XVI.敵か味方か
どのくらい歩いただろうか……。
くねくねと道を曲がり、ようやく一軒の屋敷に着く頃には夕暮れ時となっていた。
「……ここが、……今住んでる私の家です。……まずは……貴方の……怪我の処置をしましょう……」
身体は俺たちの方を向いているが、相変わらず目線は斜め下を見ていた。
「あの……まだお名前をお聞きしてなかったのですが……」
「……ソーラと申します」
扉の前でペコリとお辞儀をするソーラさんからは何やら魔力を感じるような気がしたが、俺はあえて触れないことにした。
「お邪魔……します」
3人でソーラさんの後を追い、屋敷の中へ入ると――。
「おかえりなさいませ~」
「お帰りをお待ちしておりました」
「お客様をお連れなのですね」
「主様……一緒におられる方は?」
ソーラさんの周りを飛び回る小さき者たちの姿が目に入ってきた。
「ソーラさん……その方たちは?」
「彼らは……私と共に生活している妖精たちだ」
「妖精……俺様初めて見た」
「僕もだよ……本で読んだことはあったけど、実際に見たのは初めてだ……」
妖精——、ファンタジーの世界において、しばしば登場する悪戯好きで気分屋の小さき精霊。俺自身もこうして実物を目にすることができるとは思いもしなかった。
妖精たちは興味津々な表情をしながら、俺たち3人の周りを飛び始めた。
赤色、青色、黄色、緑色……様々な色の透き通った羽を持つ妖精たちが飛ぶと、室内の灯りで羽が反射し、キラキラと輝いていた。
「主様はここに人を呼んだことがないから、すごく新鮮ですわぁ」
「人間……じゃない奴もいるなぁ」
炎魔の周りを飛ぶ赤い羽根の妖精が彼の角をツンツンと触り、ぽつりと呟いたが、炎魔はくすぐったそうに妖精を避けていた。
「ちょっ……くすぐってぇよ!」
ディコイと俺の目の前には黄色い羽根の妖精がやって来た。小さな両手をパチン、と鳴らしもの言いたげな表情で問いかけてきた。
「ようこそお越しくださいましたぁ。せっかくですので、主様のお友達になっていただけませんか?」
「お前たちは何を勝手に……はぁ……これから怪我人の手当をするから、お前たちも手伝っておくれ……」
勝手気ままな妖精たちの姿に、ソーラさんは呆れながら言った。
「わかりましたぁ」
「主様の仰る通りに~」
パタパタパタ、と妖精たちは部屋の奥へと飛んでいき、カタカタと何かを準備する音だけが聞こえて来た。
「賑やかですまない……」
「いえいえ、むしろ羨ましいです」
「え?」
俺の言葉にソーラさんは驚いていた。
妖精は、聖なる地とも呼ばれる自然豊かな綺麗な場所を住処としており、本来であれば人との共存は望まない、と記されているにも関わらず、ここには多くの妖精たちが住み着いていた。そのことをソーラさんへ伝えると、彼らとの出会いを話してくれた。
》》》》》
私が1人で旅をしていたある日のこと、あろうことか道に迷い、気が付けば深い深い森に迷い込んでしまった……。そこは空気が汚れ、とてもじゃなく生き物が住める環境とは言い難い場所だった。私もすぐさまその場を離れようとしたんだが、足元にはたくさんの妖精たちが横たわっているのが目に入ってきた。中には命尽きた妖精もいた……。
私は急いで救える妖精を見つけ出し、その場を後にした。
後々知ったことだが、私が迷い込んだのは、あくどい魔獣が意図的に作り出した【迷える森】だったんだ。一度足を踏み入れれば魔獣の餌食……。そんな森から抜け出した私は、この屋敷で妖精たちの看病をし、その結果、彼らが住み着いた……ってことだ。
》》》》》
話を聞き終えた俺たちは、ソーラさんの人となりを少しだけわかった気がした。
――ソーラさんは悪い人では……ないのかもしれない。
「さ、トラガくんの怪我を治さないと……。奥の部屋に来てくれるかい?」
案内された部屋へ入ると、そこには床一面に不思議な魔法陣が描かれていた。
「これって……」
ディコイが食い入るように魔法陣を見つめ、息をのむ様子を見ていた炎魔がソーラさんを睨み、強い口調で言った。
「あんた
「ちょっと……炎魔?」
「僕も気になるねぇ……」
――2人してどうしたんだろう……。ソーラさん、悪い人には見えないんだけど……。それって俺だけ?
混乱する俺に対し、2人は何故かソーラさんへ敵意剥き出しだった。
「そう構えないで欲しいな……。私は決して君たちに危害を加えたりしないよ……。と言っても、信用されないのは当然かな……」
「炎魔、ディコイ……」
「トラは優しい奴だけど、鈍さはピカイチだかんな……」
「えぇ~」
「ソーラさん、貴方は一体何者なんですか?答えによってはこの屋敷が吹っ飛びますよ…‥‥炎魔の一撃で……」
「はぁっ?てんめぇ……」
「ははははは。君たちには敵わないよ……特に、トラガくんにはね……。改めて自己紹介させて欲しい。私は魔導師ソーラ……世間では占い師として名を馳せているが、実際には占いなんてしたことないよ」
――魔導師、魔導師……そんなキャラ、存在してたか?……俺、ゲームコンプしてなかったのか……?それもこれも全ては裏ボスルートだからか……?
1人困惑気味の俺だったが、それ以上に気になったのが、魔導師であるソーラさんが俺に敵わないと言ったことだった。
「ソーラさんが魔導師、ということはわかったのですが、どうして敵わないのですか」
「それは、君が携えている剣が関係しているかな……」
「剣……あぁ!これですか」
久遠との戦いの後、魔剣の魔力は消え普通の剣と化していた。
「積もる話はあとにして、まずは君の怪我を治そう。さぁ、この魔法陣の真ん中で横になって」
俺は弓と剣を炎魔に預け、ソーラさんに言われた通りに魔法陣の真ん中へと横たわった。
「……」
ソーラさんが目を閉じ、何やら呪文を唱えると、魔法陣は光り輝き、俺を包み込んだ。
――ディコイの
「これが魔導師様の力……僕の力よりも遥かに上だよ……」
「すっげぇ……」
炎魔とディコイの感嘆の声が聞こえてきたかと思うと、俺の周りには妖精たちが近づいてきた。
「主様はこの世で一番の魔導師様なんですよ」
「主様がこうして癒しを与えるなんて初めてなんですからね」
「温かくて気持ちいでしょ~」
妖精たちが言うように、ソーラさんの
「……」
ソーラさんが呪文を唱え終えると、これまで光輝いていた魔法陣はその場から消え、ごくごく普通の部屋へと戻ったのだった。
「ふぅ……一応これでおしまいだよ」
「……ありがとうございました」
「さて……夕飯でも食べながら話の続きをしようか」
俺の後ろで尚、睨みつける炎魔とディコイを見ながらソーラさんは言った。
――頼むから何も起こさないでくれよ……。
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