XIII.尾行
朝日が差し込む光で目が覚めた俺はあることに気づいた。
――なんだこの状況……。
左腕にはディコイ、右腕には炎魔がまとわりついていた。身動きがとれないため、2人を起こそうとしたが、気持ちよさそうに眠ってる人を起こすのも気が引けると思い、俺はどちらかが起きるまで待つことにした。
チクタクチクタク――
どのくらいの時間が経っただろうか……。両隣は一向に起きる気配がない……。仕方なく俺は、2人を起こすことにした。
「え~お2人さ~ん……起きて下さ~い」
「すぅ……すぅ……」
「……んん……ん」
――この状況が毎日続くのは無理だ!
さすがに俺も我慢できなくなった。大きく息を吸い込み、おもいっきり声を張り上げた。
「起きろっ!」
「うわっ」
「……んだ?何事っ!?」
飛び起きた炎魔とディコイに、俺はにこやかに答えた。
「朝だよ」
「……そんな起こし方あるぅ?」
「……トラ……顔が笑ってねぇぞ」
朝の状況を伝えると、2人して信じられない、と言いたげな様子だったが、俺はそんな2人を無視して部屋を出た。
「トラ~待てって……」
俺の後を追うように、炎魔とディコイが出てきた。
「……なんかごめんね」
上目遣いで謝るディコイ、両手を顔の前で合わせて謝る仕草をする炎魔。
「もういいよ。……ほら、朝ごはんでも食べに行こ」
俺の機嫌が直ったのを感じた2人は、さっきまでしょぼくれていた2人とは思えないくらいの笑顔だった。
宿を出ようとしていると、昨晩受付で案内してくれた女性スタッフが声を掛けてきた。
「
「……はい、おかげ様で……」
――ゆっくり休めたことは事実……。
「すっげぇふかふわだったよ!」
「ふかふわって……」
「それは良かったです!……お3方お揃いで、これから街へ行かれるのですか?」
「そうだよぉ。……あっ!おすすめのお店ってある?」
やや前のめりのディコイにも臆することなく女性スタッフは答えた。
「そうですね……この時間ですと、ウラハ中心街にあるパンケーキがおすすめです」
「わかった。行ってみるねぇ」
「ありがとう」
宿を出た俺たちは、賑やかな街に少しばかり圧倒されていた。これまで大自然の中を歩いてきたせいもあり、こうして多くの人々が行き交う光景に慣れるまで時間がかかりそうだった。
「すっげぇ人だな……」
「うん……なんか圧倒されちゃうね」
「街が大きいと人も多くなるからねぇ……」
しばらく街並みを見ながら歩いていると、ディコイが炎魔と俺の方を振り向き、ある提案をしてきた。
「あのさ、僕は一旦ここで離れるよ」
「は?……何、言ってんの?」
「ははは、言葉が足りなかったね……僕はこれから何か情報がないか探りに行こうと思う。夜には宿に戻るから、それまでは2人でウラハの街を探索してて」
「なんだ~そういうことかよ……」
「わかった」
こうしてディコイと別れた炎魔と俺は、ウラハの街をうろうろ探索することにした。
》》》》》
トラガと炎魔の跡をつける怪しい人影——。
「あいつら……どこに向かってるんだ?」
「さぁな!……っつか、こんなコソコソ跡をつけなくても、正面から殴り込めばいいんじゃねぇの?」
「こんな人通りの多い所で暴れまわるな、って言われているよな」
「そうだけどよぉ……」
「とりあえず、今はあいつらを追うしかねぇんだよ!」
「わ~ったよ」
1人はトラガと炎魔を見失わないように必死に追いかけ、もう1人は気怠そうにとぼとぼと歩いていた。
》》》》》
「トラ……」
「あぁ……」
後ろを気にしながら歩く炎魔に対し、俺も気に掛けながら歩いていた。
「なんか付いて来てる……よな」
「そう、だね……」
「どうすっかなぁ」
「
「だよな!うっし、いっちょ走るか!」
タタタタタタタタ―—
炎魔と俺は一緒のタイミングで走り出した。
すると、後ろを付けていた足跡も次第に走り出した。
「俺右行く、トラは左な!」
「おっけ。また後で!」
走ってすぐ分かれ道に差し掛かり、炎魔は右に曲がり、俺は左へと曲がった。
人が行き交う中を俺は必死に走った。
どのくらい走っただろうか……。息を切らしながら走り続け、ようやく
――さすがにここまで来れば撒けただろう……。
タッタッタッタ―—
足音が背後から近づいてくるのを気配で感じた俺は、急いで物陰に身を隠した。
近づく足音が止まり、変わりに聞こえて来たのは聞き覚えのある声だった。
「はぁ……くそっ!どこ……行きやがった……はぁ」
——あの時のっ!
辺りをうろうろする奴に見つからないように、俺は息を殺して潜んでいた。
――殺気がすごい……。
「ちっ……撒かれた……向こうはどうなったんだ……」
ぶつくさと言いながら来た道を戻る様子を見た俺は、ひとまず難を逃れたと判断し、その場に座り込んだ。
「危なかったぁ……」
初めて訪れた街とは言え、これだけ走り回ると今いる場所がわからない。炎魔と合流するにしても、落ち合う場所を決めておらず、どうして良いか途方に暮れていた。
》》》》》
男はちょこまかと走り回る炎魔を追いかけていた。
「くそっ!……はぁ……あれがイツキ様の……血縁者だと?……似ても似つかねぇじゃねぇか!……すばしっこいのは
――この速さでも付いてくるなんて……すげぇスタミナだな。
炎魔は人込みをかき分け、男を振り切ることに成功した。
「ここまで来りゃあいつも追って来ないだろう……」
男を振り切ることで、これまで背後に感じていた殺気は消え、炎魔は安堵の息を吐いた。
——それにしても……ここは一体どこなんだ?来た道を戻る……にしても、走り回ってたからどうやって行けばさっぱりわかんねぇ……。
辺りを見渡すも、見慣れない光景が広がっているだけであり、頭を掻きながら炎魔はどうするべきか考えていた。
辺りを警戒しながらしばらく道なりに歩いていくと、見知った姿が炎魔の目の前に現れた。
「久しぶりだね、炎魔」
炎魔の名を呼ぶその男は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
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