっはっは!楽しんでいただけているなら何よりだ」


快活に笑う皇帝。

今俺たちは、アインス皇帝に連れられて、通りを歩いて色々と見て回っているのだ。

周囲には帝国の人たちがずらっと並んでいる……ジロジロと見られているが、まあ仕方ないだろう。


皇帝陛下に、角と鱗が生えたミコさんに、エルフの集団と言うだけでも目立って仕方がないのに、俺とかいうもう何をどうしようが目を引く存在が居るからな……ちなみにこれは自意識過剰的な意識とかじゃなくて、物理的な意味でだ。


城とか一部の屋敷を除いて、基本的に帝都の建物より俺の方が体躯がデカいから何をどうしても目に入ってしまうわけだな。


嫌なら見るな!とか通用しないのだ。


本当はこう、帝国の人々の普段の生活みたいなのが見たいんだけどなあ……ただ皇帝やミコさん、エルフ集団は変装したりすればいけるが、俺は無理ゲーである。


臣民の人らを通りの脇に並べたのも、俺が移動するときにどう考えても邪魔になってしまうからだろうしな……こっそりと見に行くというのは、まあ無理だろう。


やんなるね。


「そろそろ帝城で小休止を挟もうと思うが、よろしいかな?」


そう言ってホストを務めるアインス皇帝の言葉に是非もなく頷く……そういや今更だけど、皇帝陛下自身に帝国観光のガイドをさせるって、相当不敬じゃないか?


大丈夫か?後になって「よくも恥をかかせたな……御覚悟を」とか言われたらどうしよ。何かお返しを考えんといかんな……。


と、そんなことを考えている間に、俺たちは城に通される……といっても、俺の身体がデカすぎるので門をくぐってそのまま本当にお城の中へ、とはいかない。

少し遠回りして、中庭の方に通される……入口からこんな風に中庭に通れるなんて、セキュリティガバガバかよ?って思ったけど、なんか壁とか床とかが新しいな……最近作ったんかね?


城の中庭は、俺が鎮座しても十分すぎるほどの広さがあった。


なんでも各国の要人を呼んで舞踏会をするときや帝国内の貴族を呼んで会合を開くときなどは、ここで立食パーティを開いたりもするらしい。


ちょっと見渡せば、なるほど花が映えるように生垣や花壇がしっかり整備されている。その時々の季節の花が見られるよう、植え方とかを工夫しているらしい。


なんというか華やかな空間だ。


こう、帝国は今まで都市をざっと見てきた限りだと、こういう華美さとかか、装飾とかはあまり力を入れてなくて、実用性の高いものを好む感じだと思った……豆腐ハウスの集合体とか顕著な例だな。

よく言えば質実剛健、悪く言えば飢えた狼足柄みたいな。いや後者は言われた人らは誉め言葉だと思ったらしい……んだっけ?


そして、その花々が咲き誇る場所からは離れた場所には、メイドさんたちがずらっと並んでいる……うぉおおおおお!!メイドだメイド!!

カフェとか18歳未満は視聴禁止な作品とかでは定番のメイドさんだ!!


寡婦人みたいなシックで黒い服に、髪をぶかぶかのフリルのついた帽子にしまっている……本物か?本物だよな?!


ミニスカートでもないし、フリルが過度についたエプロンドレスとかではない!!

オタク文化的なミニスカのエチエチメイドさんも嫌いではないが、俺はこういうクラシックな感じのメイドさんの方が断然好きだ。


前世でもそっちのコンセプトのお店に通っていたからな!!


店の名前は……名前は…………アレ?思い出せないな?

……あれだけ通ってたのに……?



「――これは氷菓子アイスクリームという菓子なのだが、お気に召すかな?」


皇帝陛下の言葉に、あーでもない、こーでもない、と頭をひねっていた俺ははっと我を取り戻す。


いつの間にかお茶会の準備が整えられていた。

そういえば小休止するって言ってたもんな。


俺が上の空の間に、花咲く庭園にはテーブルが運ばれていて、そこには色々なお茶とかお菓子とかが置かれていて……そして皇帝陛下の言葉に合わせ、メイドさん方が器に盛られた白い物体を運んでくる。


……おお本当だ、アイスクリームだ!なんか俺用なのかクソ馬鹿でかい木の板に盛られているけど。ってか今気が付いて悪いんだけど、このデカいバケツのお化けみたいなのに入ってるのは俺用のお茶か。


では早速……うん!おいしい!!


現代のスーパーなアイスとか、ハーゲンなアイスと比べてしまうと、あっさりというか少し味気なさも感じてしまうけれど……甘味はこの世界に来てから初めてだな!!


こういう異世界だと砂糖とかって貴重だったりそうでもなかったり、って具合でまちまちだけれど、ミコさんに聞いた限りでは前者の世界らしいし……いやーさすが皇帝陛下、太っ腹だなあ。


そんな感じで俺がご満悦していると、色々な角度で器に盛られたアイスクリームを眺めていたエルフの人たちも手を付け始める。



「……美味い!」


「なんと甘露な……!」


「このような物、初めて食べました……!」


「果実よりも甘いものがあるとは……」


エルフの人たちからも上々の評価だ……やっぱ、甘いものは珍しいのかね?



「……お、おいしー!あまーい!!」


ミコさんも一口食べたら目を輝かせた。

なんかミコさん普段より語彙力がなくなってない?


そんで二口めは、そりゃあもう大きな口を開けて頬張ろうと……ん?!


ミコさん舌長っ?!え、どうなってんのそれ?!滅茶苦茶舌なが?!


え、異世界の人たちって舌長いの?!効果音つけるなら「でろん」って感じだぞソレ……もしかして竜化のせいか?竜化すると舌が長くなるのか?火炎舌になって4点ダメージ出して天使焼いたりするのか?


……見た限り、エルフの人は普通サイズだよな?いや違うか、エルフは飽く迄もエルフっていう種族だから人間とは違うかもしれん。


じゃあ皇帝陛下は……普通の長さか。

というより皇帝陛下がミコさんガン見しとる。

舌長すぎてビビってんのか?なんか喉がゴクってなってるの聞こえたぞ。


というかミコさんも礼儀作法についてはあんまりだな……まあ村娘だし……いや違うわ、そもそも先日まで赤ん坊してたんだから無理もないか。俺は俺の罪から逃れてはならんのだ。


でも、こういうところで大きな口開けちゃいけないよな、その辺を見咎められたのかもしれん……いやここ異世界だからテーブルマナーは前世と違うのか?

教えてもらった方が良いかもしれん……ドラゴンのマナーってどうなんだろ?



「……ん、んん!!気に入っていただけたようでなによりだ」


ミコさんに目が釘付けだった皇帝だが、ミコさんがアイスを食べきったところで我に返った様子だった。

咳払いの後、ふっと俺たちの方へ目を向ける。


「この後は、帝国が誇るリヒタルゼニット魔科学研究所を案内しよう。が……その前に、ドラゴン殿にお聞きしたいことがある」


やっぱ魔科学あるんだ。


しかし、なんだね?ここまで色々とやってくれてるし、何でも言ってくれ。

今何でもするって言ったよね?って突っ込まれるといやだから、何でもするとは言えないが。


さすがにここまで歓待しておいて、なんも要求してこないわけないわな。


ただ要求されるのが回復魔法だった場合は……うーん、流石にあれは封印だ。

それだけは求められても断ろう。逆にそれ以外なら、配慮しようと思うが……。



「……ダンケルハイト帝国は、休戦協定が明けたのちにリミュエール王国へと宣戦布告をする。ドラゴン殿は、どう思われるか?」


あ~~~、そっちか~~~~。


突然の内容に驚いたのか、ミコさんもエルフの人たちも、さっきまでアイスクリームを食べて楽しんでいたのとは打って変わって表情が引き締まる。


うーん。


これって戦争するから手伝えってことだよな……?


王国に対してはまあ……悪徳領主の件もあるから、あんまり心象は良くないが……戦争ってなるとなあ。


俺個人としては戦争なんてやるべきもんじゃないって思ってる。


勿論そんなキレイごとだけで世の中は回らないし、戦争しないといけないこともあるってのは、あるんだろうけれど。

ただまあ……どういう理由があろうとも、それで血が流れるのは止められねえからな。戦争しちまえば。


……とは言っても、これは完全に、帝国と王国の話だ。


例えば俺が自分に与えられた力を見せびらかしつつ「やめろ」って脅せば皇帝陛下は戦争をやめるだろうし、逆に協力するなら王国を滅ぼすことさえできてしまうだろう。


けど、それは違うよな。


何となく、今まで有耶無耶にはしてきてしまったが……。

回復魔法の一件で、もうハッキリとした。


……俺と言う存在はこの世界にはあまりに異常イレギュラーすぎるんだ。


だから、できる限り世界には関わらない方が良い……んだが、全く関わらんこともできないからな。

というより今更何もかも捨て置いて逃げ出すなんてこともできねえか。



さて、話を戻すと……俺の答えは。



俺は腕を上げる……周囲にいるメイドさんたちがビクリと反応し、護衛の騎士たちも思わずと言った様子で腰に下げた剣に手を伸ばしかけるが……皇帝が手を挙げてそれを制する。


……エルフの面々もなんか刀の鞘握ってるしな、いやお待ちなさってください!

……ってかソメイさんも何か懐に手を入れかけてたけど何?!君お姫様っぽいのに武装してんの?!


とりあえず……俺はそのまま腕を口に持っていって、力をこめる。


ふんぬ!!


パキっという音がして、折れたを俺は皇帝へと差し出した。



「御方、これは……」


ミコさんが驚いた声を上げる。

『ドラゴンの牙』だ……これを皇帝陛下へプレゼントしよう。



これが俺の答えだな。


ん?つまりどういうことだって?

具体的とか説明するとかそういう言葉って嫌いなんだが?



……まあ、ようはつまりこう、なんだ。



何も思いつかんから、なんかそれっぽく重要そうなものを渡して許してもらおう!!



流石に開拓村に贈ったものと、皇帝陛下に贈ったものが一緒だと角が立ちそうだから、牙ならまあ上位っぽそうだろう!!って判断だ。

魔物モンスター狩人ゲームだと鱗より下位?弾の素材?知らんなぁ!!!


ちなみに牙は抜けてもすぐに生えてくる。


ドラゴンすごいわ。



「……あい分かった、ドラゴン殿。確かに受け取った」


皇帝陛下が重々しく頷く。

え?良かったか?和解できたか?


何か知らんがヨシ!

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