第1話
T.Mチャンネル。
これは僕がやっているYoutubeのアカウントだ。中学生の頃にYoutubeで動画を見て、自分でもやってみたいというのがきっかけで始めることになった。当時は中学生だったのもあって声を出さずにゲームを実況する。合成音声を利用した編集方法で動画を投稿していた。
最初の頃はうまく編集できなかったが、やっていくうちに段々と技術を身に着けて、現在登録者数は50万人まで達した。
中学を卒業した後は、東京に憧れていたのもあって上京し一人暮らしをすることになった。一人暮らし用のマンションを探して、家賃等はYoutubeの収益で賄うことにしている。
「とりあえず、こんなものか」
引っ越しも終わり、1LDKの部屋に住むことになった。高校生にしては広すぎるかもしれないがそれぐらい稼げてしまうのがYoutuberというものだ。
「そういえば、今日は雨音リズの1周年記念ライブがあるんだっけ」
去年の4月にデビューしたばかりだが、もう登録者数は90万人近くになっている。聴き手を魅了する歌声と、楽しいトークで、瞬く間に人気者になった。
そんな雨音の1周年記念ライブが今夜行われる。パソコンの前で、ライブ開始の時間を今か今かと待っていた。
そのとき、隣の部屋から声が聞こえてきた。
「こん……は~! ……配信……よ~! み……よろ……ね!」
引っ越してきて数日経つが、隣の部屋に誰が住んでいるのかは、まだ知らない。
でも、女の子の声だな。しかも結構大きな声だ。
その声は、少し途切れ途切れに聞こえてくる。壁を通して漏れ聞こえてくるせいで集中が乱れそうになるが、雨音のライブに気持ちを戻そうとする。
しかし、隣の部屋からの声は止む気配がない。
「……って! ……聞こえ……うし……!」
声のボリュームが、少しずつ大きくなっているようだ。
思わず立ち上がり、部屋を出て隣の部屋の玄関に向かう。インターフォンを押し、中の人が出てくるのを待つ。
「すみません、ちょっと声が大きいんですけど……」
ドアが開き、金髪の女の子が顔を出した。部屋着とはいえ、薄手のタンクトップ姿で現れた彼女に、思わず目をそらしてしまう。
「あっ、ごめんなさい! わたし、初めての……えっと、初めての挑戦でつい興奮しちゃって。これからは気をつけます!」
にこやかに答える彼女に、苛立ちも少し和らいだ。部屋に戻り、再び雨音のライブに集中する。
……なんとか最後まで楽しむことができた。隣の部屋からの声は、さっきほど気にならなくなっていた。
次の日の朝。
高校の入学式に向かおうと部屋を出ると、隣の部屋からも誰かが出てきた。
昨日のあの子だ。なんと、僕と同じ高校の制服を着ているじゃないか。
「おはよう。昨日はごめんね、騒がしくして。私、
笑顔で挨拶してくる彼女。なんだか惹かれる雰囲気がある。
「
そう言って、僕も笑顔で返した。
「ちょっと、忘れ物があるから戻るね」
別に忘れ物もないが、ここで一緒に登校するのは気が引ける。
雨宮が先に登校していくのを玄関前で待っているのが……一向に登校しようとしない……。
もしかして待っているのか……?
このまま待っていても遅刻する時間になってしまうし、仕方がない。外に出るしかないか。
「なんで、まだここにいるの?」
何も知らない素振りでそう聞いてみる。
「同じ制服だったから、同じ高校の人だよね……?」
「だからって、待ってることはないんじゃない?」
僕はそう言って、足早に歩き出した。しかし、雨宮は諦めずについてくる。
「ねえ、せっかく同じ高校なんだし、仲良くしようよ」
彼女は笑顔で言う。その笑顔に、僕は思わず足を止めてしまった。
「仲良く、ね……」
僕は少し困ったように呟く。確かに、同じ高校に通うことになるのだから、仲良くするのは自然なことなのかもしれない。
「まぁ、これも何かの縁だし一緒に登校しない?」
雨宮が再び誘ってくる。彼女の前向きな態度に、僕は少し引っ張られる気がした。
「……わかったよ。でも、あまり目立つようなことはしないでくれよ」
僕はそう言って、再び歩き出す。雨宮は嬉しそうに微笑み、僕に並んで歩いてくる。
「いや、君と一緒にいると目立ちそうだし……」
僕はそっぽを向いて、そう呟いた。
二人で並んで歩いていると、周りの視線が気になる。特に男子から好奇の目で見られているのが分かる。
「ほら、やっぱり目立ってるじゃないか」
「気にしない、気にしない。それより、昨日はごめんね。騒がしくしちゃって」
「それはもういいんだけど、昨日は何してたの?」
「いやぁ~、昨日はちょっと……」
「別に言えないことなら深く詮索するつもりはないよ」
「そういうわけじゃあないんだけど……」
少しの沈黙の後、雨宮は口を開いた。
「あのさ、実は昨日、私、Vtuberデビューしたんだ」
彼女は小さな声で告白する。
「Vtuber?」
僕は驚いて、彼女を見る。
「うん。前からやってみたかったんだ。でも、まだ全然上手くいかなくて……」
雨宮は恥ずかしそうに頬を掻く。
「だから、昨日は配信の練習してたんだ。ついつい大きな声出しちゃって、ごめんね」
彼女は申し訳なさそうに言う。
「別に言えないことなら深く詮索するつもりはないよ」
僕はそう言って、彼女を安心させるように微笑む。
「そっか、Vtuberか。意外だな」
「意外? どういう意味?」
雨宮が不思議そうに聞き返す。
「いや、なんていうか、雨宮さんがVtuberをやるイメージがなかったから」
「そう? 私、意外とゲームとか好きなんだよ。だから、Vtuberに憧れてたんだ」
雨宮は嬉しそうに語る。彼女の新しい一面を知った気がして、僕は少し興味を持った。
「応援してるよ。雨宮さんのVtuber活動」
「ホント? ありがとう! これからも頑張るね!」
雨宮は元気よく宣言する。僕も思わず笑みがこぼれる。
そんな会話をしながら、二人は学校に到着した。
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