第3話 代償を支払い、俺は限界を超えた

 自分のステータスを鑑定して確認した結果──

 魔力が10から8へと減少していた。


 ──恐らくは、スキル『予定表』と『鑑定』を使用した際に、それぞれ魔力を1ずつ消費した結果だと思われる。



 スキルは魔力を消費して、発動されるようだ。

 ──ラブ・アローは発動しなかった。


 このことから、『ラブ・アロー』を使用する為の魔力が足りずに、スキルが発動しなかったのではないかと推測される。




 デリル・グレイゴールの魔力量が、少なすぎるのか…………。


 ──どうしよう?

 魔力が足りないとか、想定外だ。


 今からどうにかして、魔力を増やすしかない!!

 

 ────思い出せ。

 魔力総量は先天的に決まっているが、努力して増やすことも出来たはずだ。


 その為の、訓練方法は──

 『魔力を限界まで使う。』

 それを毎日続ければ、魔力総量を増やせたはずだ。


 デリルはその努力を、全くしてこなかった。


 だって、魔法とか得意じゃないし──

 使おうとすると、疲れるから……。



 じゃあ、仕方ないな。

 どのみち今からでは、その方法で魔力総量を増加させるのは無理だ。




 俺が殺されるのは今夜だから、それまでに増やす必要がある。


 ……う~ん、どうしたものか?


 一縷の望みとして──

 デリル・グレイゴールの魔力を、マックス(10)の状態に回復させてから、ラブ・アローを使用し、発動する事に賭けるか?


 俺はスキル『予定表』が発動した後の、魔法力『9』の状態でラブ・アローを使って、不発に終わった。

 ──その後、鑑定を使用して、現在の魔力は『8』の状態にある。


 魔力『9』では発動しなかったが、魔力『10』なら発動する可能性がある。


 ──ちゃんと検証したいが、夜まで時間がない。

 魔力の自然回復は、一晩で全快すると言われている。

 

 デリルは魔力量が少ないので、自然回復もその分遅い。



 試し撃ちは出来ない。

 ぶっつけ本番になるが、魔力を回復させてからやるしかないか――






 俺は部屋のベットに寝っ転がって、魔力の回復を待つ。

 正確な時間は分からないが、夜まで寝てれば回復してるだろう。


 天井を見つめながらボーッとしていると、打開策を閃いた。

 

 ──そうだ!

 魔力総量を増やすような、そんなスキルは無いか?


 困ったときのスキル頼み──

 俺は寝転びながら、習得可能なスキル一覧を閲覧する。


 ……これは、どうだ?




 『魔力変換』


 スキル・魔力変換

 代償を支払い、自身の魔力を生成する。

 生成される魔力は、支払った代償の価値に比例する。



 ──代償とは何だろう?

 何でも良いのか?

 

 ──まあいい、とりあえず取ってみよう。

 俺はスキル、魔力変換を10ポイントで獲得した。


「さて、何を魔力に変換するかな?」


 部屋に常備されているメモ用の紙の束から、一枚の紙を取り出す。


 これで試してみよう。


「魔力変換!!」


 ……。

 …………。


 しかし、何も起きなかった。

 ステータスを鑑定で確認したが、魔力が7に減っている以外に特に変化はない。



 どうやら、所有物を魔力に変えるような、そんな能力ではないようだ。

 

「――じゃあ、何なら代えれるんだ?」


 ……生き物?

 メモ用紙は無機物だから、駄目だったとか──?

 

 ……何か違う気がする。





「──そもそも、魔力ってなんだ?」


 魔法を使う為の、エネルギーだよな。

 この世界では、魔力総量を大きくするため、『魔法を使い続ける』という訓練がある。──そして時間の経過とともに、魔力は自然回復する。


 …………。


「時間、か……うーん、それで、いくか――──おっ、おおっ!!」


 代償として差し出す物に、俺の時間──

 デリルの『今朝の朝食の記憶』を指定して、スキル魔力変換を使用した。


 すると、これまで感じたことのない、『魔力』が身体に漲る。


「これは、いけるぞ!!」



 俺はさらに時間を代償にして、魔力を生成する。

 記憶を指定して魔力変換を行うと、これまで積み重ねた記憶と肉体の成長が失われていくことになる。


 ──これを繰り返すと、自分の知識や技術が無くなっていってしまう。




 自分の時間を、魔力に変換する。


 それは、自分の過ごしてきた歳月と、その期間に培ってきた努力の結晶を代償にして、魔力へと変化させることだ。


 ──例えば、過酷な受験勉強の末に得た学力が、魔力と引き換えに無くなってしまうとしたら、『魔力変換』など使わないだろう。


 幼少期からスポーツの練習を毎日してきた者が、魔力と引き換えにこれまで培った体格と技術を失うとしたら――




 これまで努力を積み重ねてきたような者は、こんな能力は怖くて使えないだろう。


 ……だが、俺は使える。


 問題は無い──

 デリルには、無駄に積み重ねた時間が沢山ある。 


 ──むしろ、無駄しかなかったと言っても、過言ではない。




 この俺、デリル・グレイゴールには失って惜しむような、努力の結晶などありはしない。むしろ、若返った上に大量の魔力を獲得できたのだから、至れり尽くせりの棚から牡丹餅である。


「やったぜぇ!! ヘイ! ヘイ! イェ~イ!!」



 あまりのラッキーに、可笑しなテンションになって、変な掛け声をかけてしまった。


 ──ちょっと落ち着こうか、デリル。




 俺は一息ついてから、スキル・魔力変換を使い続けた。


 デリル・グレイゴールが四十六歳まで、無駄に積み重ねてきた時間。

 それをどんどんと、魔力に変換していく。


 残しておきたい記憶など、ほとんど無い──


 そうだ!

 せっかくだから、前世の記憶も変換しておこう。

 役に立つような知識もないしな……。


 俺は前世の記憶を魔力に変換した、すると──

「うぉ、うおおぉ、うおおおおおおおおぅおうぉう!!!」


 これまでとは、桁違いの魔力が生成された。

 俺の身体に、溢れ出さんばかりの魔力が漲っている。



「すごいぞ!! まるで神にでもなったかのようだッ!!!!」


 俺は興奮して叫んだ。


 



 そして──


「……しまった」

 

 失敗した。

 調子に乗って夢中で、魔力変換を続けた結果──


 俺の姿は、十歳くらいの少年の姿に変化していた。




 俺の身体は、十歳くらいに若返っている。

 流石に、やり過ぎだ。



 ──若返ったこと、それ自体は良い。

 魔力を獲得できたのも、計画通りだ。


 だが、この姿は……。

 俺は部屋にある鏡の前に立って、自分の姿を確認する。

 

「完全に別人だ。誰も俺が『デリル』だとは分からないだろう……」



 ──それは、それで困る。


 デリルという人物の人生に、なんの拘りも愛着もないが、全くの別人として、これからこの世界で生きていくというのも躊躇われる。



 何しろ、デリルは権力者だ。

 生活に不自由せず、贅沢な暮らしをずっとしてきた。

 記憶の大半を失おうとも、それが板についている。


 今更、貧乏暮らしなどしたくはない。



「何とかするスキルは──」


 どうも困ったらスキルを探す癖がついてしまったが、他に頼れるものが何もないのだから仕方ない。

 俺はスキル一覧を見つめ、確かめていく。



「これを、取得するか――」



 『肉体変化』


 スキル 肉体変化

 肉体を自分のイメージする姿へと、変化させることが出来る。

 ──イメージが定かでないと、スキルは発動しない。


 

 俺はスキル・肉体変化を取得して、身体を変化させた。

 何とか肉体は取り繕えたが、記憶の殆どは無くしたままだ。


 まあそっちは、仕方がないか──


 前世の記憶は不要だったので、ほとんど魔力に変換したが──

 今日一日の記憶は、ちゃんと残してある。


 これで暗殺者を、迎え撃つことが出来るぜ!!


 *************************


 名前

 デリル・グレイゴール


 武力       50

 知力       18

 統率力       4



 生命力             120/120

 魔力     8899896 /8900000  


 カリスマ                  0

 

 スキル

 予定表 限界突破 ラブ・アロー 鑑定 魔力変換 肉体変化


 *************************

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