第6話 薬草採取クエスト

 俺はレキと共に、冒険者ギルドにやって来た。

 壁に貼られている依頼書をざっと見て、一番簡単な仕事を探す。


 ──最初に選んだ任務は、薬草採取クエストだ。



 初心者が受ける中で、もっともポピュラーな依頼である。

 基礎中の基礎で、たいして難しくもないし危険も少ない。



 町の外の平原に出て、草原の中から目当ての薬草を探し出して採取する。集めた薬草が規定数に達すれば、ギルドに持ち帰り任務は達成となる。


 戦乱が続いた影響で、薬草などの回復アイテムの需要は、高水準で推移している。

 俺たちのような初心者が、最初に取り組む任務がこれだ。


「早速、取り掛かろう……」


 この草原には、俺たち以外の冒険者も何組かいて、薬草採取に励んでいる。

 俺とレキは二人で、薬草探しを開始した。

 





 太陽が真上に登り、昼の時刻になる。


「そろそろ、戻るか――」


 俺の手にした麻袋には、二人で集めた薬草が詰め込まれている。

 これを薬師が生成して、回復薬を作るのだ。


「デリル様、荷物は私が……」


「──待て、レキ」

 俺が持っている荷物を、レキが代わりに持とうとするが、それを制止する。


「お前には、俺の警護を任せている。護衛の手は、空けておきたい」


「はっ! そうですね。素晴らしいご思慮です! ――流石はデリル様です!!」



 レキはラブ・アローの影響で、俺に対する忠誠心が限界突破している。

 この程度の気遣いで、俺のことを褒めてくれるようになった。


 お手軽過ぎて、若干、馬鹿にされてる感もあるが──

 それは、俺の心が卑屈で、疑い深いからだろう。


 レキは本当に俺のことを凄いと思い、褒めてくれているんだ。

 ──ここは素直に、彼女からの賞賛を受け取っておこう。


 ……。

 やったぜ!

 褒められた!!


 ……ふはははっ。

 褒められると気分が良いものだな。


 俺が良い気分で、ボーとして歩いていると、隣のレキから殺気が溢れ出す。

 何事かと周囲を確認すると、俺たちの行く手を塞ぐように、五人組の冒険者が待ち構えていた。


「──おい、坊主共。その袋を渡して貰おうか?」


 


 ……どうやら、追剥のようだ。

 

 まあ、身ぐるみ全部を剥ぐようなタイプではなく、初心者冒険者から薬草をくすねて、自分たちの手柄にしようとする同業者のようだ。


 ──レキは戦闘態勢に入っている。

 俺は五人組を鑑定したが、戦闘能力値の平均は300前後だ。


 確かデリル(四十六歳)が220だったから、それよりも強いくらいだ。


 


 レキ一人でも蹴散らせそうだが、ここは無理をする局面でもないだろう。

 ──俺は冒険者として、成り上がりたいわけではない。


 五人組の中の誰かに、ラブ・アローを使えば、一人は手下に出来る。

 ──だが、部下に加えるには弱すぎる。


 ここで揉め事を起こして、注目されたくはない。


 ──ちょっとムカつくけれど、仕方ない。

 大人しく、集めた薬草を差し出そう。




 俺は小声で、レキに大人しくしているように指示を出し、薬草を奪いに来た男に、麻袋を明け渡すために腕を伸ばす。


「ふんっ、随分と物分かりが良いじゃねーか」


 男はそう言いながら薬草で一杯の麻袋を、俺から奪い取ろうと、手を伸ばし──


 ザシュ──!!


 次の瞬間、男の片腕が宙を舞った。







「ぐぎゃぁぁぁあああああ!!!!!!」


 男の腕を斬ったのは、レキではない。

 彼女は俺の言いつけを守って、大人しく後ろに控えている。


 追剥の腕をぶった切ったのは、一人の女戦士だった。


「新人が一生懸命集めた物を、横取りしようなんて……恥ずかしいと思わないの?」


 女戦士は十七、八くらいの年齢だろうか。

 美人というよりは、可愛らしい元気っ子だ。


 大きめの剣を肩に乗せて、五人組を睨んでいる。

 


「くッ、ミリーナ……てめぇには、関係ないだろ!!」


 五人組の不良冒険者のリーダーが、女戦士(ミリーナという名前のようだ)に抗議の声を上げる。

 

 だが──


「──関係なくはないよ。こんな追剥を見逃したら、この町の治安がどんどん悪くなるだろ?」


 そう言って、ミリーナは──

 片腕を斬られて、痛みで動けない男の首を刎ねる。


「これはA級冒険者のボクに許されている治安維持活動だよ。文句があるならギルドマスターに言うんだね!」


「──うぐっ、ここは引くぞ! おまえら!! 覚えておけよ、ミリーナ、俺達にこんなマネをして、……あとで後悔しても知らねーぞ」



 不良冒険者の生き残りの四人は、捨て台詞を残して逃げ去った。


 ────見逃していいのか?

 と思ったが、このミリーナという少女戦士にとっては、あんな奴ら敵ではないのだろう。鑑定してみると、この少女は『A級』の冒険者で戦闘能力値が4800……。

 

 かなり高い。



 この女戦士を手駒にするか──


「あの、助けて頂き……ありがとうございます」


 俺は取り敢えずお礼を言ってから、ラブ・アローを使う為に魔力を集めようとして────ミリーナから、デコピンを喰らった。


 ピシッ!


「うぐっ!」


「こらっ、君たちも、君たちだよ!! 脅されたからって、あんなにあっさり敵に降伏して……もっと意気地を持たなきゃ──冒険者になるんでしょ?」


 そう言ってからミリーナは、もう一度、俺のおでこにデコピンを喰らわせる。



 ──どうやら、スキルを使用しようとしたことを、悟られたわけではないらしい。

 それなら、ミリーナが油断しているうちに、ラブ・アローを撃ち込もう。


 今度こそ、ラブ・アローを使おうとしたところに、またもや邪魔が入った。



「ミリーナ、何をしている? 新人の世話か──物好きだな」


「あっ、シルヴィア姉さん! 結構可愛い男の子たちが虐められてたから、つい……えへへ」



 声をかけてきたのは、またもや女剣士だった。

 

 シルヴィアという名前らしい──

 年は二十二、三くらいだろう。


 美人と言って差し支えない、眉目秀麗な顔立ちをしている。 



 鑑定したところ、シルヴィアは『S級』の冒険者──

 戦闘能力値が6300もある。


 しかも、有用な攻撃魔法スキルまで所持していた。

 ──貴族の出なのだろうか?




 ぜひとも部下に欲しい逸材だが、このクラスの凄腕剣士二人が揃うと、下手に手出しが出来ない。

 

 どちらかにラブ・アローを放った瞬間に、俺の首が胴体から離れそうだ。

 スキル『予定表』が発動しないので、死ぬことは無いだろうが……。



 腕を斬り落とされる危険が、ないとも言えない。


 先ほど──

 ミリーナが追剥の片腕を、容赦なく切断した場面が脳裏をよぎる。



 ……手出しは 止めておこう。

 俺はもう一度ミリーナにお礼を言ってから、レキと共に町へと帰還した。


 *************************


 名前

 ミリーナ


 武力      920

 知力      100

 剣技      830


 生命力             760/760

 魔力              300/300  

 

 職業

 女剣士 A級冒険者

 

 *************************


 *************************


 名前

 シルヴィア・ロレーヌ


 武力      1300

 知力       420

 剣技      1200


 生命力             800/800

 魔力              450/450  

 

 職業

 女剣士 S級冒険者

 

 スキル

 ウォーター・ボール


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