Ⅴ.仲間の条件

 食事処を探すこと3件目にして、ようやく『アロヒ』に到着することには陽が暮れ始めていた。


「まさか、炎魔がこんなにも方向音痴だとは思わなかったよ……」

「う、うるせぇ!だって俺様、地図とか持って動いたことないし……第一こんなの見てわかるわけないじゃん!」

「はは、そうだね……やべ……歩きすぎて腹減ったわ」

「俺様もぉ」


 くんくん――

 美味しそうな香りに俺たちの腹の虫が盛大に鳴いた。


 ぐぅううう――


「よしっ!先に腹ごしらえだ!トラっ!行くぞ!」

「うぃす」


 2人で涎が垂れそうなのを抑え込み、店の扉を開けた。


 チリリリーン――

 扉に備え付けられた鈴が来客を知らせ、その音に合わせて店員が俺たちに気付いた。


「いらっしゃいませ~どうぞ、空いてる席におかけください!」


 オネエ店主が言っていたように、夕暮れ時ということもあってか、アロヒは人で賑わっていた。ほぼほぼ席が埋まっている中、2人で座れそうな場所を探す。


「トラ、あそこのカウンターに行こうぜ」

「そう、だね」


 俺たちは2席分空いていたカウンターへと向かい、並んで座ることにした。


「何食おっかな~」

「ってか……お財布事情は大丈夫?」

「何心配してんだよ!大丈夫に決まってんじゃん!」


 と言いつつも、炎魔はコソコソと手持ちを確認していた。

 みるみるうちに表情が青ざめていく姿に、俺は察した。


――底をつきそうなんだな……。そうだよな、俺、無一文だもんな……。腹ごしらえはできても、今日は野宿決定だな。


「ここのメニューで食べれそうなのある?」

「……これくらいかな」


 炎魔が指で示したのは、アロヒでも一番お手頃価格のケモノ焼きだった。


「わかった」


 店員にケモノ焼き1人前を注文し、出て来たモノを2人で分けて食べることにした。


「俺、明日から魔獣討伐とかお金になりそうなことすっから」

「そんなことしなくとも……と言いたいところだが、よろしく頼みますっ。俺様も働くぞい!」

「せっかく選んだ弓も、使わないと強くなんねぇからな!」

「俺様も相棒を強くするぞぉ!」


 どの世界でもお金を得るためには働かなくてはならず、一番稼げる魔獣討伐含め、少しでも生活の足しになるようなことをしようと心に誓い、目の前のケモノ焼きを平らげた。


 あっという間に料理を平らげてしまった俺たち……。


――大食いの炎魔には全然足りないんだろうな……。こうなったら、店を出てから携帯食でも食うか……。


 そう思っていると、俺たちの目の前に1皿ずつ、ケモノ肉丼が置かれた。


「え?あの……これ、頼んでませんけど……」

「こちら、あそこにお座りの方から注文を承りました」


――え?何そのさり気ない心遣い……。前世でいう、バーとかでありそうな「あちらのお客様からです~」、的なこと?ってか何で俺たちなの?


 店員が言う、あそこのお座りの方を探すと、どこか見覚えのある姿に俺は驚愕した。


「あの方ですか?……あの端っこで足を組んで優雅に珈琲を嗜んでいる緑髪ロングヘアーの人」

「ええ、そうでございます」

「……ありがたくいただきます」

「トラ……これ、食っていいのか?」

「あぁ。せっかくの厚意だ……ただ……食べるからには後で一緒に行くぞ」

「んぐっだ」


 隣を見ると、すでにケモノ丼にがっつく炎魔の姿があった。


――俺たち、食べ物で完全に釣られたな……。さすがだわ……ディコイ。




》》》》》


 あっという間に食べ終わった俺たちは、お礼を言うため席を立ち、彼の元へと向かった。


「先ほどはありがとうございました」

「少しはお腹の足しになった?」

「はい」

「俺様はまだまだ食えっけど、今は我慢する!」

「そう。……で、僕に何か用があるんじゃない?」


 鋭い目つき、揺るぎないシルバーの瞳……まるで全てを見透かされているような錯覚に陥りそうになりながらも、俺は目の前の彼に問うた。


「失礼ながら、ディコイ様で間違いないでしょうか」

「別に敬称はいいよ。そんなに年は変わらないでしょ。話し方も普通にして欲しいな」

「わかりました……ごほん。では改めて。俺の名はトラガ、隣にいるのは炎魔。俺たち、一緒に旅を始めたばかり……です」

「くふふふふ、緊張が解けないみたいだね……。それより、いつまでも立ってないで座れば」


 ディコイは片手を差し出し、椅子にかけるように促した。


「あ……うん」

「うっす」

「2人のことは勿論聞いているよ。何しか珍しい組み合わせだからね」


――さすがは情報屋……。まだ数日しか経ってないのに知られている。


「どこから俺たちのことを?」

「しぃ。それは言えない」


 人差し指を口元に当てながらこれ以上は訊くな、と言わんばかりの表情をした。


「そんなに構えななくてもいいんじゃない」

「いや……そんなつもりは……」

「ってかよ、ディコイの方が俺たちに用があるんじゃねぇの?」

「炎魔っ!」

「ふはははは、僕の思ってた通りだ。君たちは面白い!」

「……?」

「ここはどうかな。僕も一緒に旅のお伴をしたいと思うんだが」


――へっ?は?……一体ディコイは何を言ってるんだ?


「意味わかんねぇ!なんで俺様たちが何にも知らねぇ奴と一緒に旅をしないといけないんだ?」


――そうだそうだ!言ってやれ炎魔!


「ふ~む。そうだねぇ……。僕ほど有能な人材に、この先出会えないと思うけどなぁ。なんてたって、僕は情報屋だよ。各地での情報収集は勿論のこと、君たちが欲しい情報を渡すことだってできる」

「なんと言うか……」

「胡散臭いんだよっ!」

「くふふふ、物言いがストレートだねぇ。そういうの、嫌いじゃないよ」


 何を考えているのか掴めないが、ディコイの言う通り色んな情報を貰える点では仲間に入れたいところだ……。


――そもそも、ディコイが仲間になることはシナリオでなかったはず……。やはり何かがおかしい。


「ディコイ。一緒に旅をする上で、確認しておきたいことがある」

「何なりと」

「……裏切ることはないだろうな」

「勿論だ」


 俺はディコイの目を見つめた。揺るぎない彼の瞳シルバーアイからは、強い決意がありそうに思えた。


「ちょ、トラっ!本気マジで言ってんのか?」

「あぁ。炎魔、よく考えてみろ。ディコイは情報集め長けているんだ。これから旅をする上で色んな情報があった方が俺たちも動きやすい」

「……まぁ、トラがそこまで言うならいいけどよぉ」

「これで決まりだね!さぁ乾杯でもしよう!そこのお姉さん、僕たちにアロヒ特製ドリンクノンアルカクテルをくれるかな」

「少々お待ち下さい」

「ディコイ!俺たち今金欠なんだ!頼んでも支払えないぞ!」

「ここは僕の奢りだよ。仲間なんだからぁ」


 炎魔と俺はお互い顔を見合わせ、キョトンとしていた。だが、ディコイの嬉しそうな表情を見ていると、ここは言葉に甘えようという思いが勝り、届いた飲み物で乾杯することにした。


「僕たちの出会いに、乾杯~」

「「乾杯~!」」




》》》》》


 新たにディコイが仲間に加わった翌朝、俺たちはハイールラの街を出立した。

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