第15話 そうか、そういうことか────
俺は婿という名目で、人質になることに決まった。
その為、敵国の支配する城塞都市、ベリルブルグにやって来ている。
そしてこれから、この都市の最高権力者──
結婚相手のテレサブードに謁見するところだ。
従者として付いて来ているレキは、控えの間でお留守番だ。
俺は一人で、領主に謁見しなければならない。
────心細い。
俺がおっさんではなくギャルであれば、思わず『ぴえん』とか言ってしまいそうだ。……いや、彼女たちも実際にそんな単語を、口にすることはないか──
試しに、言ってみよう。
「……ぴえん」
監視として俺に随伴している兵士が、不可解なものを見る目で、俺を見ている。
……俺の泣きたい心情が、伝わっているようには見えない。
…………。
……。
城塞都市と呼ばれているベリルブルグは、交通の要所にある。
防御力が高く、その名の示す通り、周囲を強固な壁で囲われている。
昔は辺鄙な田舎だったらしい──
だが、この都市の北にある漁村に、大陸の東から海を渡って交易船が来るようになり、この地の重要度が一変した。
交易品が港湾から、西側大陸各地へと運ばれる中継地点として、田舎町は発展した、そして、瞬く間に都市になった。
都市の支配権をめぐった争いが絶えず起こり、周囲を囲む壁も高く頑丈になる。
今この都市を支配しているのは聖ガルドルム帝国で、領主はテレサブードという三十八歳の女傑だ。
元は帝国の子爵家の令嬢だったらしいが、戦場で武功を上げて伯爵に成り上がり、この重要な都市を任されるまでになったそうだ。
戦場を駆け、実力で成り上がる女騎士──
……正直、好みだ。
ちょっと年増だが、こっちは四十六歳だ。
気にするほどでもない。
それに俺の目的は、権力を持った女のヒモになって、のんびり暮らすことだ。
そういった意味で言えば、俺以外に四人の婿を娶っているテレサブードは、理想の結婚相手と言える。
理想の結婚生活が、この先待っているはず、だったのだが──
……俺はこの都市で、早速、死ぬことになる。
俺以外の四人の婿に、殺されることになるらしい──
たぶん政治的な理由で、殺されるのだと、予想していたのだが──
……。
…………。
俺以外に、四人の婿か……。
──ふむ。
ひょっとして俺は、ラブ・アローを使わないのか?
魅了魔法を使ってしまえば、テレサブードが俺を必要以上に愛してしまう。
そうなれば、他の四人の婿は面白くないだろう。
そこに気付いた俺が、当初の予定を変更し……理想的な結婚生活を壊したくないという配慮から、ラブ・アローの使用を控える────。
その結果、テレサブードの庇護を受けることの出来ない俺は、さらなる戦争を望むガルドルム帝国の意向で、殺されることになる……。という筋書きか────
なんとなく見えてきた。
スキル・予定表によって予知された、俺が死ぬ未来──
何故そういう結末になるのか、おおよその見当がついた。
「……ふぅ」
俺は、胸をなでおろす。
死を回避するには、最初の予定通り────
テレサブードにラブ・アローを撃ち込めばいい。
その上で、他の婿たちから嫉妬されない様に、テレサブードに言い含めてバランスを取るのだ。
よし、これでいこう。
俺はこの都市での方針を固めた。
目の前に扉が、使用人によって開けられる。
俺は顔を上げて、テレサブードに謁見する為に、彼女の待つ部屋の中へと進む。
そして──
立派な椅子にドシリと座る、ヒキガエルのような体格の巨大生物と対面した。
彼女の座る椅子は、玉座を模倣してしつらえられているようだ。
部屋の調度品も、豪華で高級な物ばかりだった。
────彼女の上昇志向の表れだろう。
巨大生物は俺の姿を見るなり、顔をあからさまに歪める。
「────こいつが、デリル・グレイゴールかい……? 話が違うじゃないか──デリルは辺境伯領で一番の、美少年だって触れ込みだったよな……ええ、おいっ!!」
テレサブードは隣に控えている、執事らしき男性に向かって怒鳴っている。
────俺のことは、完全に無視だ。
あの女のセリフから察するに、デリル・グレイゴールは『美少年』という設定で、政略結婚の相手として、差し出されたのだろう……。
……………………。
────何やってんの? 親父!?
どうやら親父の奴は、どうしても俺を殺したいらしい。
…………いや、それだけじゃ済まないだろ。
どう考えても、停戦合意を破棄されるよな……。
これ──
停戦がご破算になれば、残りのグレイゴール領もヤバくなるじゃん…………。
──親父は阿保なの?
もうすでにボケていて、まともな判断能力が無いんじゃないか……?
……。
…………。
領主に定年制を導入したほうがいい。
いい加減……死にかけの老人に、権力を与え続けるは止めようよ。
──日本じゃあるまいしさ。
その辺は、変えていかなきゃダメだよね。
俺が領地の未来を憂いて、政治制度を考えている間も──
テレサブードは、怒り続けていた。
「オレ好みの美少年を寄こすっつーから、手を引いてやったっていうのに、こんな生ゴミを寄こしやがって……糞がッ!!」
…………生ごみ。
散々な言われようだが、奴の言うことに異論はない──
敗戦国から美少年が送られてくると、わくわくしながら待っていたところに、現れたのが俺なのだ。
怒るのも無理はない。
怒りに震える女の前で、俺は所在なく立っている。
『ごめんなさい』と言って、謝りたい。
──いたたまれない気分だ。
テレサブードは足を組み直して、椅子に座りながら尻をこちらに向ける。
変な座り方をするなぁー、とボンヤリとそれを眺めていると──
彼女は──
ぶっ~~……ぶぼぼおっ!! ぶぶぶうブッ~~~~~!!!!!!
俺に向けて、盛大に屁をこいた。
屁をこき終えたテレサブードは、俺を横目で睨みながら、鋭く──
「──チェンジ!」
と言い放つ。
俺と彼女の間は結構な距離があったが、据えた悪臭が漂ってくる……。
あの放屁は彼女なりの、不満の表明だったようだ。
俺は交代を要求された。
「畏まりました。……では、あの者は、如何なさいますか?」
「あんな不細工──すぐにでもオレの領地から追い出したいところだけれど……グレイゴールの爺が代わりの美少年を寄こすまでは、牢屋にでも閉じ込めておけ」
テレサブードから指示を受けた執事は、恭しく頭を下げて『仰せのままに』と言った。俺はこれから、牢屋に入れられることになるようだ。
なるほど……
こういうことか────
この流れなら、俺はテレサブードにラブ・アローを使わない。
暫くは牢屋暮らしになるとしても、代わりの生贄と交代で家に帰れる。
それなら、余計なことはしないだろう。
彼女は……敢えて配下に加えたい人材でもないしな──
だが、ここで俺がラブ・アローを使わないと、数日以内に死ぬことになる。
スパイ容疑をかけられて、拷問されて殺される。
──テレサブードはすでに、そのつもりだ。
人質を交換しろと言っているのは、俺を安心させ『暴発』させない為の、『配慮』だろう──
この世界の貴族の血筋の者は、魔法が使える。
デリル・グレイゴールも、貴族の血筋の者だ。
テレサブードは、デリルも何らかの魔法を使えると思っているだろう。
────実際は、魔法を使えない木偶の棒だが、そこまでの情報をテレサブードは持っていないようだ。
美少年だと言われて、騙されていたぐらいだしな。
ここで俺を処刑すると言って追い詰めてしまえば、死に物狂いで反撃されるかもしれない。彼女はそう考えたのだろう。
だから、俺を油断させておいて、身体の自由を奪ってから殺す気でいる。
────俺はスキル魔力隠蔽を使い、テレサブートと執事に気付かれない様に、ラブ・アローを発動する。
発射!!
どひゅっ!!!
俺の放った魔法の矢は、テレサブードの心臓を射抜いた。
使いたくは無かったが──
仕方あるまい。
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名前
デリル・グレイゴール
武力 50
知力 18
統率力 4
生命力 70/70
魔力 5900000 /8900000
カリスマ 0
スキル
予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化
魔力隠蔽 ステ振り テレパシー
忠誠心(限界突破)
レキ ンーゴ レガロ ギリィ ミリーナ シルヴィア
エレーヌ クロエ テレサブード
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