Ⅵ.賑やかな道中

 ハイールラを出立して数日――。

 俺は頭を抱えていた……。


 仲間が増えることは嬉しいことだし、道中も賑やかになって楽しい、何よりも心強い。だが……そもそもの相性というものが良くなければ、間に挟まるからすると酷なことでしかない!


「ねぇ、野宿ばっかりじゃなくて僕、たまには小屋で休みたい」

「んなこと言ったって、俺様たちにはお金がないんだから仕方ないだろ!」

「だったら魔獣でも見つけて討伐してお金に替えればいいじゃん!……ってか、僕はお金持ってるしぃ」

「そんなに言うなら、魔獣がどこにいるか教えてくれよ!ディコイは情報屋なんだろ!」

「情報屋だからって、何でも知ってるわけじゃないですぅ」


――この2人……なんでいつもこんなギスギスしてるんだ?出会った当初はディコイのこと、ちょっとイキってる風ナルシストの男だと思ってたけど、日が経つにつれ炎魔と同じような子どもっぽさが出てきてないか?これが……素、なのか?


 頭にいくつもの疑問符を並べながら、俺は炎魔とディコイのやりとりを真ん中で聞いていた。


「トラはどっちの意見に賛成だ?」


 突然の炎魔の問いかけに驚きを隠せない表情となった。


「えっと……なんの事?」

「だぁかぁら~、魔獣討伐でお金を稼ぐか、地道に素材を集めてお金を稼ぐか、って話!」

「あぁ……そういう話ね……う~ん」


――魔獣討伐は金額的にかなり稼げる、だがそもそもの問題として、魔獣がいなければ話にならない。かといって、素材集めには時間がかかる上に個々の金額が安い……。量が必要ではあるが、もともと獲れる量には限りがある。……どちらにしても難しい選択というわけだ。


 俺は考えに考えた結果を伝えることにした。


「どっちの意見にも賛成しない」

「まじかよぉ!なんで~?」

「まさかの答えだね……だったら、トラガの意見を聞かせてくれるかい」


 この広大な世界で魔獣と出会うためには生息している場所を把握していないといけない、それは素材集めも同じこと。


 金額的な事を考えると魔獣討伐の方が稼げるが、戦力が弱ければ敵わない。今の俺たちで勝てる魔獣のランクはせいぜい白魔獣程度。こういった事を踏まえた結果、今の俺たちに必要な事は、食料以外でケモノを狩り、ケモノ肉を売ることで収入と武器の経験値を上げることが理に適っている、という訳だ。


 淡々と意見を述べている間、2人してぽかん、としていたが、俺の話を聞き終えた時にはどこか納得した様子が見てとれた。


「まぁ、……トラの言う事も一理あるんだよなぁ」

「そうだねぇ」

「とやかく言い合うのもいいけど、ちゃんと話し合わないと……俺たち、一緒に旅する仲間だろ」

「……はぃ」

「わかったよ。ワガママは言わないように善処するよ」

「ははは、よろしく~」


 この先、色々と問題が出る度に、きちんとした話し合いができるかなど、様々な不安は尽きそうにもないが、都度話し合うしかない、と俺は思うしかなかった。


 その後も炎魔とディコイは違う話で議論していたが、俺は聞き流すように歩みを進めた。


「そう言えばトラ、俺様たちはどこに向かってんだ?」

「ハイールラから随分と歩いたよね」

「目的地は、『ウラハ』だよ」

「ウラハかぁ。ここからだとまだ距離はあるよねぇ。……けど、どうしてウラハなの?」


『ウラハ』――この世界で一番大きな都市。俺が前世でよく訪れていた都市でもあり、何かと情報が集まりやすいところでもある。俺がアロヒで店員から聞いた話によると、最近ウラハで怪しい動きがあるとかないとか……。多くの冒険者がウラハ近郊で行方不明になっているらしい……。ゲーマーとしての血が騒ぐのは置いておいて、単純にウラハに行くことで黒幕に関する情報が得られるのではないかと考えている。


「ディコイだって、大きな都市の方がたくさんの情報を得やすいだろ」

「まぁ、そうだねぇ。僕も何度かウラハには行っているけど、当時はそこまで有意義な情報はなかったからね。僕は賛成だよ」

「炎魔はどう?」

「俺様はどこにでも着いていく!この地図を完成させて、おっちゃんに見せないといけないからな!」

「……おっちゃん?」

「あぁ、ディコイと会う前に知り合ったハイールラのよろず屋の店主だよ」

「……ふぅん。よろず屋の店主っておじさんだったかなぁ」


 ディコイは小声でぶつくさと言い、何やら考え込むような様子だったため、俺はおもわず気になり訊いてみた。


「どうかした?」

「え?あぁ、いや……なんでもないよ!」


 両手で小さく手を振り、気にしないでとでも言いたげだったため、俺はそれ以上何も訊けないでいた。


「よぉし!ウラハに着くまでにケモノを狩りまくるぞぉ!」

「確か、通り道には川もあるから、魚も獲れるね」


 目的地が明らかになったことで、気を取り直した2人の足取りは軽くなっていた。




》》》》》


 ウラハへ向かう途中で、俺たちを待ち構える奴等に遭遇するだなんて、この時の俺たちは思いもしなかっただろう。


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