第11話:夕食は二人で

 リビングには包丁の音が響いている。

 機嫌を直すためにも美味しいモノをと思って作り始めたのはいいが、俺も文乃も互いに顔を合わせられなかった。

 凄く居心地が悪く、何かしないと爆発しそう。

 文乃を見ると顔を逸らされるし、何より俺自身さっきの寝顔を思い出してしまうのでとてつもなく気まずい。

 料理を作り終えた頃にはいつも通りになればいいなと思いながらも進めていき、完成したところでテーブルに並べる。


「……これで機嫌直してくれ」

「……悪くしてはいません。ただ寝顔を兄様には見られたくなかっただけですから、寝相も私は悪いです……それに可愛くないですもん」

「は? 可愛いだろ」


 文乃は何を言っている? あれは正直写真に収めたいと思うほどには可愛かったし、何より猫っぽくて最高だった。正直言えばもっと観察していたかったし、見れただけで儲けもの。

 原作でのお泊まり会でしか見たことない寝顔だったし、実物の破壊力とか半端なかった。

 こいつまじで一回自分が可愛いことを自覚して欲しいのだが? と少しキレ気味にそう言ったのだが、文乃はなんか見たことのない表情を浮かべてから無言で料理を食べ始めた。


「……兄様はホントに駄目です。藍さんの言った通りダメダメです」 


 暫く食べたところで急に罵倒してくる我が妹、理由は分からないが馬鹿にされているのは分かるので、俺も言葉を返す。


「言っとくが、お前も自覚しろよ可愛いんだから」

「ブーメランって知ってます?」

「お前もな」


 不毛な気がするが、彼女には一度自覚させないといけない。

 そもそも海外でも言われ慣れているだろうし、なんでこいつは自分が可愛いことを理解しないんだ?


「とにかく、お前学校通ったら大変だろうし今のうちに自覚しとけ」

「……別にそれは気になりません」


 いや、絶対に大変だ。だって彼女はこの先運命の出会いをするんだから、それに彼女は原作主人公に惚れるし何より物語が始まれば心なんて安まらない。

 というか、自分が可愛いと自覚している女子は最強だから強くなるために自覚して欲しい。


「……兄様、嫌いです」

「まじか!」


 よっしゃ、これで目標に一歩近付いたぞ!

 ……と思ったが、予想以上にダメージがでかかったので、顔には出さないが心が痛かった。 慣れなければいけないのは分かるが……この先どんどん嫌われなくてはいけないので、頑張ろう。


「……馬鹿兄様」

「何とでも言え。お前に嫌われても――」


 問題ない。そう続けようとしたが、何故か言葉が出てこなかった。

 なんでだ? 俺は嫌われる必要があるのに……。

 そんな事を思いながらも、それでも「ごちそうさま」と言ってくれる感謝しながら、今日は解散して各自部屋に戻っていった。

 今日は色々な収穫を得た一日だ。

 嫌われることも出来たし、彼女の可愛い一面も沢山見れた。

 まぁ、雷が怖いのは初めて知ったしからかいすぎたのは反省するが……。

 で、そこで思い出したんだが、文乃には聞かないといけない事があったのだ。

 家に居るが、別れた手前態々呼ぶのも悪いので、無駄かもしれないが通話をかける。


「急に悪いが文乃、お前って今度の花火大会行くのか?」

「花火大会……ですか? 藍さんに誘われてますが」

「よかった。それならそこで飯食ってきてくれ」

「なんでですか?」

「バイト先が屋台出すから、その手伝いでその日は家にいないんだよ。飯作るの面倒くさいから出来れば食ってきてくれ」


 出し物としてはスイーツで、花火大会がある一日中作り続けるから本当に大変なのだ。流石の俺でもその後に夕飯を作る体力はないのでそう言った。


「了解しました。休みとかはあるんですか?」

「一応休憩時間はあるが……どうした?」

「あ、それなら一緒にお祭り回りませんか?」

「いいけど、邪魔じゃないか?」

「邪魔なわけないでしょう」


 それならいいか……そう思った俺は「了解」とだけ告げて、その電話を切った。

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