XIV.襲撃

 トラガと炎魔と別れ、ウラハの街をうろうろしていたディコイは、立ち寄った店でとある情報を手に入れていた。


「最近、夜になると物騒なことがよく起こるなぁ」

「あぁ……。この間も襲われたって聞いたぞ……」


 ディコイはさり気なく話をしている男たちに近づき声をかけた。


「その話、詳しく聞かせてくれないかなぁ」

「なっ、兄ちゃん……ここらじゃ見ねぇ顔だな……」

「昨日この街に来たばかりなんだ……しばらく滞在するつもりなんだけど、ちょこっとばかし気になることが聞こえてきたから……」

「なんだ……旅してんなら別に構わねぇな。兄ちゃん、よく聞きな……」


 男たちは声を潜めながら、最近ウラハで起こった事を話してくれた。

 これまで街中で誰かが襲われることはなかったが、ここ数日の間に少なくとも10人ほどの怪我人が出るほどになった。襲われた人たちはいずれも同じような時間帯、夜更け頃に人気ひとけのない場所で襲われていた……。怪我の状況から、襲い掛かっているのは同じ魔獣だということまではわかっているものの、魔獣の種類まではわからないそうだ。


「兄ちゃんも夜中には出歩くんじゃねぇぞ……。いつ襲い掛かってくるかわかんねぇからな」

「貴重なお話、ありがとうございます」


 話をしてくれた男たちにお辞儀をし、ディコイは店を後にした。


――魔獣の襲撃……か……。基本的に魔獣はこういう街には姿を見せないんだけどなぁ……。もしかしたら炎魔を襲った魔獣も同じ?……それは考え過ぎか……?


 1人で考え込むように歩いていた時――。


「あの赤毛の兄ちゃん、なんで追っかけられてるんだ?」

「そういや、向こうでは銀髪のあんちゃんが同じように追っかけられてたな」


――赤毛に……銀髪?


 ディコイは思わず、話をしている人たちの元へと駆け寄った。


「どこに走って行ったかわかりますか?」

「あ?……あんた知り合いか?」

「僕の連れです!」

「そういうことなら……確か赤毛の兄ちゃんはあそこを曲がって行ったぞ」

「ありがとうございます」


 お礼を言いながら、ディコイは駆け出していた。


――なんでバラバラになってんだよ!


 いつもは冷静なディコイだったが、この時ばかりは胸騒ぎで心が押し潰されそうになっていた。




》》》》》


「てめぇ……ここで一体何してんだ?」


 怒りの感情を露にする炎魔の目の前には、不適な笑みを浮かべる男の姿が――。


「そんな怖い顔しないで欲しいな。僕たちはでしょ……」

「くっ……ふざけたこと言ってんじゃねぇっ!てめぇのことなんか兄弟だなんて思ったことねぇんだよっ」


 炎魔は背負っていた金棒を掴み、戦闘態勢をとろうとしていた。


「ふ~ん。この僕に勝てるとでも?」

「ちっ……なめやがって……」

「残念ながら……僕は今、兄さんとり合うつもりはないんだな。こんなにも丸腰なのに、殺意を抑えて欲しいくらいだよ……」

「……なにが目的だ」

「僕はね、この世界を変えたいんだ。そのために邪魔者は消さないとね……」


 意味深な言葉を聞いた炎魔は、全身に鳥肌が立つのを感じていた。


「こんな所で油を売ってないで、早く彼の元に行った方がいいんじゃないかなぁ」

「……彼……って、まさかっ!」

「僕の側近は手強いよ」

「くそっ!!」


 炎魔は風を切るように男の横を通りすぎた。

 男は追いかける素振りすら見せず、炎魔が走り去る姿を見つめながら呟いた。


「またね、兄さん……」




》》》》》


 俺は男が走り去る姿を確かに見ていた……。

 男の気配も感じず、大丈夫だろうと判断して物陰から出たのが間違いだった……。


 目の前には追いかけてきていた金髪男と、仲間らしき別の青髪男が立っていた。


――どういうことだ?……こいつらの気配を感じなかった……はずなのに……。


「キール、貴様がなぜここにいるんだ?……赤髪を追ってたはずだろ?」

「色々あってな……お前の姿が見えたからこっちに来ただけのことだ」

「ふん……つまりは見失ったってことだな……このくそがっ!」

「はん?てめぇ何言ってんだ?いい加減にその態度直さねぇと殺すぞ」

「……られる前に、俺が貴様をる」


――俺の置かれている状況は一体どうなってんだ……。なんでこの2人がこんなにもバッチバチなんだ?……仲間じゃないのか?それよりも……今なら逃げれるんじゃね?


 そんなことを考えていると、キールが俺の方を睨み付けながら言い放った。


「まさか、この俺がおめぇさんを逃がす、だなんて思ってねぇだろうな!」

「うっ……滅相もございません……」


 俺に向けられている殺意は、あのとき後ろから声をかけられた時の倍以上……。


――今の俺に勝ち目なんて……あるわけないじゃん!どうすれば……。


「確か……名はトラガ、だっけな?……イツキ様の言ってた通りだな」

「イツキ……様?」

「ふはははははっ……教えてやるよ。イツキ様は、いずれはこの世界を牛耳る偉大なお方なんだ。貴様のような勇者気取りなんぞ、今この場で切り刻んでやるわいっ!」


 キールが俺の背丈よりも長い剣を取り出し、まっすぐ俺に狙いを定めていた。


「こいつは俺の獲物だっ!てめぇは引っ込んでろっ!」

「久遠っ!」


 久遠と呼ばれた男は、両手に2本の剣を手にした状態でキールを睨み付け、ものすごい殺意を向けていた。


「俺がこいつをるんだっ!……トラガっ!覚悟しろっ!」


 俺の方に向き直った久遠の目は、獲物を逃がすものかと言わんばかりの目をしていた。


――こいつ……本気だ……。このままだとられる……。どうすれば……。


 緊張からなのか、恐怖からなのか……俺の心臓の鼓動は激しく脈打ち、汗が頬をつたう……。


――考えろ、考えろっ……。一瞬の油断も許されない……。弓を構えて狙いを定めるか……いや、それじゃあ狙いを定めている間に俺がられる。俺には戦う術が……。


「おらあっっっ!!」


 俺に向かって一気に距離を詰め寄る久遠——。

 

――俺の第2の人生……ここまでなのかっ!俺は……俺はっ!……まだ死にたくないっ!


 そう思った時だった――。

 久遠に切られる……死の覚悟していたにも関わらず、気付けば俺自身が剣で久遠の攻撃を受け止めていた。


「貴様っっっ!!」


――うぇっ!?この剣……どこから出てきた?!……なんで俺が剣を持ってるんだ?!


「その剣っ……!!」



 おそらく誰よりも驚いていたのは俺に違いない。

 俺は伝説とまで言われていた剣——魔剣を握っていたのだ。





 








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