XVII.本心

 俺はソーラさんに傷を癒してもらったお礼を込めて、手料理を振舞うことにした。炎魔とディコイはあまり乗り気ではなかったが……。


 ソーラ邸の厨房を借り、てきぱきと具材を切っては鍋に入れ、ぐつぐつと煮込むこと数分後……。厨房内にはスパイスのきいた香りが立ち込めていた。


「この匂いは何だろぅ……」

「くんくん……すっごく美味しそうな香りだねぇ」

「私たちも食べられるかなぁ……」


 匂いに釣られて妖精たちも厨房へとやって来ていた。


「もう少しでできるから、お皿の準備をお願いできるかな」

「はぁい!」

「あっ、待って~私も準備する!」


 俺の言う事を素直に聞いてくれる妖精たちとは違い、厨房を覗き込む2人のいじけた男ども……。


「あのさ、いつまでそうしてるつもりなの?」

「だって……」

「……いじいじ」

「はぁ……」

「トラガくんも曲者相手に大変だね……」

「あの2人、仲がいいのか悪いのか、たまにわからなくなるときがあるんです」

「そうなんだ……私からすると、3人とも似てるように見えるけどね」

「うぇっ!?」

「そんな顔しなくても……くははははは」


 ダイニングテーブルには色とりどりの料理が並べられていた。

 妖精たちが普段何を食べるのかわからなかったが、俺たちと同じ食事で問題ないと聞き、小皿に盛り付けをしていった。その間にいじけていた炎魔とディコイも顔を出し、妖精たちと並んで座っていた。


「こんなに賑やかな食卓は初めてかもしれないね……」

「主様が普段作る食事とは違って豪華ですねぇ」

「トラの作る料理はマジで最高だかんな!」

「そうなのですか?」

「えぇ。このグルメな僕の舌をも納得させたくらいですからねぇ」


 いつの間にか妖精たちとも仲良く話している姿を見てほっとした俺は、食卓を囲みながらわいのわいの食事をしている彼らの姿を微笑ましく思った。


 賑やかな食事を終える頃には炎魔とディコイもすっかりソーラさんと親睦を深め、親しげに話をする仲になっていた。


 ふと外を見ると、陽も落ち辺りは暗くなっていた。


「今日はこのまま私の屋敷に泊まらないか?」

「……ですが」

「まだ君たちと話がしたいんだ……だめ、かな」

「俺様は構わないぞっ!」

「僕も……もっとソーラさんと話がしたいです」

「……お言葉に甘えさせていただきます……」


 こうして一夜をともにすることにした俺たちは、ソーラさんが準備したホットミルクを飲みながら話をすることにした。


 ソファに腰掛け、リラックスしたところでソーラさんが切り出した。


「トラガくん、聞いてもいいかな」

「何でしょうか……」

「その剣……どこで手に入れたの?」

「俺様も気になってた……」

「僕も噂では聞いたことあったけど、まさか実在するとは思わなかったよぉ」


 魔剣が俺の手元に来た経緯はわからないこと、久遠と戦っている最中に突如して手元に来たことを伝えると、3人とも驚いた表情をしていた。


「うぅん……私も色々と調べてはきたけど、本当に謎が多い剣なんだよなぁ」

「そんな剣をトラが持ってる……摩訶不思議」


 魔導師ソーラさんですら実物を見た事がない魔剣がどうして俺の手元にあるのか……。謎は深まるばかりだった。

 すると、思いもしない答えが耳元から聞こえて来た。


「その剣、トラガさんを選んだんですね」

「……ん?……剣が、選んだ?」


 妖精の話よると、もともと魔剣は聖なる木の根元に昔から存在していたそうだ。聖なる木に辿り着ける者はおらず、妖精ですら一度木を離れると戻れない、とまで言われていた。そんな場所にひっそりと存在していた魔剣がある日、光を放ちながら姿を消したと妖精たちの間で話題になっていたようだ。


「私たちは、剣が自らの意志で主を見つけたのだと思いました。剣は人を選ぶ、と言いますからね!」


――剣が人を選ぶ……そんなの、ファンタジックすぎるでしょ……。


「選ばれる理由ってあるのかな……」


 思わず俺は、ぼそりと口走っていた。


「選ばれる理由……か……君はまだ気づいていないだけなんだろうね……その力に……」

「ソーラ……さん?」

「いや……何でもないよ」


 ソーラさんをはじめ、妖精たちも考えていたが、これといって思い当たるような内容は出てこなかった。


――ゲームや物語の世界で、こういった伝説とも言われる剣を手にする条件って、主人公に特別な力があるから……なんだよな……。俺にそんな力があるのか?


 結局答えは見つからず、そのまま俺たちはソーラ邸の客間で眠りに落ちたのだった。




》》》》》


「イツキ様……申し訳ありませんでした」


 主の前で膝をつき、今回の騒動について報告をする久遠とキール。


「まさか……魔剣が虎牙あいつの手元にいくとはな……」

「イツキ様、いかがいたしましょうか」

「魔剣は主を選んだんだ。その剣を横取りしたとて、本来の魔剣ではなくただの剣でしかない……こうなれば……くふふふふふふ」


 不気味な笑い声が部屋中に響き、久遠とキールは大人しく聞くしかなかった。

 

「少し、取り乱した……。お前たち……」

「はっ」

「時が満ちるのをしばし待て」

「……?」

「勝算があるとするなれば、……奴、次第か……」


 はっくしょん――。

 暗い部屋で薬品を作る1人の男がくしゃみをした後、鼻をすすっていた。


「誰だ……噂してんのは」


 ぐつぐつと紫色の液体の変化を見守る男の正体は――。

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