第9話 囚われた先で──
スキル『予定表』が発動した。
この未来予知系のスキルによると、どうやら俺は明日──
S級冒険者シルヴィアに、斬り殺されることになるらしい……。
──う~ん。
今現在、俺は『盗賊に囚われている』という境遇なのだから、不吉な未来の予知があったことに不思議はない。
だが、『シルヴィアに殺される』というのが、なんとも……。
彼女は確か、武者修行で諸国を渡り歩いている冒険者で、今回の討伐隊には、ギルドからの要請で参加しているはずだ。
──彼女に、俺を殺す理由は無い。
…………。
何故、殺されるんだ──?
……俺は盗賊に誘拐されて、捕まっている。
この盗賊のアジトが襲撃されれば、人質として使われる可能性が高い。
盗賊に盾として使われた俺を、シルヴィアが斬ることになる。
──とか、かな?
まあ、ありえるか──
討伐隊の目的は、盗賊の殲滅だ。
攫われた子供の救出は、二の次──
人質の命を気にして、動きを止めることはないだろう。
盾として使われた俺ごと、シルヴィアは盗賊を斬り殺す──。
これが、考えられる『ケース1』。
もう一つの可能性は、俺がシルヴィアに対して、ラブ・アローを使おうとして、その不穏な気配に気づいた彼女が、俺を斬り殺す。というものだ。
俺はスキルで魔力を隠蔽できるが、それでもシルヴィアの『剣士の勘』が、俺の隠蔽を見破る。もしくは、魔力以外に『攻撃意思』のようなものを、感じ取るのかもしれない。そして、反射的に反撃する────
これが、ありそうな未来の『ケース2』。
どちらもあり得そうだが、恐らくはケース2の方が、可能性は高いだろう。
Sランク冒険者シルヴィアの能力は、並外れて高い。
盗賊に子供を盾として使われたとしても、人質を傷つけず救出する力量はあるはずだ。
……。
ザコキャラのデリルには、強者の実力を正確に把握できない。
どの程度のことが出来るのかは、大雑把に推測するしかない──
彼女の妹弟子のAランク冒険者のミリーナが、追剥の腕を斬った場面に遭遇したことがある。その時、追剥は為す術なく、腕を斬られている。
鑑定で確認した数値では、シルヴィアはミリーナよりもずっと強い。
そこから大雑把に実力を推し量れば、人質を盾にされたとしても、無事に救出することは可能なはずだ。
──それくらいの実力は、あると思う。
こうして考えれば考えるほど、ケース1の可能性は低い気がする。
段々と、ケース2で決まりのような気がしてきた。
人質救出部隊にシルヴィアがいれば、俺はラブ・アローを使うだろう。
俺の保有スキルには、魔力隠蔽がある。
──シルヴィアにバレないと思い、安心して使うはずだ。
だが、魔力隠蔽では、攻撃意思は隠せない。
ラブ・アロー使用時に、俺から不穏な気配を感じとり、シルヴィアは容赦なく俺を殺す────
……やはりケース2のほうが、可能性はありそうだ。
シルヴィアとミリーナの二人が揃っていれば、俺も警戒してラブ・アローの使用を躊躇いそうだが──
人質救出時の混乱状況で、あの二人が離れていれば、それをチャンスと見て賭けに出る。……俺ならそうするだろう。
スキル予定表で、俺の死が予知されている。
このままここに囚われていては、シルヴィアに殺される。
──かといって、逃げ出そうとして見つかれば、確実に盗賊に殺される。
シルヴィアに殺される原因が、『ラブ・アローの使用』なら、使わなければ殺されることは無いはずだ。
大人しく捕まっていて、何もしないというのが、一番生存確率が高そうだ。
よし、決めた!!
──俺は何もせずに、このまま寝て過ごすことにする。
ダメ人間の最低な決意のようだが、深遠な考えの果ての結論である。
ラブ・アローは強力なスキルだが、使用は慎重に検討しなければならない。
チャンスと感じても、今回は使わない。
──よし、これでいこう。
暇を持て余した俺が縄で縛られたまま、ごろごろと転がっていると、この監禁部屋に複数の盗賊が入ってきた。
「──こいつらが、今回の獲物だね?」
「へい、姉さん! 気に入ったのがいれば好きにしていいと、お頭が言ってやした」
山賊達から姉さんと呼ばれていた女性は、二十五歳くらいだろうか──
それで他の盗賊相手に偉そうにしているのだから、盗賊団のボスの娘とか、そんな所だろう。
ちょっとごついが、よく見ると結構、整った顔立ちをしている。
…………。
姉さんと呼ばれた女性は、一人ずつ囚われの少年の顔を見て回っている。
俺はスキル『魔力隠蔽』と、『ラブ・アロー』を同時に発動。
『姉さん』が俺の顔を覗き込んだタイミングで、ラブ・アローを彼女に撃ち込んだ────。
「それじゃあ、姉さん。ゆっくり楽しんで下せえ……ぐひひ」
「余計なこと、言うんじゃないよ! さっさと消えな!!」
姉さんにどやされて、配下の盗賊たちは部屋から退散した。
部屋の中には俺と、女盗賊の二人きりだ。
俺は女盗賊の男遊びの相手として選ばれ、この部屋に連れて来られた。
「……あたしの名前は、ンーゴって言うんだ。お前は?」
女盗賊は俺の拘束を解きながら、名前を聞いて来た。
────ラブ・アローの効果は抜群だ。
俺を見つめるンーゴという名の、女盗賊の頬は紅潮し目は潤んでいる。
魔力を使い切らない様に、魔力量を加減して撃ち込んだが──
効き目は十分のようだ。
「俺の名前か、名はグレイ……今日からお前の主人となる者の名だ」
俺は偽名の『グレイ』の方を名乗った。
今はまだ、その方が良いだろう。
「……ッ! 主人だと? 遊び相手に選んでやったからって、何調子に乗ってんだい! ──この小僧!!」
ンーゴは、俺の物言いに激高する。
だが、本気で怒ってはいない。
──戸惑っているだけだ。
メンツもあるだろう。
これまで、盗賊として生きてきた彼女は、『年下の人質に舐められるわけにはいかない』と、考えているのだろう。
俺とて他の盗賊のいる前で、こんなことは言わない。
今は俺と、ンーゴの二人きりだ。
俺はンーゴの体面を考慮せずに、彼女を躾けることにする。
彼女の俺に対する忠誠心は、すでに限界を超えている。
後はそれを、自覚させるだけだ。
俺は無造作に彼女に近づくと、ンーゴの頬を平手で叩いた。
──パシィン!!
乾いた音が、部屋に響く。
ンーゴは俺に叩かれた頬に手を当てて、呆然としている。
「跪け──」
俺は冷たい声で、命令する。
すると──
「はい、グレイ様……」
そう言って、ンーゴはその場に膝をついて、俺に頭を下げた。
俺は女盗賊の調教に成功した。
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名前
ンーゴ
武力 340
知力 90
統率力 200
生命力 420/420
魔力 100/100
忠誠心 999999(測定上限突破)
職業
盗賊
スキル
ストーン・ウォール
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