第10話 一件落着

 俺は女盗賊『ンーゴ』を配下にした。


 ラブ・アローを撃ち込まれた彼女は、俺に対して敬愛の念を持っている。

 この俺こそがンーゴにとって、この世で最も大切な存在だ。



 俺はンーゴから、この盗賊団の情報を聞き出す。


 このアジトにいる盗賊団の人員は、約百人ほどになるらしい。

 末端の構成員や協力者を含めると、もっと数が増える。

 ──かなり大規模だ。


 盗賊団の中心メンバーは、ここから南にある『スベラスト山』に住まう山岳民族の出身者だ。

 勢力争いに敗れ、山を追い出された者や、食い詰めたりしたものが寄り集まり、盗賊団を結成── 

 旅人や行商を襲ったり、子供を攫って販売したりしていたそうだ。




 長引く戦乱や、治安の悪化が長期にわたったことで、犯罪組織が討伐されることなく、ここまでの規模になり、彼らはこの辺りで、デカい顔をするようになる。


 今まで打つ手の無かった冒険者ギルドが、討伐隊を組織して対策に本腰を入れたのは、S級とA級という戦力の存在が大きいだろう。

 

 彼女たちが偶々、この地域で活動していたことで、ギルドも重い腰を上げたようだ。──どうせ戦うなら、強い味方のいる内にやろうという訳だ。






 俺が配下にした女盗賊のンーゴは、最初に睨んだ通り、この盗賊団の首領の娘らしい。──その為、この盗賊団内では、かなり上の地位にいて権力がある。



 彼女が部屋の外に出て、部下らしき男たちに食事を持ってくるように命じる。


 すると、数十分後──

 二人の少女が、それぞれ食事を運んできた。


 この規模の盗賊団だと、構成員の年齢も幅がある。

 

 盗賊の子供が、そのまま盗賊になったり──

 自力で食っていけないような身寄りのない子供が、ここに流れてきて下働きをしている。

 俺は食事を運んできた二人にも、ラブ・アローを撃ち込んだ。



 この盗賊のアジトは、討伐隊に襲撃されて壊滅するだろう。 

 ──女子供も容赦なく、皆殺しになる。


 俺はンーゴを配下に加え自由を得たので、ここから逃げる気でいる。

 ……殺される未来予知が出ているので、なるべくここから離れたいし、討伐隊と盗賊団の乱戦に、巻き込まれたくはない。



 逃げるのであれば、『ンーゴと二人で、ひっそりと』というのが、一番安全で無難だろう……。

 だが、俺はこの二人の子供を、見捨てる気にはなれなかった。


 

 …………。

 どうしてだろうな──?


 ああ、そうか……。



 俺は前世の記憶の大半を、魔力へと変換しているが、捨てられなかった記憶もある。僅かだが残っている……意図せずに無意識に、残してあった記憶────

 

 前世の俺には、娘がいた。

 物心つく前の娘は母親に似てしまい、酷く不細工だった。

 ──これじゃあ、将来大変だろうなと、なんとなく心配していた。


 そして、俺は死んだ。

 だからもう、俺が娘の人生を支えてやることは出来ない。

 覚えていても、何もしてやれることは無い──


 なのに、何故か記憶を残していた。

 そして、足手まといになるであろう、二人の少女を見殺しに出来なくなった。





 新しく配下に加えた二人の少女の名前は、レガロ(十一歳)とギリィ(八歳)。

 娘とは違い、結構可愛い子たちだ。


 ──実家から持ち逃げしてきた金貨は、まだかなり残っている。

 ここから逃げても、暫くは養ってやれるはずだ。



 俺は彼女たちが運んできた食事を取りながら、レキとテレパシーで連絡を取る。

 ──討伐隊は順調に、盗賊の拠点に迫ってきている。


 レキからの情報で、討伐隊にS級冒険者シルヴィアがいることは確認できたが、A級冒険者ミリーナは別行動らしい。


 ミリーナは別動隊を率いて、盗賊団を挟撃する気か──?

 本隊にシルヴィアがいれば、盗賊討伐は問題なく達成されるだろう。




 予定表で見た未来では、俺はシルヴィアに殺される。

 彼女に対してラブ・アローを使わなければ、大丈夫だとは思うが、あくまでそれは俺の推測でしかない。


 ここでじっとしているのは、リスクが大きい。

 ンーゴとレガロとギリィも、殺されるだろう。


 ──やはり、逃げるしかない。


 ンーゴに動かせるだけの部下を動員させて、適当な理由をつけてここを離れることにした。





 時刻は、午前四時頃だろうか──


 日が昇るまでは、まだ一時間以上はある。

 明け方に総勢十二名の盗賊が、森の中を移動している。


 盗賊団本部は討伐隊に殲滅させられるだろうが、この連中は生かして俺の部下にする予定だ。

 ──レガロとギリィも、ちゃんと連れて来ている。

 


 せっかくンーゴを配下にしたのだ。

 彼女を通して間接的に、この盗賊連中も配下にしてやろう。


 盗賊稼業からは足を洗わせて、冒険者にでもすればいい。

 ──何かと使い道があるはずだ。

 

 これで俺に、十二人の部下が出来た訳だ。


「中々、順調じゃないか──」


 転生してから生き延びるために、ここまで逃げ回っていたが、なんだかんだでこれだけの配下が出来た。


 …………。

 これは、凄い事なんじゃないか?

 ──よく考えると、かなり凄いことをしたと思う。そんな気がする。

 

 そうだよ!!

 俺はかなり、凄い奴だったんだ。




 いやぁ、なんかさ──


 昔から俺は、人を従えるオーラがあるというか、周りが勝手に慕ってきてさ、気付いたら神輿に乗せられてる、みたいな感じだったんだよね。


 前世でも、そんな感じだった。


 ほとんどの記憶は無くしたけど、覚えてる記憶を繋ぎ合わせると、そんな感じだった。そんな気がする。

 ──俺はすごいんだ。


 などと心の中で自己暗示にかかり、調子に乗ってると──



「ぎゃっぁああああッ!!!!」


「わあぁっぁああッ!!!!!」



 移動中の盗賊団の先頭から、悲鳴が聞こえて来た。

 悲鳴は瞬く間に、俺たちのいる最後尾まで迫ってくる。


「ミリーナ、か──」


 かざした松明の灯りで薄っすらと見えた襲撃者は、A級冒険者のミリーナだった。

 ──彼女の動きは早すぎる。

 夜の闇の中であることも相まって、目では把握できない。


 俺はンーゴ、レガロ、ギリィの三人に俺の後ろにいるように命じて、ミリーナがいる方に走る。


 そして──

「お姉さんっ、助けて下さい──!!」


 大声で助けを求めた。


 ミリーナとは、以前接触している。

 彼女の性格であれば、こうすれば助けようとしてくれるだろう。




 走りながら助けを求める俺を、誰かが抱きとめる。


「少年! 落ち着いて、ここでじっとしてなさい」


 抱きとめたのはミリーナだった。 

 俺はゼロ距離で、ミリーナにラブ・アローを撃ち込んだ。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その日は朝から、盗賊団が討伐隊の襲撃を受けていた。


 盗賊団の人数は、約九十人。

 それに対して討伐隊は三十に満たない。


 しかし冒険者で構成された討伐隊は、実力者が多かった。

 中でもS級冒険者シルヴィアの戦闘力は、討伐隊でも飛び抜けていて、一時間も経たずに盗賊団を壊滅状態に陥らせることが出来た。


 

 …………。


 俺は壊滅した盗賊団の拠点に赴き、そこでシルヴィアと対面している。


 盗賊団に攫われ、混乱に乗じて逃げ出した子供を演じて、彼女の前に出た。

 俺は魔力隠蔽で気配を隠したラブ・アローを、シルヴィアに向けて放とうと、身構える……。


 不穏な気配を感じ取ったシルヴィアは、俺を攻撃しようと剣を握り──

 後ろから飛んできた、クナイを弾く。


 事前に打ち合わせをしたレキの攻撃だが、『予想通り』シルヴィアに難なく防がれてしまう。


 ──だが、隙を作ることは出来た。

 俺は完成済みの、ラブ・アローを射出する。


 完全に不意を突いた、死角からの不可視の一撃。

 しかしそれは、シルヴィアに避けられてしまう。


 ──くっ!?


 ラブ・アローを避けたシルヴィアは、一瞬で俺の手前まで距離を詰め、首を刎ねる為に剣を振う……。



 ガキィぃいいいいンンん!!!!!!


「──なっ!!???」


 それまで無表情に淡々と、剣を振るっていたシルヴィアの目が、驚愕で見開かれる。


 彼女が繰り出した俺への攻撃を、ミリーナが受け止めていた。



「喰らえっ!!」


 動きの止まったシルヴィアに、俺はラブ・アローを撃ち込んだ。



 *************************


 名前

 デリル・グレイゴール(グレイ)


 武力       10

 知力       18

 統率力       4


 生命力               60/70

 魔力      199988 /8900000  


 カリスマ                  0

 

 スキル

 予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化

 魔力隠蔽 ステ振り テレパシー


 忠誠心(限界突破)

 レキ ンーゴ レガロ ギリィ ミリーナ シルヴィア


 *************************


 *************************


 名前

 レガロ


 武力       15

 知力       40



 生命力               70/70

 魔力                30/30  


 忠誠心             999999(測定上限突破)

 

 職業

 盗賊


 *************************



 *************************


 名前

 ギリィ


 武力        7

 知力       20



 生命力              60/60

 魔力               10/10  


 忠誠心             999999(測定上限突破)

 

 職業

 盗賊


 *************************

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