第8話 デリル・誘拐事件

 ──突然だが、俺は盗賊に囚われている。


 何故こんなことになっているのか……。 

 事の発端は、三日前に遡る。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 スキル『ステ振り』を使い、ステータスや能力を強化したレキが、高熱を出して寝込んでしまった。

 ステータスを短時間で、急激に成長させた副作用だろう。

 

 鑑定で状態を調べると、筋肉痛のようなものだと解った。

 ──寝かせておけば、回復する。


 ただ、ちゃんと治るまでは、レキに無理をさせたくなかった。

 彼女を宿屋のベットに寝かせておき、俺が食料の買い出しに出た。

 


 ──その時に、人さらいに誘拐されてしまった。

 突然、後ろから口を塞がれて、気付けば、複数人に囲まれていた。

 

 俺の口を塞いだ布に、睡眠薬でもしみこませてあったのだろう。口に布を当てられて暫くすると、唐突に眠気に襲われて、意識が薄れていく……。

 

 薄れる意識の中で──

 誘拐犯の肩に抱え上げられたところまでは、薄ぼんやりと覚えている。


 目を覚ました時には身体を縄で縛られて、粗末な小屋の中に転がされていた。






「ぐっ、ンンッ……」


 ──どこだ、ここは?

 俺は何故、攫われた……?


 『デリル・グレイゴール』が狙いか、それとも、『子供』を狙った人攫いか、どっちだ? 俺が子供の姿に変化して、冒険者になる所まで、誰かに監視されていた──?


 俺はありえそうな可能性に考えを巡らせて、この状況を推理するが、身体が痛んで思考が途切れる……。

 縛られて床に転がされていた影響で、体中が痛いのだ。


 ──くそっ。

 



 ギシ、ギシッ──

「んっ、ンンッ……んん──」


 俺の後方から、うめき声が聞こえてくる。


 それも、一人ではない。

 何人かの、人の気配が……。

 ──誰だ?




 俺は強引に寝返りを打ち、後方を確認する。


 部屋の中には俺を含めて、四人の子供が縄で拘束されて、閉じ込められていた。

 それぞれ猿轡を噛まされていて、自由に話すことは出来ない。


 

 状況から推察するに──

 この誘拐劇は『デリル・グレイゴール』という貴族を狙ったものでは無く、単純に『子供』を狙ったもののようだ。


 子供を連れ去り、奴隷商人に販売する盗賊集団なのだろう。

 

 

 …………。

 さて、これからどうしようか──?

 俺がここからどうやって、逃げ出そうかと思案していると、小屋のドアが乱暴に開けられた。


 バンッ──!!!!



 「は、放せ、放せよっ、この……ッ!!」


 ドアからは盗賊のような身なりの男たちと、そいつらに捕まったと思わしき少年が入ってきた。

 囚われの少年は乱暴に突き飛ばされて、床に転がる。


 少年は逃げ出そうと藻掻くが──

 床に這いつくばる少年の背中に、盗賊の一人が乱暴に足をのせて動きを封じる。

 

「くっ、──こ、この盗賊ども、お前らなんか、俺が退治して──」


 ドッ!


「──グアッ!!」


 盗賊に向かって粋がる少年の横腹を、連中の一人が勢いよく蹴りつける。



「おい、てめーらっ! ここから逃げ出そうとした奴がどうなるか、よく見ておけッ!!」


 盗賊が手に持った斧を振り下ろして、少年の首を切り落とした。


 ごろんっ……!


 少年の首が転がり、切り口からは大量の血が噴き出している。



 …………。

 あの少年は──

 俺が目を覚ますよりも前に、ここから脱走し、再び盗賊に捕まったのだろう。


 そして、見せしめに殺されてしまったようだ。




「こうなりたくなかったら、逃げようなんて考えるんじゃねーぞ!!」


 盗賊達は少年の遺体を持って、部屋を出て行った。


「…………」 


 …………怖い。

 脅しの効果は抜群だ。



 部屋の中には大量の血による床の汚れと、重苦しい沈黙だけが残った。


 下手に逃げない方が良さそうだ。

 俺たちは恐らく、奴隷として売られるために攫われた……。

 

 ──大人しくしていれば、すぐに殺されるようなことは無いはずだ。




 盗賊たちに目をつけられない様に、こっそりと打開策を講じよう。


 ……。

 盗賊にバレずに、俺に出来ることは……。

 ラブ・アローを使い、味方を増やす。


 もしくは、敵に気付かれず、逃げることが出来るような──

 新たなスキルを習得する……。



 俺はスキル一覧を表示して、使えそうな能力を探す。


 う~ん。

 おっ、これはどうだ──?



 『テレパシー』


 スキル テレパシー

 自分の従者と、五感に頼らずに意思疎通することが出来る。

 対象を指定すれば、離れていても使用できる。



 この状況で、直接役に立つ能力ではない。

 脱出したり、姿を隠すことは出来ないが、盗賊に気付かれないように、レキと会話が出来る。


 ──これを取得する。

 まずはレキと、連絡を取ろう。






 『レキ、……レキ、聞こえるか?』

 『デリル様──? デリル様なのですか!!』


 『ああ、俺だ──』

 『良かった。ご無事だったのですね?』


 『無事と言えば、無事かな? 盗賊に誘拐されたようだが──俺が攫われてどのくらい経過したか分かるか? お前が寝込んでから何日だ?』

 『あれから、三日が経過しました』


 『──そちらの状況は?』

 『こちらでも子供の大量失踪が問題になり、現在冒険者ギルドを中心に盗賊の討伐隊が組織されています。デリル様が気になさっていたS級とA級の二人も、討伐隊に加わっています。私もデリル様が盗賊に攫われた可能性を考慮して、討伐隊に加入する予定でした』


 『その口振りだと、盗賊のアジトの目星は付いているのか? 襲撃予定は何時になる?』

 『盗賊のアジトの、おおよその場所は、すでに割れています。移動に一日かかりますので、討伐は明日になるかと──』


 『そうか──お前はそのままギルドの討伐隊に加われ。また連絡を取る』

 『──畏まりました。デリル様』


 



 俺はここでテレパシーを切って、レキとの通信を終える。

 冒険者ギルドの討伐隊が、ここを襲撃するのは明日か──


 それまでは、ここでこうして縛られているしかないな。

 

 ずっと縛られ、硬い床に転ばされていたので身体が痛い。

 早く逃げ出したいが、下手に動けば殺されるだろう。


 ……盗賊とか、マジで怖いからな。

 


 救出されるまで、我慢するしか──


 …………。

 救出か──。


 討伐隊がここを襲撃すれば、盗賊たちはどう出る……?

 高確率で、捕まっている子供は盾にされるだろう。


「…………んー」


 ──そんなことを憂慮していると、スキル『予定表』が発動した。


 予定表は、これから起きはずの身の危険を予知してくれる。

 ──それによると、俺は明日死ぬことになるらしい。


 剣で斬り殺されるようだ。

 俺を殺すのは、S級冒険者シルヴィア・ロレーヌ。


 討伐隊に参加している、女剣士……。


 ……………………。

 …………。


 マジかー。


 *************************


 名前

 デリル・グレイゴール(グレイ)


 武力       10

 知力       18

 統率力       4


 生命力               32/70

 魔力     8899979 /8900000  


 カリスマ                  0

 

 スキル

 予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化

 魔力隠蔽 ステ振り テレパシー


 忠誠心(限界突破)

 レキ


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