第7話 従者を強化しよう

 冒険者としての初任務──

 薬草採取の依頼を、見事に達成した。


 俺とレキは、冒険者ギルドに報告を終える。

 これで新人冒険者としての、偽装工作は完了だ。

 ──その後は、まっすぐに宿屋へと帰るだけだ。





「配下に加えるのなら、あの二人だな──」


 俺は宿のベットに腰かけて、独り言ちる。

 戦闘能力が際立って高い、美女と美少女の剣士コンビ……。


 ──俺の部下として、申し分ない。


 

 俺がそんなことを思案していると、レキがお湯を運んできた。

 この宿には風呂は無く、身体は自分で拭かなければならない。



 冒険者は面倒がって、こまめに身体を洗わない者も多い。


 俺もどちらかと言えばそのタイプなのだが、忠誠心の高いレキは命じられなくとも、こうしてお湯を部屋まで運び、身体を綺麗に拭いてくれる。



 俺は服を脱ぎ、レキに身を委ねる。

 少女はタオルをお湯につけ、絞ってから、俺の身体を丁寧に拭っていく。


「あの二人を配下に加えるぞ。──明日から情報収集に入る」


「畏まりました。……デリル様の部下になれるという事は、至上の喜びです──あの二人は強運の持ち主ですね。デリル様の目に留まって……」


 レキはおべっかを使って、こんなことを言っているのではない。

 ──本心からそう思い、それを言葉にしているのだ。



「経験者が言うのだから、間違いないな」


 俺はそう言って、レキの頭を撫でてやる。

 レキは頬を僅かに染めて、嬉しそうに『……はい』といって頷いた。





 翌日から、俺とレキは連れ立って、二人の女剣士『ミリーナ』と『シルヴィア』の調査を開始した。

 ──調査といっても冒険者ギルドの受付のお姉さんから、話を少し聞いただけだが、それであの二人のことは、大体分かった。


 昨日助けて貰っていたので、話を聞き出す取っ掛かりもある。

 ──スムーズに聞き出せた。



「シルヴィアさんとミリーナさんは、有名な高ランク冒険者よ。武者修行で諸国を渡り歩いていたんだけど、──この町に来て、三か月くらいかしら? あの二人が来てから悪党が大人しくなって、みんな助かってるわ」


 武者修行か……。

 いつまでもこの町にいるとは、限らないようだ。

 早めに手を打ちたいが、二人一緒に行動していることが多いらしい──

 

 何とか、隙を突きたいところだ。

 機会を窺い、彼女たちが別行動中に、ラブ・アローを撃ち込む……。


 それしかないだろうが、あの二人は剣の達人だ。

 魔力隠蔽を見破られたり、避けられる可能性も考慮すると、迂闊に手を出すのは控えた方が良い。



 ──もう少し、工夫する必要がある。

 

 ……まずは、あの二人と仲良くなる。 

 交友関係を築いておこう────

 『昨日、助けて貰ったお礼』という口実を使い、今度食事にでも誘ってみるか。



 あと、出来ることは──

 別のアプローチとして、『レキの戦闘能力を強化する』

 というのは、どうだろう?


 この俺──

 デリル・グレイゴールの強化は諦めているが、レキであればあるいは──

 あの二人よりも強くなれるような、そんなスキルがあれば、良いのだが……。


 当面の方針は決まった。

 俺の後でレキも、身体を清めてから、夕食を取って眠りについた。


 実家から拝借してきた金貨が、まだまだある。

 生活費には困らない。





 ──翌朝。

 俺とレキは新米冒険者として、今日も薬草採取へと赴いた。


 今日は草原で、小型の魔物と遭遇したが──


「グォオオおォオオ!!!」


 ――ザシュ


 ドサッ……。


 レキが、なんなく倒した。


 俺の目にはレキの動きが早すぎて、彼女が繰り出した刃が見えなかった。

 ──俺を殺すために派遣された暗殺者というだけあって、レキはそこらの冒険者よりも強いのだ。






 薬草採取を無難にこなした俺たちは、冒険者ギルドに報告してから宿屋に戻った。

 レキに体を洗って貰ってから、彼女の強化を試してみることにする。


 今回習得したスキルは──


 『ステ振り』


 スキル ステ振り

 魔力を消費して、対象のステータスを増加させる。

 ただし、対象の限界値以上には強化できない。



 魔力を使い対象のステータスを、強化することが出来る能力。


 一応……俺にも、使ってみようかな?

 上手く行けば俺だって、大幅にパワーアップできるだろう。




 ──早速やってみよう。


 ようやく、この俺の、異世界無双が始まる。

 ……と、ちょっとだけ期待していたのだが、何故かステータスの強化が出来ない。


「……おかしい」


 鑑定で自分のステータスを確認する。

 スキル『ステ振り』は、ちゃんと習得されている。


 ……?

 どういうことだ??

 大幅に強くはならないだろうと、なんとなく解ってはいたが、全く変わらないのはおかしいんじゃないか?


 自分には使えない能力、とか──?


 いや、そんな、まさか……。

 試しに、レキにも使ってみよう。



「レキ、そこのベットに、うつ伏せになって寝転びなさい」


「畏まりました。デリル様──」


 レキは俺の言いつけに素直に従い、ベットに突っ伏す。

 俺はレキの背中に手を当てる。


 魔力を消費して、スキル『ステ振り』を使用する。


「……おっ!!」


 俺の目の前に、レキのステータスが表示された。

 割り振ることの出来る数値と、上限値もしっかりと表示されている。


 

 ──どうやら、この『ステ振り』という能力は、自分のパワーアップは出来ないが、部下の能力は強化できる仕様のようだ。


 自己強化が出来ないのは残念だが──

 気を取り直して、レキの強化を済ませておこう。


 魔力を代償に、強化ポイントはいくらでも増やせる。



 俺はレキの身体に、魔力を流し込む。


「ンッ、あっ──デリル様! きつい、です……」


「暫し我慢してくれ、レキ。こうして魔力を注ぎ込み、成長を促しているのだ」


 魔力を注ぎ込むと、レキが辛そうにしている。

 

 ……。

 魔力の注入は、このくらいにしておくか──

 無理はよくない。


 ここが、彼女の成長限界の様だ。

 

 今回注入した魔力で、レキのステータスを上昇させてから眠りについた。


 *************************


 名前

 デリル・グレイゴール(グレイ)


 武力       10 

 知力       18 

 統率力       4 


 生命力               70/70 

 魔力     8850355 /8900000 


 カリスマ                  0

 

 スキル

 予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化

 魔力隠蔽 ステ振り


 忠誠心(限界突破)

 レキ


 *************************



 *************************


 名前

 レキ


 武力      380 (+300)

 知力      210 (+300)

 暗殺力     418 (+300)


 生命力        460/460 (+300)

 魔力         140/140 (+300)


 忠誠心         999999(測定上限突破)

 

 職業

 奴隷 メイド 暗殺者


 スキル

 ウィンド・カッター 


 *************************

 

 強化したレキは、風魔法スキルを習得させることが出来た。

 どうやら彼女の魔力属性は『風』だったようだ。


 総合戦闘能力は、3200まで上昇していた。

 ミリーナには及ばないものの、かなりの高水準だ。

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