第12話 親父の策略

 俺は喜んだ。

 ライドロース地方の領主になれる。


 辺境伯の五男に生まれ、ろくに努力も研鑽も積まずに生きてきた。

 それが、デリル・グレイゴールだ。

 ──そんなデリルが役職を与えられたり、ましてや領地を任されることなど無いだろうと、最初から諦めていた。


 だが、こんな幸運が舞い込んでくるとは……。

 ……驚きだ。



 いや、驚くことでもないか──

 何か参考になるかもしれないと残しておいた、前世で見たアニメの記憶によると、異世界転生した主人公は、やることなす事、とんとん拍子に上手くいく展開のものが多かった。

 異世界に転生したら、それが普通なんだ。



 流石に辺境伯は継げないだろうが、自分の領土を持てるなら上出来である。


 俺としては、それで満足だ。

 ──これで一生働かずに、遊んで暮らせるぜ!!



 俺は自室へと戻り、質の良い革張りのソファに腰を沈めくつろぐ。


 ────良い気分だ。

 俺は自然と、笑みを浮かべる。


 すると、側に控えていた少女奴隷のレキが──『流石です、デリル様』と言って、屈託のない笑顔で祝福してくれた。


 俺を慕う少女にそう言われ、ますます良い気分になる。



 しかし、レキは続けて──


「あの男の悪意に、即座に気付くとは……。あの者は何やら、デリル様に対して良からぬ計画を立てている様子でした……」

 と、言ってくる。


 ──えっ? そうなの?


 俺にはレキが、何を言っているのか分からない……。

 だが、正直にそう言う訳にもいかない。


「お前も、気付いたか……」

 俺は適当に、話を合わせる。


「はい、デリル様のお父上は明確な悪意を持って、この度の沙汰を下しています」


 そうなんだ。

 まったく、気付かなかった。


 ──どういうことだ。

 親父の悪意って、何よ……?


 レキの勘違いじゃないの──?


「デリル様はそれに気付き、あの男を始末しようと、算段しておられたのでしょう? それで、あの──全てを見透かし、身内であろうと容赦なく報復する。──そのような笑みを、浮かべておられたのですね」


 えっ?

 なに、それ……?


 俺は普通に喜んで、ニッコリしていただけなんだけど──

 領地を貰えるぞー、やったぁ、って……。



「う、うむ、その通りだ。レキよ。よくぞ見抜いた──」


 ──取り敢えず俺は、知ったかぶりで話を合わせ続ける。


「……やはり、流石です! デリル様!!」


 何だか知らんが、褒められた。

 

 俺は全く話についていけていない。

 親父は何を企んでいるんだ──?


 俺はその報復で、親父を殺そうと算段しているらしい。

 ────それは流石に駄目だろう。





 いや、待てよ……。

 親父を殺せば、辺境伯の地位が手に入るかもしれない。


 ……レキに頼めばやってくれそうだ。

 この話の流れに乗っかるか?


 ────いやいやいや、駄目だ。

 親父を殺しても、跡継ぎは二男のアドルドだ。


 そもそも、親父を殺す理由が分からない。



 分からないのであれば、人に聞けばいいのだが──

 レキは俺に対し、尊敬の眼差しを向けてくるばかりで、解説しそうにない。


 今更、教えてくれとも言いにくい──

 なんだか、聞きにくい雰囲気だ。


 う~ん、どうしよう?





「今からでも、あの男を始末してきていいでしょうか? デリル様」

 暗殺でしたら、私が請け負います。

 ────とレキが進言してきた。


 彼女は、親父を殺る気満々でいる。




 マジで、どうしよう────


 いくら何でも、事情もよく分からないままに、自分の父親を殺すのは無しだろう。


「待て、レキよ──この俺に少し考えがある。メイド長のエレーヌを呼べ!!」


 俺は偉そうにソファに座ったまま── 

 顔に添えていた手で格好いいポーズをつけながら、したり顔でそう命じた。






 コン、コン、コン、コン……。


「失礼いたします。お呼びでしょうか? デリル様──」


「ラブ・アロー!!」



 ドヒュッ!!!!




 俺の部屋へと訪れたメイド長のエレーヌに、ラブ・アローを撃ち込んだ。

 エレーヌの俺に対する好感度は、限界突破だ。


 ソファに重々しく座る俺の目の前で、エレーヌは跪いている。




「エレーヌよ。此度の親父殿の企み、其方の口から申してみよ」


 エレーヌは微かに震えながら、俺に事の真相を語り出す。


「はい、我が主──デリル様。お父上の目的は、第一にデリル様を自分の周囲から遠ざけること、第二にライドロース地方の継承に手間取るようであれば、それを口実にデリル様を処罰なさるおつもりでございます」


 ふむ……。

 ──継承に手間取る?


 領地に行けば、すぐに領主として、ふんぞり返れるんじゃないのか??

 ──ちょっと聞いてみよう。


「この俺が、領地の掌握に手こずるとでも──?」


「お父上はダルグース様に、領主の交代を伝えてません。この先も──伝える気がありません。デリル様とダルグース様の間で、諍いを起こそうと企んでいます」



 ──なるほど、そういう企みがあったのか。


 ダルグースというのは、現在のライドロース地方の領主だ。

 代々ライドロースを治めている家の当主で、俺の姉が嫁いだ先でもある。




 レキが怖くて自分では手出しできないから、他の奴と俺を喧嘩させて、そいつに俺を始末させる気なんだ。


 親父は筋金入りの貴族だから、回りくどい真似をする。



 俺がライドロースの新領主になる正式な手続きがないままに、のこのこ出向いて行って、『今日から俺が──この地の領主だ』と主張すれば、間違いなく叩き出されるだろう。



「さらに、ライドロース地方は現在、隣国ガルドルム帝国の侵略軍が攻め寄せてきていて、国境でにらみ合いの状態にあります。──領主の交代が行われれば、その隙を敵軍に突かれる恐れがあります」


 ……は?

 ──俺の領地、敵国に攻められてんのかよ。


 いやいや──

 おいおい、ちょっと待て……。


 領地がそんな状態なのに、俺を排除させる目的だけで、後継者問題を意図的に引き起こすとか…………。


 親父は────

 馬鹿なんじゃないのか?


 普通──そんな計略を思いついても、実行しないだろう。 



 だが、領主というのは、絶対権力者だ。

 どんな馬鹿げた計画でも、独断で実行できてしまう。




 ……。


 …………行きたくないな。

 もうこの屋敷で、このままずっとのんびりしていたい。


 でも、そう言う訳にもいかないだろう。


 ────糞親父め。

 何が褒美だ。


 罰ゲームじゃねーか、こんなの。



 俺はメイド長のエレーヌに命じて、メイドのクロエをここに呼んだ。

 クロエは親父が身体目当てで、雇っているメイドだ。


 クロエが部屋に来たところで、ラブ・アローを撃ち込む。

 ──ちょっとした腹いせだ。




「よし、じゃあ、とりあえず……」


 俺はエレーヌとクロエの二人に、旅支度をさせる。

 罠と解っていようとも、茶番だとしても、親父の決定だ。


 ライドロースに、行かない訳にもいくまい────



 行けば追い払われるだろうが、それでいい……。

 下手に粘らずに、すぐにこの屋敷に帰って来ればいいだけだ。



 向こうは、開戦前夜で忙しいだろう。

 俺に構っている暇は無い──。



 スキル・予定表で、俺の死は予告されていないのだ。

 大人しく引き下がれば、問題は起きないはずだ。

 

 *************************


 名前

 デリル・グレイゴール


 武力       50

 知力       18

 統率力       4


 生命力               70/70

 魔力     4999988 /8900000  


 カリスマ         0

 

 スキル

 予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化

 魔力隠蔽 ステ振り テレパシー


 忠誠心(限界突破)

 レキ ンーゴ レガロ ギリィ ミリーナ シルヴィア

 エレーヌ クロエ

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