第15話:唐突デートと裏の顔
そうして俺はバイトが終わった後、彼女とデートする事になった。
「すみせん、これとこれ……あ、あとこのドーナツも下さい」
町に出かけて色々な物を買っていく綾花、荷物持ちをする事になった俺は複雑な感情で後を着いていく。
「なぁこれってデートって言えるか?」
「そんなの今更でしょ? 燐と私が何回一緒に遊びに行ってると思うの? それに、男女が一緒に出かけるのがデートでしょ? だからほら、食べ歩きデート」
「それもそうだな。てか、それならこんなギリギリにやるか?」
祭りまであと五日、料理の調整のためのデートだと思うが……もう少し早く誘ってくれれば良かった。
「だって店にこなかったし最近喋ってなかったでしょ」
「……まあ、今流行のスイーツとかを作るなら実際に食べてみるのが一番だしな」
その正論に俺は、ばつが悪くなりそう言って逃げる事にした。
「そうでしょ? 屋台であんまり凝った物は作るの大変だし、安易に飴とかになると思うけど案とかある?」
「カステラは入れたいな、俺が好きだし……」
無難に覚えのある料理を上げながら二人で町中を歩いて行く。
学校で既に天使と呼ばれている彼女とこうやってデートするのは緊張するが、さっきも言われたとおり何度か遊びに行っているし、それほど気にする必要はないかもしれない。
「話題性を考えると
確かそれってサツマイモをふかして練って揚げたお菓子だよな。結構美味しいって聞くぞ。
「いいな。それなら食べ歩きも楽だし、何より作りやすい」
「なら決まりね、じゃ家行きましょうか」
商店街を出る頃にはそうなったので、俺は彼女に連れられて彼女が借りているマンションに足を運んだ。
「邪魔する」
「はい、いらっしゃい」
こうやって彼女の部屋にやってくるのは初めてではないが、いつもは藍と和也が一緒。だからこうやって一人でお邪魔するのは初めてだ。
「そういえば、お前なんで朝陽さん達と別で暮らすようにしたんだ?」
「一人暮らしだとのんびり出来るから、それ以外の理由はないわね」
「まあ気楽だしな、俺も最近まで一人暮らしだったし」
「でしょ? とりあえず食べちゃいましょうか。でも、その前に飲み物取ってくるわね」
「りょーかい」
飲み物を貰い適当に座る。
そして買ってきたお菓子を取り出して、二つに分けて彼女に渡した。
「ありがと。あ、これ美味しい」
「そうだな。で、カステラは蜂蜜入ってるなこれ」
「そうなの? ちょっとくれない?」
「はいはい。じゃあ次は買ってきた地瓜球か、安定して美味いな、日本人にも合いそうだし」
初めて食ったが、美味い。旬ではないが、長期保存が可能だったはずだからサツマイモは売っているだろうし材料も揃えやすいはずだ。
「そういえば値段設定はどうする?」
「うーん、私はそこら辺詳しくないからお父さんに任せるわ」
それもそうだ。朝陽さんの値段設定はいつも適切だし、それなら彼に任せた方がいい。今回は祭りの手伝いで屋台を出すことになったが、宣伝もしていいと言うことなので協力はしてくれるだろう。
「あ、すまんちょと外出てくる」
急に文乃から電話がかかってきたので、俺は外に出る殊にした。
「分かったわ、私はもうちょっと食べてるわね」
「……ん、分かった」
俺の周りってやっぱり大食いが多いよな……彼女を見てそんな事を思った俺はそのまま一度部屋を出て行った。
――――――
――――
――
彼、燐が外に出ている間私は中華を食べ進め少ししたところで……。
「……はぁぁぁぁ――緊張するぅ」
溜め息を大きくついて、万感の思いを込めてそう言った。
顔が赤くなってないか、不自然な態度を取っていなかったか、声がうわずっていなかったか……そんな風に色々な心配が出てきて転がり回りたい。
「文乃が帰ってきたって聞いたから家誘ったけど、本当に来るなんて思えるわけないでしょ!」
あの鈍感男、本当にやだ。
どうしてこうも自然にやってくるの……そんな風に文句が溢れてくる。
本当になんなのだあの男は、デート誘っても照れずに乗ってくれるし、なんなら普通にデートしてしまったし! というか馬鹿なのか私は? 燐の優しさぐらい考慮しておけよ。
なんか恋人みたいなシチュエーションで、色々食べたけれど、今思うと本当に恥ずかしい。二つ買えばこんな思いしなかったのに……でも嬉しい。
「私、こんなにチョロくないのに。これもあいつが燐が悪い」
まだちょっとドキドキしてる。
燐と恋人っぽいイベントを経験しただけで心が落ち着かない。
「…………」
これあれかな、私が食べたのを自然に渡せば間接キスとかできたのかな? あの鈍感の事だし絶対に気付かないだろうから。
「……うぅ……うぅ……ぐぁむぅっうわぁぁぁぁああ」
馬鹿か、馬鹿だろ私! そんな事を考えるなよ、恥ずかしいよ。
……でもちょっとやってみたい。
ドン! っとそこまで考えた所で私は邪念を振り払う為に頭をテーブルにぶつけた。 痛い、あいつ本当に嫌い……じゃないけど。
「なんで、あんな奴に惚れたんだか」
自分で言ってみたが、理由は分かっている。
真っ直ぐなアイツに惚れたって事に。真っ直ぐで誰かの為に頑張れるアイツに惚れたって、それでいて頑張る姿に惹かれた事を。あと、私達にだけみせる弱い姿が可愛いし……。
「悪い、文乃からの電話だった」
「気にしないで」
とりあえず平常心を保つためにお茶を飲みながらも彼に対応する。
今飲んでいるお茶にはリラックス効果があり、今の状況に持ってこいだから。
静かに優雅に私が学校でも持たれている天使のイメージを保ちながら、私落ち着いてお茶を飲む。
「なぁ綾花、お前頭大丈夫か?」
「急に何? 大丈夫だけど」
まさか悶えているの見られていた? 終わり? もしかしてバレた?
軽い絶望、今まで絶対にバレないようにしていた思いがバレたかもしれないと思って私の血の気は引いていた。
「いや、赤くなってるからさ」
ぐいっと顔を近づけてくる。私の事を真っ直ぐと見つめてそう言ってくる燐……あまりにも距離が近すぎて仮面が剥がれそうになるけけど、なんとか平常心を保つ。
「ほらやっぱり赤い、ぶつけたのか?」
「あぁ、それね。ちょっと転んだだけだから心配しないで」
「するだろ、この短い時間に何があったんだよ」
「だから気にしないで」
なんで鈍感なくせにそういうのは気付くんだこの男は。
本当に嫌になる。ますます色々気になるし、こいつもう襲った方が楽なのではないかと思えてくる。嫌われるかもしれないからやらないけれど……。
「……分かったよ。あ、そうだバイト終わりに朝陽さんに言われたんだけどさ、なんかチャイナを楽しめって」
「……あの馬鹿父」
彼をオトすためにサプライズでやるから黙っていていって言ったのに、そもそも今日見せるつもりとかなかったのに!
でも、こうやって言われてのなら隠せないしもう見せるしか……。
「ちょっと待ってて」
「ん? 了解」
そうして別室に移動した私がクローゼットから出したのは、白いチャイナドレス。
屋台をやると決まった日に、母が丹精込めて作ったこの服。なんでこれ? とも思ったし、着なくては何も手伝わんと言ったあの馬鹿父は絞める。
だけど燐を驚かせるためにと了承した私も馬鹿。
露出とかないけれど、体のラインが出てかなり恥ずかしい。
だけど、もう後には引けないし。
こうなったら自棄だ。絶対可愛いって言わせてやる。
◆ ◆ ◆
なんか、頭をぶつけたらしい綾花に朝陽さんから告げられたことを言ってみれば、何故か別室に行ってしまった。手当でもするのか? とか思ってると、扉が開く。
「何してた――は?」
そして入ってきた綾花はまったく見覚えのない……というか見慣れない格好で出てきた。
「はって何? 感想は?」
長い黒髪を二つのお団子状にまとめた髪型、短めの裾に足を美しく見せるためのスリット、お腹などの上部に張り付くようなデザインに花柄の刺繍。
彼女、月影綾花は何故か白いチャイナドレスを着ていた。
……どういう?
え、なんだドッキリ? 和也あたりの仕業でどこかにカメラとかある感じか?
いや、分からないこの如月燐の頭脳を持ってしても何も分からない。とりあえず分かることは、めっちゃ似合ってて可愛い――じゃなくて。
「…………」
「黙ってないで何か言って、恥ずかしいんだから」
「撮っていいか?」
「絶対駄目!」
――とりあえずスマホを取り出して写真を撮っておいた。
「駄目って言ったでしょ⁉」
「いや勿体ないだろ」
焦る綾花に真顔で答える。
前の文乃と同じで、原作にない差分。
こんなの原作のどのシーンでも見たことのない衣装だし、保存しなくては読者失格である。
「とりあえず、和也と藍に……」
「待って、本当に待ってよ絶対誰にも見せないで、というか消して!」
「むぅ、分かった」
誰にも見せなければ大丈夫。
そう思って消したフリをした俺は、大事にこの写真を残すことにした。
「やっぱり無理、恥ずかしいし着替えてくる!」
「いや、もうちょっと着ててくれ堪能したい」
すぐ着替えるなんて勿体ない。というか、綾花のチャイナ服とか絶対前世でみた奴とかいないから堪能したい。
「燐……もしかしてチャイナドレス好きなの?」
「好きというか、お前のだから見たい。可愛いし似合ってるから」
町中でチャイナドレスを着ている奴を見ても俺は同じ反応はしないだろう。
俺は文乃が一番の推しキャラだが漫画事態のファンなのだ。だから登場キャラは全員好きであり、綾花も好きなヒロインの一人。
「……着替える」
「そんな殺生な」
とても短かったが、それで鑑賞会は終了。
数分で元の服に着替えてしまった綾花が戻ってきた……めっちゃ勿体ないが、写真は残しているのでたまに見よう。
「というか、なんでチャイナドレス?」
「お父さんが、屋台出すなら着ろって」
「朝陽さんらしいな」
「嫌だったけど、着なきゃ手伝わないって」
「……朝陽さんらしいな」
イベント大好きでカフェでも今度メイド服イベントを企画している彼らしい。
というか、そうって事は売り子をこれでやるのか? ……そうなると、俺はかなりの時間一緒にいるし、あの服装を長く見られるのか。
役得……というか役得すぎるような。
「とにかく、作るのは決まったし今日は帰って……またバイトで」
「ん……了解、屋台頑張ろうな」
「うん、じゃあまたね」
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