Ⅳ.情報提供者
ゲームの世界とは言え、実際に歩いてみると店主が教えてくれた店までものすごく距離を歩いているように思えた。
「炎魔はこの街に来たことあんの?」
「う~ん……ない!っつか俺様、旅とかしようって思ったことない!」
「ふ~ん……って、えっ?じゃあ、なんで俺と旅をしようと思ったわけ?」
――旅をしようと言い出したのは紛れもなく炎魔だ。なのに……なぜだ。
「俺っちてさ、見た目こんなんじゃん。だからあんまり仲良くしてくれる奴、今までいなかったんだぁ。けど、トラは俺様にビビることなく接してくれた!なんかそれが嬉しくって……こうして一緒に旅すると楽しいかも、って思ったから誘った」
照れくさそうに話す炎魔を見て、俺はなんだか胸の辺りがむずむずしていた。
――凶悪とも言うべき存在の炎魔が、こんなにも照れながら話すなんて……。
「ふふ」
「あっ!俺様のこと馬鹿にして笑ったな~」
「いや……馬鹿になんてしてないよ!なんと言うか……ありがとう」
「変な奴ぅ」
こうして巡り合う事ができただけでも奇跡と呼んでいいだろう。俺自身、転生したばかりでまだまだ炎魔のことで知らないことはあるだろうから、これから時間をかけて知っていきたいと強く思った。
俺たちはその後も他愛無い話をしながら歩き、ようやく目的としていた服飾店に着いた。
カランコロン――
店内は客足がなく、ものすごく静まり返っていた。しばらくすると、店の奥から店主らしき人物がゆったりとした足取りでこちらに向かってきた。
「あらぁ、いらっしゃ~い」
「こんにちは」
「何かお探しかしら~」
内股でクネクネと歩いてくる姿、男性のように筋肉質の割に、女性が好んで着そうな服装にお化粧まできれいに施している。
――どっからどう見てもこの方は……オネエだ。
俺の記憶にこういう人物は存在していなかったが、街を徹底的にリサーチしている訳ではないためなんとも言い難かった。
「あの……よろず屋の店主に勧められて来ました。物がたくさん入る鞄を探しているのですが……」
「少々お待ちくださいね~」
店の奥へと歩いて行く後ろ姿を見ていた炎魔が、俺の耳元で囁いた。
「あの人って、どうみてもオカマだよな」
「言い方っ!」
ピシッ――
俺は思わず炎魔の額にデコピンをした。
「痛っ!だってそうだろぉ」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないじゃん!」
「は?トラ……何言ってんの?」
「わからくていいよ!」
小声で言い合いをしていると、オネエ店主がいくつか鞄を抱えて戻って来た。
「お待たせしましたぁ。こちらなんかいかがでしょうか~」
店主が始めに勧めてきたのは、黒色の大きめの手提げ鞄だった。いくつかポケットもあり、収納は多いが、持ち運ぶのに不便そうだった。
「できれば斜めがけのできる鞄をお願いしたいです」
「そうよねぇ。だったらこっち方が良いわよねぇ」
ダークグレーの斜めがけ鞄をカウンターに置きながら、店主は自由に見てね、といわんばかりの表情で訴えかけてきた。
「こちらは旅をされる方には人気の鞄ですわよ。丈夫ですし、肩から斜めにかけられますからねぇ。何と言っても、お値段がお手頃価格ですぅ。お色味は何色かあるのですが、お兄さんにはこのお色がお似合いかと」
「では……これをいただきます」
「うふふ、毎度ありがとうございまぁす」
炎魔が怯えるように俺の後ろからこっそりと支払いを済ませようとしていた。
「うふふ、別にとって食べたりはしないわよ、坊や」
「だ、誰が坊や、だ!お、俺様、別にビビってなんかないもんね!」
「あらやだ、威嚇する子猫ちゃんみたいね」
「ぐぬぬぬ……」
――言われてみれば確かに、全身の毛を逆立てて威嚇する猫のように俺の腕にしがみつきながら店主を睨んでいる。つまりは……炎魔はこういうタイプを受け入れられないんだなぁ。
「ほら、いくらなんでも失礼だから」
「なっ……」
「失礼を働いてすみません……。これ、大事に使わせていただきますね。お邪魔しました」
俺は店主から鞄を受け取り、炎魔の腕を引きながら店を出ようとした。すると、オネエ店主が気になることを話し出した。
「そう言えば貴方たち、これからどうするの?」
「あぁ……この街をしばらく探索します」
「あたしの知り合いがね、面白いことを言ってたの」
思わず足を止めてしまった俺。店主の方を振り返ると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる姿が目に入った。
「うっ……」
「あらあら~貴方まで怖い顔しちゃって、んふふ」
ゾワゾワァ――
背中から全身にかけて鳥肌が立つような感覚を覚えた。
「あの……面白い事って……」
「それはね、最近この街の近くで魔獣がよく暴れまわってるんですって……」
「そんなこと、この辺に限ったことではないだろ!シャァアア……」
「えぇそうね。だけど……その魔獣を先導している者がいるとしたら、どう?」
「そんなこと……」
――あり得なくもない話だ。だが……もしもそんなことができてしまうなら……。
「魔獣は人のいう事なんて聞かないんだぞ!どちらかというと人間を恨んでる!」
いつもにも増して炎魔が前のめりで訴えている。
――炎魔は何か……知っているのか!?
「うふふ、あたしの口からは何とも言えないわ。だって、人伝でしか聞いてないですもの~。もっと詳しく知りたいなら……この街にいるディコイを探すといいわ」
「ディコイ……」
まさかオネエ店主からその名を聞くとは思いもしなかったが、これはこれで探す手間が省けたも同然。
「ディコイがよく行く店はご存知ですか」
「えぇ勿論よ。この街随一、人が集まる場所……食事処『アロヒ』にいるはずよ~」
「わかりました。貴重なお話、ありがとうございます」
「いいのよぉ。貴方たちなら何とかしてくれると思ってね、んふふ」
俺は店主にお辞儀をペコリとし、無理やり炎魔の頭も押さえてお辞儀をさせ、今度こそ店を後にした。
「どうか、……この世界に安寧をもたらしてね、坊やたち。貴方たちならきっと……」
オネエ店主が小声で何か言っているようにも思えたが、俺たちは気に留めることなくその場を立ち去った。
「俺様、もうこの店には来たくない!あの店主……なんか怖ぇ感じがした……」
「俺もちょっと思った。でも、人は悪くなさそうだったよ」
「ふんっ!……んで、次はどこに行くんだ」
「アロヒっていうお店だね。地図で場所を確認しよう」
炎魔が地図を広げ、食事処を探す。この街には3件の食事処があるが、詳しい店の名前までは地図上に表示されない。
「ここから一番近いところから行こう」
「おうよ」
――ディコイ……待ってろよ!
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