XXII.作戦会議
目の前に現れた黒魔獣。
魔獣の中でも上位君臨するだけあって、迫力が桁違いだった。
「いまの僕たちでは敵わないよ……」
ディコイ言うように、俺たちの武器や炎魔の火力では到底敵わない相手だった。
――どうする……。魔剣を使うにしても、久遠と戦ったときとは訳が違う……。
「グルルルルルルルッ」
牙を剥き出し、俺たちを威嚇する黒魔獣は、狙いを定めるような目つきで睨んでいた。
「まじでどうする?全力疾走しても、こいつの脚の方が絶対に速い……くそっ……俺様としたことか……足が震えてやがる」
炎魔の方を見ると、確かに足は震えていた。
――前に襲われたトラウマがあるんだろう……。ここは俺が犠牲になるか……。
頭の中でぐるぐる考えていた時だった――。
『コイツラニモ、ワタシノコエガ、トドカナイ』
――この声……どこから聞こえて来るんだ?
「今、声が聞こえなかったか?」
俺は炎魔とディコイに向かって尋ねてみた。だが、2人から返ってきたのは、
「トラ、何言ってんだ?」
「声なんて聞こえないけど……」
――じゃぁ一体誰が……。
俺はこの場にいる面子で考えた結果……嘘か本当か確認すりために黒魔獣へと尋ねることにした。
「さっき、声が届かないと言いましたか?」
黒魔獣は俺の方をまっすぐ見つめ、警戒しながらではあるものの、少しばかり表情を落ち着かせた。
『ワタシノコエガ、キコエルノカ?』
「はい」
『……ヤット、デアエタ』
そう言った黒魔獣は、安心したようにその場合に座り込んだ。
「えっ?なになに……何が起きたの?……なんで?」
「トラガ……もしかして、黒魔獣と話せるの?」
「うん……そうみたい」
「……わぉ」
『ヒトノコヨ、ワタシノハナシヲ、キイテホシイ』
「わかりました」
そうして黒魔獣は自らの事を語りだした。
彼はもともと、人間が住む村や街から離れた、森の奥深いところを拠点とし、群れで生活をしていた。人との接触を避け、穏やかに生活をしていたある日のこと、多くの人間たちが森へと入ってきた。そしてあろうことか、仲間の魔獣を次々に連れ去った。待てど暮らせど、仲間が帰ってくることはなく、事情を聞くために連れ去った連中と同世代くらいの人間を見つけては、話をしようとした。
だが、彼と話せる人間には会えず、街周辺をうろうろしていたそうだ。
人間たちに危害を加えるつもりはなかったが、敵意剥き出しで攻撃されそうになり、噛みついたり引っ掻き傷を負わせたりしてしまった……と。
「そんな事情があったのか……」
「魔獣と話ができる事自体、珍しいもんな……気づいてやれなくてごめんな……」
――炎魔は半分人間であり、もう半分は魔獣だ。黒魔獣の気持ちも理解できるのだろう……。
「何か手がかりがあればいいんだけど……」
「う~ん…………あっ!」
何かを思い出したかのようにディコイが声をあげた。
「闇のオークションっ!」
「あぁっ!」
俺たち顔を見合わせた大きく頷いた。
「闇のオークションに魔獣が出品されてる可能性はある!」
「そこにこの子の仲間もいるかもしれない……」
「ただ……問題どうやって潜入するかだよ……」
「それな……」
「変装して潜入するか……」
「それしか方法はないかもなぁ」
「けどよ、変装して潜入するにしても、どこでオークションやってるかなんてわかんなくないか」
炎魔にしては至極全うな意見を言うようになった、と俺が感心し頷いていると、目を細めながら俺の方をみる炎魔の姿があった。
「あはは、炎魔にしては頭が回るな~っと思って……」
「ふんっ」
「まぁまぁ……そう拗ねるなって」
炎魔の肩をポンポンと軽く叩き、俺は機嫌を損ねていた炎魔を宥めた。
『ヒトノコヨ、ワレモ、トモニユク』
黒魔獣が俺たちの方を見つめながら言った。
「君は目立つから来ちゃだめだよ」
『ダガ……』
「俺たちに任せて」
『ガルルルル……』
「ゴホンッ」
ディコイがわざとらしい咳払いしながら俺たちの方を見ていた。
「……何かいい案でもあるの?」
「よくぞ聞いてくれましたね!」
「わざとらしい」
「何か言いましたか?炎魔くん」
「……いえ、何も……」
「よろしい。では、改めて僕が考えた計画を伝えるね!」
ディコイが考えた作戦はこうだ。
闇のオークションは夜遅くに開かれるため、それまでに変装コーディネートを考える。できればスーツでビシッと決めた方がいいそうだ。開催場所はディコイの方で調べがついているらしく、時間を見計らって潜入すれば任務完了!
――ものすごく計画的、とういうかいつのまに色々と下調べをしていたのだろうか……。ディコイの情報収集能力……恐る……べし。
「というのが、僕が考えた作戦だ」
「……なるほど」
「黒魔獣……俺たちは、闇のオークションに君たちの仲間がいないか確認してくる。だから……見つからないように待っててくれないか」
『……ワカッタ』
「君がこの街で見つかると、君自身の命が危ないんだ!それだけはわかって欲しい」
俺たちの事を信用したかはわからないが、黒魔獣は立ち上がり、ゆったりとした足取りで街の塀を登った。
『マタクル』
そう言い残し姿を消した。
「さて、僕たちも行こうか」
「……行くのはいいけどよ、服とかはどこで揃えるんだ?」
「僕に付いてくれば大丈夫だよぉ」
「……ディコイって、本当に色々と計画的だね……」
「んふふふ。ありがとう」
俺たちはディコイ計画実行に向け動き出した。
》》》》》
ウラハの闇オークションへ向かう準備をする怪しいご一行。彼らを率いる人物こそ、世界を力で牛耳ろうと企む張本人。
「荷物は詰め込んだか?」
「はい」
「よし。……この薬の効果を目の当たりした奴らは、一体どんな顔をするだろうな……くはははははは。今から楽しみで仕方ないよ……」
魔獣を捕らえた檻に触れ、不適な笑みを思わず溢してしまうくらい今回のオークションは楽しみだった。
「イツキ様、そろそろお時間です」
「……わかった。では行こうか」
『ガルゥ……ガルゥ』
閉じ込められた魔獣の鳴き声は、誰にも届かなかった。
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