XX.聞き込み調査

 トントントン―—。

 静まり返った室内に響く扉をたたく音——。


「入れ」


 その一言を聞き終えると、扉がゆっくりと開けられ室内へと入って来たのはキールだった。 


「イツキ様、至急報告したいことが……」

「何?」


――僕の機嫌を損ねる内容だったら承知しないよ。


 なんてことが伝わるようにキールを睨みつける。

 キールは察しのいい奴だ……。僕が今、心底ご機嫌斜めなのをわかっている。

  

「どうやら完成したようです」


――はい、合格っ! 


「そうか。……下がってよい」

「はっ」


 キールが部屋を出たのを確認し、僕は静かにガッツポーズをとった。


――さすがは魔導師協会の元幹部……。極秘薬の調合に成功したか……。これで魔獣は僕の想い通りになったも同然……。珀魔の中に炎魔を取り込むことも可能になるなぁ!


 僕はガラスケースの中で眠る、薬液に浸かった状態の珀魔を見つめながら呟いた。


「もうすぐ君たちは2人で1つになれるんだよ……愉しみだね」




》》》》》

 

 俺たちは結局、珀魔とイツキに関する繋がりがわからず、考えても仕方ないと話を切り上げることにした。

 

「結局、考えてもわかんねぇ。一体何がどうなってるかなんて……」

「そうだよねぇ……とりあえずは、ウラハで何か異変がないかを探らないと」

「そうだね……」

「それなら、私も協力するよ」


 ソーラさんの思いもよらない提案に、俺たち3人は驚きを隠せない表情になっていた。


「君たち……まぁ一番トラガくんが狙われることになるだろうから、3人は一緒に行動した方がいい」

「それもそうか……」


 始めは3人それぞれが別行動をとり、街の人たちから話を聞こうと思っていた……。

 が、ソーラさんに指摘され思わず納得してしまった。


「この際だから伝えておくよ。……トラガくん、君には魔力がある」

「ま、魔力ですか?」

「そう……それも、強力な魔力が……そしてなによりも、君自身が人を惹きつける力を持っている」

「この……俺に?」

「あぁ……それ、俺様わかるかも……初めて会ったとき、なんつうか……懐かしい感じがしたんだ。こいつとなら一緒にいてもいいんじゃないかな、って初対面ながら思った」


 ソーラさんや炎魔が言うようなことは一切思い当たらなかった。


――俺がここにいる人たちと違う事と言えば、違う世界から来たことくらい……。なのに、そんなぽっと出の俺が、何かしら力を持ち合わせているなんて到底考えられない……。


「私にわかることとしては、その魔力がまだ十分でないこと、かな」

「その……魔力を操る、というか……炎魔やディコイみたいに魔力を使うにはどうすればいいのですか」

「そうだね……人には固有魔力というものが存在するんだけど、それが何なのかがわからないと……なんともできないんだ」

「……そっか」

「そんなにがっかりすることでもないさ。魔剣でキールと久遠を弾くことができたんだ。きっと君固有の魔力が関係していると思うよ」


――俺自身の固有魔法が何か、イツキに関すること、炎魔を襲った魔獣に関すること……まだまだわからないことは多いけど、やるべきことが明確となっているだけでも冒険には打ってつけだと思うことにしよう。


 4人で話し合いをした結果、ソーラさんは妖精たちも協力のもとウラハ周辺で起きている魔獣騒動について、俺たち3人はウラハの街中で何か不穏な動きがないかを調べることで合意した。


 調査期間は5日。

 毎日固定の時間にソーラ邸で落ち合うことにした俺たちは、屋敷を出発した。


「いいかい、くれぐれも無理はしないようにね」

「はい」

「ではまた」


 そう言うと、瞬時にソーラさんは目の前から姿を消した。


「すげぇ……目の前で瞬間移動を見れるなんて……」

「ちょっと炎魔!関心している暇ないよぉ!」

「わぁってるよ」

「俺たちもウラハに戻ろう!」


 ソーラ邸とウラハの街を繋ぐ魔法陣へと向かい、そこでソーラさんに教わった呪文を唱えると、俺たちの身体は光に包まれ、瞬時にウラハの裏路地に移動することができた。


「やっべぇなっ!」

「ほぅら。さっさとしないと置いて行くよ」


 ウラハに着いた頃には、俺たちの変装も様になっていた。


『その恰好のままうろつくより、身なりを変えた方がいいかもね』


 ソーラさんから変装の提案を受け、ディコイが簡易魔法で俺たちの見た目を少しばかり変えてくれたのだ。


「トラガはその銀の髪が特徴的だから、街の人たちに多いクリーム色でうまく誤魔化されてるね。剣と弓も……旅人なら持ってるからバレないでしょ」

「俺様はどうだ?……その……かっこいいか?」


 少し照れ気味に言う炎魔は……かっこいい、というよりも、かわいいが勝っていた。

 彼ならではの髪色も、赤色からクリーム色に変わり、ひょっこり見えていた角は見えないように魔法でカモフラージュされていた。


「すごく似合ってるよ!けど……ひょっこり見えてた角が隠れてるのは残念かな……」

「似合ってるのはわぁってんの!俺様は、かっこいいか聞いてんの!」

「うわぁ……面倒くさいタイプじゃ~ん」

「何だと!」

「まぁまぁまぁ……炎魔も落ち着いて……ディコイ、炎魔を褒めてあげて、ねっ」


 いつも通りの2人の様子を見て俺は、このまま何も変わらないで欲しいと願うばかりだった。


 ウラハの路地裏から人通りの多い場所へと移り、有益な情報がないか聞き耳を立てながら街を探索していた。


「なぁディコイ」

「何ぃ」

「ディコイが情報を集めたい時って、いつもどんな風に集めてるの」

「う~ん……僕はよく酒場だったり、人が集まりそうなところに行くな……この辺だと……」


 ディコイが辺りを見渡し、とある1軒の店を指さした。


「あの店とか……なんかありそうじゃない?」

「言われてみれば……」

「行ってみるか~」


 こうして俺たちは【食事処 SUN】と書かれた場所へ向かった。

 店の近くへ向かうと、外からでもわかるくらい店内は賑わいを見せていた。


 カランコロン―—。

 扉を開けると来客を知らせる音が鳴り、それに気づいた店員が案内をしてくれた。


「いらっしゃ~い。ちょっと今混んでるけど、お好きな空いてるところに掛けて下さいね」


 店内を見渡し、中央にある4人掛けのテーブルが目に入った。


「あそこ、空いてるみたい」

「おけおけ」

「こうして見えると……ここには旅をしてそうな輩が多いな」

「確かに……」


 炎魔が言うように、店内にいるほとんどの客は、旅をしている雰囲気が漂っていた。

 席に着き、メニューを見ていると――。


「いらっしゃ。あんたたち、ここらじゃ見ない顔だね」


 見上げると、水の入ったコップを3人分、テーブルに置くお年を召した女性おばちゃんの姿があった。


「旅をしている途中なんです」


――出た……ディコイの営業スマイル。


 こういうとき咄嗟にそんな顔ができる彼を、俺はほんの少し羨ましいと思っていた。


「この店のおススメは何だ?」


 メニューを見ながら少しばかり悩んだ末、おばちゃんはある料理を指さしながら言った。


「そうだねぇ……これなんかどうだい。若いあんたたちにはボリュームがあってこの値段だし、3人で分けて食べれば1人あたりが支払う分も少なく済むよ」

「おぉ!」


――確かに見るからにボリュームがあって腹持ちは良さそうだし、コスパもいい。


「「これください!」」


 満場一致だった。


「あいよ。ちょっと時間かかるけど待っててね。奧の厨房でうちの亭主が順番に作るからね」


 意気揚々と去っていく後ろ姿からは、見事なまでに貫禄が感じられた。


「この店、夫婦でやってるんだぁ」

「俺様、こんな雰囲気の店すっげぇ好きだぞ」

「このアットホーム感が人気なのかもしれないね」


 店内に響き渡るおばちゃんの声と、厨房から聞こえてくるおじちゃんの声を聞きながら、俺たちは料理を待ちつつ、周囲から有意義な情報がないか探っていた。


 




  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る