第29話 竜が驚愕する
リュミエール王国 フェーブル領 セーズ村――
どうもドラゴンです。
「ドラゴン様……!」
「ドラゴン様!」
「ドラゴン様……」
今、現在進行形で滞在している開拓村……セーズ村の人たちから、ものすんごく崇め奉られています。
主に若返った村長とか、角が生えたり鱗が手足に出てきたミコさんからね。
土下座されてますよ土下座、多分これ村の人たち総出じゃあないかな?
あ、いやそれは違うか。自警団の人とかは見張りっていうか警邏で何人か出て行ってるって言ってたか。
じゃあそれ以外の人たちは来てるんですね。
えー……。
どうしてこうなった!
どうしてこうなった!
どうしてこうなった!
どうしてこうなった!
この身体じゃあなけりゃ、もうあちこち行っては飛び跳ねていたよ!あまりに状況が理解できなさ過ぎて、踊りだしたい気分です!
いや、状況は理解できるんだけどさ!
……本当にできているか?理解しているか?わけわからん状態に陥ったせいで、そういうつもりになってるだけじゃあないか?
なんか不安になってきたな、思い起こしてみるか。
俺が村に滞在している理由だが……これは村の人たち、村長さんは勿論、ミコさんからも頼まれたからだ。
「悪徳領主が再び攻めてくるかもしれない」「先の兵士たちは先遣隊ですぐに本隊が来るかもしれない」「そうなると村の自警団やミコさんだけでは対処できない」と。
これについては、特に異論もなかったんでOKした。
不安なら俺が周辺を飛んで見つけ次第薙ぎ払ってもいいし、なんなら領主のハウスなりお城なりに突撃してもいいんだけど……でもまあ、こっちから攻めるのはちょっと違うよな。
専守防衛ってやつだ。
それに、俺も異世界の人たちの生活っていうのを間近で見てみたいっていうのもあった。
なんだかんだ、村の人たちが普段どんな生活してるかって知らないんだよな。ミコさんから聞いただけで。
というわけで、村の人たちは俺という用心棒が滞在してくれてニッコリ。
俺は村の人たちの普段の様子を観察出来てニッコリ、Win-Winと言える。
まあ、1日経ったが特に何も起きていない。
悪徳領主がもう1回攻め込んでくることはなかった。
さすがに大打撃うけたか?ま、杞憂で終わればそれが一番いいよな。
ただ俺がバカスカ飯を食うんで、そのあたりが負担になっていないかどうかだけが気がかりだけど……あと数日くらい滞在したら塒に帰ろうかな。
現状はそんな感じだが……ここから先は懸念点だ。
まず、村長さんについてだ……王国の兵士を追い払って、その時に治療した村長さんが若返ってしまった。
俺にそんな意図は全くなかったんだが……目を覚ました村長さんは、それはもう天地がひっくり返らん勢いで驚き感激された。
まあそれはそうだろう、致命傷を負っていたのにも関わらず命が助かった!ってだけでも驚くだろうに、本来不可逆であるはずの老化という現象がすっかり消えてなくなったのだ……前世の現代医学だってそんなこと出来なかったわけだからな。
だから村長さんが俺に対し、神様への信仰みたいな熱烈な崇拝をしちゃうのは解る。
解りたくないけど解る。
次、ミコさん……話からするに、俺が最初にこの村で助けた赤ん坊、それがこのミコさんだ。
それが何で妙齢の女性になっているのだろうか?
もしかして異世界人ってものすごい爆速で成長するのではなかろうか?
って縋るような気持ちで村人見てみたけど……赤ん坊は勿論、前世でいう幼稚園から小学校に通うくらいの小さな子供とかも沢山いるし、それはちょっとなさそうだ。
つまりは、俺がかけた回復魔法のせいだろう。
俺は肉体を全盛期にする魔法……つまり老人は若くなるし、赤ん坊は若者になる。
怪我や病気などは回復する……と、そんな予想をたてたわけだが。
ただそうすると、ミコさんに生えている角とか鱗の説明が付かない。
俺はじっと、ミコさんを見る。
例えばミコさんが、異世界の特有の種族……
だが、角に鱗……厭だけど認めるしかない、これは間違いなくドラゴンのものだ。魚とか爬虫類とかのものじゃあない。
俺の手足についている鱗とか、水辺で確認した角とかと形状や質感にそっくりだ。
つまり俺のかけた魔法……単に肉体を全盛にするんじゃあない。
きっと『竜化』なんだ。
ドラゴンそのものでなくても、眷属だとか、その亜種にしてしまう魔法だろう。
村長さんにはまだ、角や鱗はないから絶対にそうだと言い切れないが、まずまず間違いないと俺は踏んでいる。
はぁ~~~~…………。
どうしよ……。
いやもう、今更どうにもならんのだが……でも回復しようとしたら人間辞めさせてるかもしれん、とかそんなん酷くない?
どこのマッドサイエンティストだよ。
しかも治療を受けた方は勿論、治療した方もそんな意図全くなかったとか、なんのコントだよ。
あまりに無惨すぎる。
青い彼岸花とってきたら竜化を治療できるとかないかな?ないか。
将来ミコさんが人の形じゃなくなったら俺はいったいどう責任取ればいいんだ?
責任取るっていうのは嫁にするとかそういう意味じゃないぞ、詰め腹の話をしているんだ。
とにかく、もう回復魔法……回復魔法か?
まあどうでもいいが、この魔法は封印だな……ガチのマジで。
ある意味、実は爆裂四散する遅効性爆弾作る魔法でした!とかよりもヤバすぎる。
なんでかと言えば……俺は再度、目の前で土下座している村の人たちを見る。
村長さんとかミコさんとかを中心に、一部の村の人たちは俺のことをガチで崇拝している様子だ。
まあ、それはいい。
いや良くないが、いい。
俺の力がヤバすぎることは今もって実感している最中だし、これを見せられたら脳を焼かれてしまうのも理解できる。
村長とかミコさんは、実際にそれで命を救われているという事実があるからな。
だからもう、その点はこの際諦める。
ドラゴン教団とか出来ても驚かん。
だがここに居るのは、それだけじゃあない。
俺のことを心の底から崇拝しているわけじゃあなく……俺の『力』を崇拝し、実利を得ようとしている人たち。
年配の人だとか、元々大きな病気やケガを負っている人、純粋に強い力が欲しい人。
こそこそと話をしていても、この村の中での会話なら聞き取れちゃうからな……。
こっちはヤバい。
非常にヤバい。
ガチのマジでヤバい。
利益が得られるなら……リターンが手に入るなら、多少のリスクをおかしてしまうのが人間というものだ。
しかも今回得られるリターンというのは非常にでかい……若さ、力……金を積んでも手に入らないものが手に入ってしまう。
なら、相当のリスクを犯してでも欲しいと思ってしまうだろう。
例えば俺に金品を捧げようとして徒党を組んで別の村を襲って強盗するだとか。
あるいは今度こそ本気で生贄を捧げるつもりで何人も殺してくるだとか。
これが、まだ村人で収まっているうちはいい。
彼らも公言したり、別の場所で言いふらしはしないだろう、他人に伝わって先を越されたくはないだろうからな。
が、もっと大きな存在……例えば貴族だとか王様だとか、そういう人たちにまで話が伝わったときだ。
彼らが俺の力を求めてきたとき、代わりに捧げる金品や生贄、それは村人が用意しようとする規模のものとは比較にならんだろう。
それだけの権力を有する人たちなんだから。
グルルル……………
(はぁ~~~~…………)
「御方、何かご不満が……?」
俺のため息が唸り声になってしまい、村民たちが土下座したまま縮こまってしまう。
ミコさんが不安げに尋ねる……ああ、ミコさんは俺の感情は、俺の唸り声の声色である程度察知できるもんな。
驚かせちゃったのは悪いが……あー、やっぱり言葉が通じないの不便だよなあ……。
しっかし、権力者云々は絶対にまずいけど、今その実利を求める村人たちが暴走しちゃったときにどうすりゃいいんだ?
俺が有事に介入して、村人を締め上げれば収まるか?
いやもうわかりきってんだから、ここで推定有罪な村人を叩き潰せば解決か?
いやだよなあ……でも暴力以外に使えるものが俺にはないんだよなあ……だからってブンブン行使していいもんじゃあないんだよなあ。
そんなことしたら、純粋に俺のこと信じてくれてる人たちも一斉に離れるわ。
ミコさんすら俺のこと嫌うかもしれん、そんなのはイヤだ。
とりあえず村の人たち土下座はもうやめてくれないかなあ……ずっとそうしてるけど、村の仕事とかあるでしょ?
俺そういうの見学したいんだけどなあ……。
……ん?
自警団の人がこっちに走ってきてる……大分慌てた様子だな、どうしたんだろ?
「た、大変です!」
「ギヨームさん、どうしたんですか?」
ミコさんが俺のことをちらりと見た後に、ギヨームっていう自警団の男性と話を始める。
ギヨームは息を切らせていて、数呼吸して整えたのちに、ミコさんと、村長さんと、そして俺の方を見て答える。
「さ、さっき先触れの騎士の方が来て……この村に、客人が来るらしい」
「えっ」
「客人?……王国の貴族か?」
驚くミコさんに代わり、村長さんが訪ねる。
え、マジで……?でもつい先日、悪徳領主が攻めてきたばっかりだもんな。
悪徳領主の仲間が増援とか援軍よこしてきたんだったら先触れを出す意味がないし、悪徳領主の悪事を成敗したことについて、謝罪だとか謝礼とかだとすると今度は対応が早すぎる……でも先触れなんて出すんだから貴族とかそういう人たちだろ?
え、誰がくるの?
「いや、王国じゃあない……帝国、ダンケルハイト帝国だ。……アインス皇帝が、この村に来ると」
「は?」
「は?」
ha?
ミス
は?
は??
は??????????
アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!???
皇帝???!!!
皇帝ナンデ???!!!!
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