第4話 ただのおっさんなのに、ロリメイドに心酔される

 俺はスキル『魔力変換』で、膨大な魔力を手に入れた。


 変換したのは、自分の培ってきた時間──

 その為、俺の肉体は四十六歳のおっさんから、十歳の子供の姿へと変化していた。


 このまま子供の姿でいては、不審者として屋敷から追い出されてしまう可能性が高いので、スキル『肉体変化』で少年の姿から、オッサンの身体へと回帰した。





 元のだらしない肉体で、軽くストレッチをする。

 ……よし、どこにも異常はない。  


「──ふうぅ、これでよし!」


 そのタイミングで、コンコン、コンコンっ……。

 部屋のドアが、ノックされる。

 

「何用だ──?」



「失礼いたします。デリル様、先ほど……叫び声が聞こえましたが、何かございましたでしょうか? ………………あの、どうして裸に??」


 俺の叫び声を聞いたメイド長のエレーヌが、この部屋の様子を確かめに来たようだ。──少し慌てた様子だった。


 俺を心配して、来てくれたのだろう。



 だが、この部屋に入り、俺の姿を見ると、途端に表情を凍らせる。

 不可解なゴミを見る目で、俺を見つめて問いかけてくる。


「──何故、裸なのですか?」



 俺はついさっきまで、子供の姿だった。

 それから、この大人の身体へと変化している。


 服はぶかぶかだったので、一度全部脱いでいた。

 ──その状態から、肉体変化を使った。

 そのため、身に付けている衣服は、ソックスだけという惨状だ。


 ほぼ、全裸の俺は──

 手を腰に当てて、堂々とする。


 キリッとした表情で、エレーヌに無事を告げた。


「エレーヌか──見ての通り、俺は無事だ。……心配はいらぬ。──先ほどの叫びは気にするな。困難を打ち砕く目途が立ったので、嬉しくて──つい、な。──というわけだ。もう下がってよいぞ」


「……はあ、そうですか。それは――おめでとうございます」


 エレーヌはそう言うと、お辞儀をして退出していった。




 部屋の外で小さく『とうとう、気がふれてしまいましたか……』と、呟いていた。

 デリルは自分の悪口を、絶対に聞き逃さない。


 ────後で、あの女にも、ラブ・アローを撃ち込んでやろう。


 …………。

 脳内でシュミレートして、ニヤリと微笑む。

 『デリル様! ずっと、お慕いしておりました』とか言わせてやる。


 くひ、くひひひ──

 気色の悪い笑い声が、自然と洩れた。



 ──だが、まずは……。

 俺を殺そうと狙っている、暗殺少女のレキからだ。


「くっくっくっ、待っていろよ。小娘────」


 俺はズボンをはきながら、格好のいいセリフを呟いた。

 





 いつものように、夕食を自室で取る。

 食後にメイドの奴隷少女、レキを呼び出した。


 レキを連れてくるように言うと、表情は変えなかったものの、エレーヌは軽蔑の眼差しを向けて来た。


 ──なんだ、結局やるんじゃないですか。

 という目だった。


 ────誤解だ。

 だが、敢えてその誤解を、解くことはしない──

 俺の暗殺を企てているのが誰で、屋敷の使用人がどう関わっているか分からない。

 

 俺のことを甘く見て、油断してくれた方が良い。

 仕掛けた罠に嵌まったと、敵に思わせておくのだ。



 俺が呼び出さなくても、レキは来るだろう。


 だが、それがいつになるか、分からない。

 解らなければ、不意を突かれる。


 こちらから呼び出して、敵の行動を制限するのだ。








 暫く待っていると、レキが部屋にやって来た。


「あの、ご主人様。夜伽の前に……部屋の灯りを消していいでしょうか? 初めてですし、灯りがあると、その……恥ずかしい、です」


 レキは羞恥心で顔を赤らめて、俺にお伺いを立ててくる。

 恥じらい怯えながら、上目遣いでお願いする少女。


 ──可愛い。

 演技だと解っていても、可愛らしい。



 俺は思わず頷きそうになるが、心を鬼にしてお願いを却下する。

 レキが明りを消そうとするのは、暗殺の成功率を上げる為だろう。


 ──そんな要望を、聞いてやる義理は無い。


「そう、ですか……では、このまま、ベットに入れば良いのでしょうか?」


「……いや、その場から、俺が良いと言うまで動くな」


「……? はい、わかりました」


 俺の命令に対し、レキは少し戸惑っているようだ。

 だが、言いつけ通りに、その場に立っている。


 ──少し、警戒している。




 さて……。

 俺はベットに座りながら、軽く深呼吸して立ち上がる。


 ──やるか。



 俺の魔力総量は、記憶を魔力へと変換しまくった結果──

 人間では持ちえないレベルの、膨大な量になっている。


 その魔力をすべて使用して、スキル『ラブ・アロー』を発動する。


 俺の規格外の魔力は、強力無比なエネルギー体を出現させる。



 ずぉぉおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!!!


 俺の傍らに、魔法の矢が具現化された。



 ──バチッ、バチッ、バチッ、バチッ!!!!!


 込めた魔力が多すぎて、スパークしている。






 俺は両腕を体の前でクロスさせて、スタイリッシュなポーズを作って立つ。

 手で顔を半分覆い、口元を隠す。


 内心では『……こんなもの、人にぶつけて大丈夫なのかよ──?』なんて思って、標的のレキの心配をしていた。


 そして、ラブ・アローが『バチバチッ』とスパークするたびに、ちょっとビビる。



 ────だが、そんな心配を表に出さずに、このシュチュエーションにマッチしそうなセリフを選んで口にする。

 

「ふっ、ふはっ、ふはははっ、すごいぞ!! これが俺の真の力……この力があれば……この世界を、我が手中に収めることも夢ではない──」





 ──対する奴隷少女レキは、床に座り込んでいた。

 顔を恐怖に引きつらせ、両目は驚愕で見開かれている。


「そんな、……なんだ、この化け物は……実力を、隠していたのか? こんな奴が、存在するなんて──まさか、こいつは『吸血鬼』……なのか??」


 メチャクチャ怯えながら、呼吸を乱し、身体を震わせている。

 ──俺を畏怖しているようだ。

 


「はぁ、はぁ……ぅうッ、うぅ、ぐすっ――」


 ちょっと、泣きだしている。

 怯えたレキが、背徳的なエロスを醸し出す。


 ──俺の命を狙う暗殺者とはいえ、幼子をここまで怯えさせるのは気が引ける。

 このラブ・アローを人にぶつけるのは、やはり躊躇われる。


 …………。

 俺が僅かに逡巡していると、レキは怯えながらも、スカートの中からクナイを取り出し構えた。


 ――まずい!


 そう思った俺は──

「ラブ・アローッ!!」


 反射的にラブ・アローを、レキに向かって射出した。


 ドヒュン!!!!



 俺の放ったエネルギー体は、レキの心臓に突き刺さり、その幼い肢体に侵入して支配する。


 ドサッ──


 レキは意識を失い倒れ込む。


 だがすぐに目を覚ますと、俺を見て顔を赤らめ――

 目を逸らし、後悔に満ちた苦悶の表情を浮かべる。


 そして──

 手に持ったクナイを自分の首筋に当てて、引き切ろうと……。



「待てっ!!!!!」


 俺は鋭く大きな声で、それを止める。


 ──ピタっ!!

 レキは俺の命令で、自害を中断する。


「死ぬことは許さん! 生ある限り、俺に尽くせ──」


 せっかく手駒にした、ロリメイドだ。

 ──失うのは惜しい。



 自害を思いとどまったレキは、俺に対して跪いて恭順を示す。

 

「ご主人様は──私が暗殺の命を受けて送り込まれたことを、ご存じだったのですか────?」


「──まあ、な」


 なんとなく取ったスキルで、偶然にも知ることが出来たんだ。

 ──ラッキーだよね。


「それをご存じの上で、私に尽くせと……? 自分を殺そうと近づいた者を、側に──なんという度量、胆力。あなた様こそ、私が真に使えるべき、ご主人様です」


 レキは尊敬の眼差しで、俺を真っすぐに見つめてくる。

 ──照れるぜ。



 いやいや~、俺はそんな、たいそうな奴じゃなくて──

 ただのオッサン、なんだってば────。


「──うへへ」

 嬉しくてつい、不気味な笑い声が漏れてしまった。


 *************************


 名前

 デリル・グレイゴール


 武力       50

 知力       18

 統率力       4


 生命力             120/120

 魔力           0 /8900000  


 カリスマ                  0

 

 スキル

 予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化


 忠誠心(限界突破)

 レキ


 *************************




 *************************


 名前

 レキ


 武力      380

 知力      210

 暗殺力     418


 生命力             460/460

 魔力              140/140  


 忠誠心              999999(測定上限突破)

 

 職業

 奴隷 メイド 暗殺者

 

 *************************

 

 レキの総合戦闘能力は1200だった。

 ──デリルの五倍以上だ。

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