第17話:花火大会二日目

 夏休みはあと二週間をきり、今日は祭りの二日目だ。

 昨日疲れて帰って俺は、今日の昼頃まで寝てしまい殆どの時間を無駄に過ごしたが夕方になる頃には回復した。

 そして今は、皆で如月家に集まっていて準備をしている感じだ。


「さぁ、今日は楽しむぞ」


 浴衣姿の和也がそう切り出して、祭りの案内地図を取り出す。

 ちょっと効率厨である和也は、昨日のうちに美味い店をリストアップしたようで、今日はそれを皆で食べようという流れ。


「そういえば綾花はこないのか?」

「あいつは今日も手伝いだって」

「残念、せっかくなら皆で回りたかったなー」

「ごめんだってさ」

「……そうですか」 


 少しの違和感、どうしてか文乃の元気がないように見える。

 昨日まで元気だったと思うのだが……何があったのだろうか? 考えてみても心当たりはなく、原因は思い浮かばない。和也達の様子を見るに何かされたって事もないだろうし……。


「大丈夫か、文乃?」

「……はい、私は平気です」

「なんかあったら言えよ、家族なんだし」

「分かりました……そうだ兄様、浴衣借りに行きませんか? まだ花火まで時間ありますし」

「いいぞ。というか、昨日はなんで借りなかったんだ?」

「予約がいっぱいでして。でも今日は借りられるようですよ。兄様の分があるかはわかりませんが」


 という事は、俺は昨日見れなかった文乃の浴衣姿見れるのか……やばい、超みたい。

 文乃は俺の浴衣を心配してくれているようだが、そこに関しては義父の浴衣が残っているので問題ないだろう。大きくなったら着るんだよと彼が用意してくれた物で丁度今の俺にぴったりなのだ。着方は分かるし、似合うかは分からないがどうせなら皆に合わせて浴衣は着たい。


「見立てはあたしがやったよー。燐は楽しみにしてるのだー」

「はいはい、まあどうせ文乃はどんなのでも似合うと思うがな」

「……文乃ちゃん、燐って家でもこうなの?」

「――あはは、そうですね」


 冷えた麦茶を飲みながらも、俺は首を傾げた。 

 いつもこう……とはどういう意味なのだろうか? 当たり前だが俺は俺らしく過ごしているし、何が何だか分からない。 


 とりあえず、これで祭りに行くことは決まり。

 ルートは決まったので、後は遊べる屋台などを適当に周り花火までの時間を潰す感じだろうな。文乃は少し元気はなさそうだが、それは後で聞く事にする。 

 テンションが低いのなら上げて貰おうという考えだ。


 原因が分からない以上、何か出来る訳ではないが……俺は俺に出来る事をして文乃に楽しんで貰おう。


「これで皆浴衣? 燐も持ってるだろうし」

「そうだな、でも藍お前浴衣で沢山食えるか?」


 女子の浴衣って腹を帯で締めそうだし、大食いが多い女子勢の事を考えるとちょっときつそうだ。文乃もその可能性に気付いたのか悩むような素振りをする。


「沢山食う気だっただろ文乃」

「……まさか、昨日食べましたし」

「ほんとか?」

「ホントです」


 ……というか、この四人でまともに外出るの初めてだな。 

 ここに幼馴染みも加われば面白そうだが、アイツがいるとややこしくなることが確定するのでその想像を振り払った。


「え、あれ兄様浴衣あるんですか?」

「今更かよ、裕利さんから貰ったやつがあるぞ」

「……お父様の?」

「あぁ、日本出る前にくれたやつ」

「兄様の……浴衣姿」


 何想像しているか知らないが一応似合ってると思う。 

 前世で背の高さの利点は知ってたからちゃんと毎日牛乳を飲んでいるし運動もしている。あるのは結構高身長向けの浴衣なのだが、少なくとも着させられている感はないはずだ。


 妙にそわそわする文乃を横目に、「期待するなよ」の言葉を告げ俺は早いが部屋に戻ることにした。


「うーん、着ても違和感なければいいが」


 改めて目にする黒い男性用の浴衣。

 特に柄のないその浴衣はかなり大きく、やはり身長が高くなければ似合いはしないだろう。


 俺は自分の容姿にそこまで自信がなく、人並みだと思っているので……正直浮かないかが心配だ。さっきは大丈夫だと思ったが、推しとの浴衣で祭りの探索と考えると緊張してくる。


「まあ駄目元だ。着て変だったら着替えよう」


 着替え終わってリビングに戻れば、そこには文乃と藍の姿はない。

 残っていた和也に聞いて見れば、先に浴衣を貸してくれる店に行くそうで現地集合になったすだ。そういう事なので、俺と和也は家を出て先んじて祭り会場に向かう。


 ちゃんと着れているか心配になりながらも、俺はそわそわしながら祭り会場に到着する。 和也には心配すんなと言われたが、やはり初めて着るから落ち着かない。

 雰囲気は出ているか? という感じなので不格好ではないと信じたいが……それはもう誰にも分からない。

 

 ……あと、それと文乃の浴衣が楽しみすぎる。 

 原作で一度は見たことあるが、それは彼女が二年生の時だ。それも数コマだけでもっと書いてくれよと思ったのは今も覚えている。しかも紙ではなくリアルで目にするという事実が、かなり俺の緊張感を煽ってくるのだ。


 それに藍のセンスはかなり高い、俺の服もたまに選んでくれるが、おお! ってなることが多かったし、きっと文乃は三倍増しで可愛くなってるだろう。   


「いや、それどころじゃないかもしれない」

「何言ってんだ燐?」

「いや、なんでもない」

「そうか?」


 本当になんでもないのだ。

 ただただ緊張するだけで動悸して、何より落ち着かないが……それでもなんでもない。心の準備とか出来る気がしないが、やるしかないだろう。

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