第13話:不安な一日
試験当日、俺は緊張しながら家で過ごしていた。
よくよく考えれば、文乃が受からなかったら原作終わるくないか? という思いが溢れてきて一切落ち着けない。原作通りなら九月に編入できるから問題ないと思うが、この世に絶対はないのだ。
でも、大丈夫なはずだ。
ここ五日の間俺も出来る限り手伝ったし作った仮テストも全問正解するレベルまで文乃は頑張ったから。
面接の練習もしたし……必要な作文も何回か一緒に書いた。
……でも不安だ。
「あー落ち着かねぇー」
とりあえず買い出しだ。
今日は藍が来る日でもあるし何より遅いかもしれないが文乃にカツ丼を作りたい。
昼ご飯はめんどいから藍に任せるが、夜は労いを込めて作りたいし。
そんなこんなで買い出しに行き、豚肉を買った俺は家に帰った。
「どしたの燐? なんか落ち着けてないけど」
「藍、もう来てたのか悪いな」
「全然、さっき来たとこだし待ってないよ」
家に戻ると玄関前には藍がいた。
その手には荷物の入ったエコバッグ。買ったばかりの食材が入っていて、俺と似たような格好だ。はみ出た中身を見るにカレーでも作るのだろうか?
「今開けるから待ってろ」
「はーい。あ、そうだインターホン鳴らしても誰も出なかったんだけど、文乃ちゃんは?」
「編入試験中、だから今いないんだよ」
「え、どこの学校!」
「水無月、俺等と同じだ」
家に入りながらそう伝えると、藍は荷物を置いた後で喜び始めた。
彼女と文乃は仲良いし、一緒に通えるというのが嬉しいんだろう。まだ受かったと決まったわけではないし、今日が終わっても通知が来るのは後なので早い気がするが……。
「というか、燐はなんで買い出し行ったの? 今日私が来るって知ってたでしょ?」
「……文乃にカツ丼作りたくて」
「なるほどねぇ。ふふ、今日作るのはカレーだし、夜はカツカレーにしたら?」
「お、いいなそれ!」
確かにカツカレーなら喜んでくれるだろう。何より文乃ってカレー好きだし、それにカツが乗れば最強だ。そうと決まったので多めのカレーを藍と作る事にした。
「相変わらず手際いいね」
「まあな。あ、電子レンジ使うわ」
「お願い」
刻んだ玉葱を俺は電子レンジに入れて、飴色玉葱を作るため時短する。こういう時短って結構大事だし、文明の利器は使ってなんぼであるからだ。
米を炊く藍を横目に俺は肉も切っていき、彼女に炒めるのを任せる。
そのままカレールーの箱の手順に従って料理を作っていく。隠し味を入れながらも三十分後ぐらいにはカレーが完成して、テーブルに料理が並んだ。
カレーの他には藍お手製の福神漬けやらっきょうが並び、他にも何個かの副菜が。
「いただきます」
「あたしも食べるね」
という事で今日の昼ご飯はカレーとなり、藍と一緒に食べることになった。
作り方を間違えなければ不味くなることがないカレー。俺と藍の腕も相まってかなり美味しく仕上がった。
隠し味のビターチョコもいい味出しているし、かなり美味しい。
「文乃ちゃんはいつ帰ってくるの? 出来れば会いたいな」
「三時とか四時じゃないか?」
「えーあたし帰っちゃうじゃん」
「別にいればいいだろ?」
「今日はママ達と出かけるんだー」
「あーなら仕方ない。また今度来てくれ」
はーいと言いながらカレーを食べ進める藍を横目に、俺は完食しそのまま皿洗いを始めようとした。
「燐は休んでて、あたし今日仕事少ないから皿洗いぐらいはやるよ」
「あいよ、なら任せるわ」
そういうことになったので自室に戻って俺は、休むことにした。今日一日中悩んでいて疲れたし、気負いすぎても意味ないからだ。
「そろそろ帰るねー」
「了解、ちょっと待ってろ」
下から声をかけられて彼女を見送ることにして、俺はそのままリビングに戻った。
リビングのテーブルには端っこにまとめられたテスト用紙がまとめられている。それを広げて俺は、少し笑みを浮かべた。
これは文乃が頑張った証しであるからだ。
「受かるといいなぁ……一緒に通いたいし」
推しとの学園生活、嫌われること壁になることを目標にしてるが、やっぱり楽しみで……新学期が待ち遠しくて仕方ない。
主人公も来るし、何より原作の始まりなのだ。
気は抜けない。これまでも頑張ってきた――絶対に文乃に幸せになって貰うんだ。
「ふぁ……少し眠いな」
テストを脇に置き、俺はそのままうつ伏せになって寝始める。
ここ最近は気張ってばっかりだったし、たまにはゆっくりしよう。
それに明日はバイト、少し気張らないこと外面維持が大変だ。
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