第4話:相合い傘は恥ずかしい
藍は可愛いモノに目がない。
それが人であれ動物であれ、ものであれ……まあ分かりやすく言えば、超絶美人の文乃を藍に見せれば……。
「何この子すっごい美人! 肌白! 顔小さい、髪綺麗! 燐、この子知り合い⁉」
こうなるって訳だ。
「あの兄様……この方は?」
「ハウスキーパーの青柳藍。で、こいつは……妹の文乃だ」
「燐に妹がいたなんて初耳なんだけど」
そりゃ言っていなかったし、文乃が家に来た時点でこうなるって分かっていたから。だけどいざ目の前にするとやっぱり少し面倒くさい。
「なんで教えてくれなかったの?」
「言う必要なかったし、帰ってくるって知らなかったから」
実際今日彼女が来るって伝えられたし、マジで連絡する暇はなかったと弁解しておく。
「ふーん……ねぇねぇ、文乃ちゃん。よかったら連絡先交換しようよ!」
「……いい、ですよ。こっちに来て交換するのは初めてですね」
「やったー! 文乃ちゃんの初めてゲット」
「お前、言い方」
もうちょっと他にあっただろとツッコむが、彼女は気にしてないのかこう続けた。
「だってそうじゃん。それよりさ、まさか燐がやる気出したのってこの子のおかげ?」
「黙秘権」
「それ、悪い癖だよ」
「いいだろ別に」
確かによくこの言葉は使うが、便利なのだから仕方ない。というか言う程使っているか?
……思い返してみたら結構使っている事を思い出して、ちょっと複雑な気分になった。
「いいなぁー燐、こんな可愛い妹いて」
「そうか?」
「だって、こんなの天使じゃん! めっちゃ美人だし、あたしが男だったら惚れてたね。もしかして燐は可愛いって思わないの?」
「いや、文乃は可愛いぞ?」
「でしょ、本当に羨ましいなー」
まあ、それは否定する事ではないよな。実際見惚れるぐらいには綺麗だし可愛い。
ふと、文乃の方を見てみる。目の前のギャルのテンションに押されていないか心配になったからだ。唖然としてないかとか思って彼女の方を見てみれば、文乃の顔は赤かった。
「……大丈夫か文乃?」
「はい、大丈夫……です」
「ならいいが、藍もあんまり構うなよ、文乃が困る」
「えぇーもっと喋りたい」
「いいから、とにかくそろそろ俺達は帰るわ、今日の料理は時間かかるからな」
スマホを確認してみれば、今の時間は八時ぐらい。このままだと料理の時間を考えれば九時過ぎてしまうし、早く帰らないと不味い。
「しょうがないなぁ、じゃあ今度行った時遊ばせてね、文乃ちゃんもそれでいい?」
「別に構いませんよ」
「やった、言質は取ったよ」
「お前なぁ、とにかくまたな藍。また週末」
「そうだね、じゃあバイバイ二人とも」
そうやって彼女と別れた後会計を済ませていると、外から雨音がし始めた。
夕立みたいだ。それも結構強くて暫くは止みそうにない。
今回買った食材は、海鮮や生ものが多く、はやく冷蔵庫に入れなければ悪くなるだろう。
「悪い文乃、ちょっとスーパーで待っててくれ」
「どうしてですか、兄様?」
「いや、ちょっとコンビにまで走ってくる」
説明不足になったが、食材を悪くすることは出来ないので早く帰りたい。
ここのスーパーには傘が売っていないみたいだし、コンビにまで行くしかないと思った俺は、文乃にそう告げ、スーパーから出て行った。
これなら天気予報を確認しておけばと後悔しながら辿り着いたコンビニに残っていた傘は一本。二本あればよかったと思いつつ、無い物ねだりしても仕方ないのでそれを買って急いでスーパーに戻る。
「待たせて悪いな文乃」
「いえ、それより兄様は大丈夫ですか?」
「平気だ。このぐらいで風邪引くなんて事はないだろ」
「……そうですか、なら帰りましょうか」
「荷物は持たせろ」
重い荷物は俺が持ち、傘を文乃に持って貰ったところで気付いてしまったのだが、これ相合い傘じゃね?
「そういえば兄様、お付き合いされてる方とかおられるんですか?」
何話そう――というか、この状況はなんだ? という思考に陥りかけていた時に、文乃にそんな事を聞かれた。
「……急になんだよ?」
「少し興味がありまして、先程の方と仲が良さそうでしたし……」
「藍とは何もない、ただの友人だ。というかそういうお前こそ、彼氏とか出来たのか?」
文乃に聞かれ、そういえば聞いていなかったなと思って、俺はそんな質問を返した。
理由としてはもう付き合っている奴がいるのならそいつは海外の奴だろうし、離れて大変だと思ったから。それに、それで文乃が幸せなら俺はもう何もする必要がなく、応援すればいいだけだから。
「いえ、お付き合いさせて貰ってる方はいませんね。というか急ですね」
「いや気になってな、それより良かった」
これなら九月にやってくる主人公ともくっつけやすい。
でも本当に良かった。
贔屓目無しに文乃は美少女だし、原作通りなら文武両道才色兼備&性格もいいという最強のキャラ。俺も兄でなければ告っていたし、何より世の男性が放って置くはずがないと思っていたから、正直恋人の一人や二人作ってると思ってた。
これなら俺の目標も達成しやすいだろうし、何よりこれまでの頑張りが無駄にならなくてすむ。とりあえずそれなら、モチベも維持できるし、何よりこれからも頑張れそうだ。
「よかったとは?」
「いや単にそう思っただけだが」
「何故か聞いてもいいですか?」
「すまん……言えない」
「どうしてでしょうか?」
なんでこんなにぐいぐい来るんだよ。
文乃はそういうキャラではなかっただろ……そう思うも文乃からは聞かせろみたいなオーラを感じてしまい逃げられそうにない。だからここは惨めになるが、こう言って誤魔化そう。
「俺も彼女がいないからな、負けてないと思って安心したんだよ」
言って思ったがかなりダサいな。
二度とこの誤魔化し方はしないようにしよう。
「恋愛に勝ち負けもないと思いますが」
「いいから、俺にとっては大事なんだよ」
「……はい、じゃあそういう事にしておきます――そっか兄様に彼女いないんだ」
「お前、それを繰り返すのは酷いだろ」
「聞こえてましたか」
「絶対聞こえる声量だったぞ」
「気にしないでください。それより兄様、濡れるので近くに来て下さい」
「……悪い」
意識すると不味いので少し離れたのだが、その途端に釘を刺される。
流石に恥ずかしいので顔が熱くなっていくのを感じるが、それでも平常心を保ちたかった。だけど、傘に当たる雨音や近いせいで聞こえる吐息などが……。
「兄様、離れないようにして下さい」
「だから悪いって」
本当に生きた心地がしない。
なんでこんなイベントが俺に起きるんだよ、せめてそういうのは原作主人公であるあいつに取っておいてくれ。
そんな事を切に思いながらも、無事に家に帰ることが出来た。
かなり濡れてしまったが、まあいいだろの精神で食事の準備をして予定通り飯を作り、相変わらずだが三人前はある料理を完食する文乃に恐怖を覚えながらその日は寝ることにした
「はくしゅっ……なんか寒いな」
まあ大丈夫だろう、と思いつつそのまま俺は意識を落とした。
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