第2話 召喚勇者はマイペース

 王城を出てからは、能力で創り出した金で、必要最低限の服や食べ物は揃えた。

 ん? 能力で金を増やすのはいけない? 異世界だから関係ないね!

 その後、異世界では定番の酒場に行って情報を集めた。

 なんだって? 未成年で飲酒も良くないって? 当たり前じゃないか! 飲むわけがないだろ!?

 そこで集めた情報によると、ここはプリテランス王の言ったように、南の王都、名は『ルプスヘイム』と言うらしい。

 この世界には全部で八都市あり、東西南北、と北西、北東、南西、南東でそれぞれが守護都市として機能しているらしい。

 魔物を退ける結界も張られているようで、迂闊うかつには都市に進行はしてこれないようだ。

 都市から先は、人間も住める環境の土地がしばらく続き、そこからは大きな山脈が広がっており、そこを超えると魔界と言われている。

 都市の外部にある集落や村は容赦なく、襲撃されてしまったらしい。

 そのおかげで、都市外部の人間はほぼいないそうだ。

 ――都市外の人間はどうでもいいってことか。全くもって嫌な話だ。まぁでも、人間なんて自分さえ良ければいいってのが普通か。

 正直この世界には同情するギリは無いのだが、考えるだけで嫌な気分になる。

 西の夕日を見ながらさっき買ったタルトの様な菓子を頬張る。

「ん〜! やっぱスイーツはたまんないね!」

 異世界とはいえ、しっかりおいしい。

 そのうまさに、表情が緩んでしまう。

「南の城壁まで後どれくらいだ?」

 この王都はファンタジーのとは別格で大きいらしい。

 まぁ、ゲームの方がストーリーの進行や歩行時間の都合上、小さいだけなのだろうが。

「気長に歩きますかぁ」

 ――それにそろそろくるからなんじゃないかな。

 拾はおもむろに振り返る。

「ビンゴ!」

 不愛想な顔を表すジト目と眼鏡。

 その割に良い姿勢と、この都市では目立つカーディガンの学生服。

 さっき王城で悟と名乗った青年だ。

「どうやら僕が来るのはわかっていたみたいだね」

「なんとなく、俺が能力を偽れば必ず確かめに来ると思ってな」

「少ししゃくだがその通りだ。わかっているならその理由を聞かせてもらおうか」

 そう言う悟は、警戒しているのか腕を組んでこちらを鋭く見据える。

「まぁ、そう焦るなよ。夕飯時だし一緒に飯でも食べながら話そう」

 悟は少し考えるそぶりをして答えた。

「いいだろう。だが君に金はあるのかい?」

 拾は待ってましたと言わんばかりに、ポケットから金貨を取り出した。

「君、それ……」

「ここは異世界だ! 日本ではない!」

 悟が言い終わる前に、拾はドヤ顔でそう言い放った。

「はぁ……まぁ、僕にそれをとがめる気はないよ」

「じゃあ、飯行くか!」

「あぁ」

 呆れ顔の悟と共に、拾は酒場に向かった。




 拾と悟は鳥の丸焼きと水、拾だけデザートを注文して席についた。

「てっきり、酒を注文すると思ったんだがな」

「まだ飲める歳じゃねぇよ」

「王城といいさっきの金貨といい、君の行動ぶりからは、考えられなかっただけだ」

「そっちこそ、俺と同じ鳥の丸焼き注文してるじゃんか。頭いいタイプは肉食系は合わないだろ!?」

 拾は不服そうに、きた水を一気に飲み干した。

「それこそ偏見だ。肉は人を作る大事なタンパク源だ。それを食べない理由はないよ」

 悟は腕と足を組んで背もたれに寄りかかった。

「それで……本題に入ってもいいかな?」

「あぁ、良いぜ。俺は元々引きこもりでな、ここにきた時はゲームで良くあることが俺にもできると一瞬思ったよ。でも、誰かに尽くすのは面倒だし、そもそもそれじゃ楽しくない。それに、この能力は便利すぎる」

 拾はテーブルの上で金貨を回した。

「だから能力を偽って、自分の必要性の無さと、扱いづらい人間ということをアピールしたと?」

「そゆこと。それに普通に金増やしまくれる人間いたら色々ヤバイだろ」

 拾は頭の後ろで腕を組んで、悟を見据えた。

「だからと言ってこの国にも、勿論お前らにもだが、敵対する気は一切ないから安心しろ」

「本当にそれだけか?」

「なんだよ、疑ってるのか?」

「いや、唐突な環境の変化に対しては、受け入れも早いし、ましてやリスクのある行動をとった。それは何か裏の考えがあるのではないかと思ってしまってな」

 悟は拾の方を鋭く睨む。

 これは納得のいく説明をするまで帰ってくれなそうだ。

 どうにか納得のいく説明はないものかと考えていると。

「まぁ、今日のところはそういうことにしておこう」

 あっさりと見逃してくれた。

「意外だな。てっきり徹底的に追及してくると思った」

「そうすれば君は教えてくれるのか?」

 その返しに拾は首を横に振る。

「今日君に会いにきた理由はもう一つある」

 そう言うと悟は、ポケットからこの世界の地図らしきものを取り出した。

「僕たちがいるのは……もう知っているのか?」

「もう聞きこみ済みです」

「話が早くて助かる。王城でのいざこざの時、プリテランス王が言っていた裏切りの勇者の話を覚えているか?」

 そういえばそんなことを言っていたような気がする。

 そのまま悟は続けた。

「その勇者なんだが、ここの都市だけじゃなく、守護結界がある全ての都市を囲むようにして、軍を展開させているらしい。あとは北の都市だけで、それももう数週間以内には終わるそうだ」

 悟は指で大きな円を描くようにして説明した。

「そしてその勇者がいるのが、ここの都市近辺らしい」

 ここまで、来ると何となく話が読めてくる。

「その来るべき戦いに、俺にも参加しろってことか?」

「そういうことだ。それは、プリテランス王だけじゃなく僕の意思でもある。それに、君自身の今後の生活にも直結するだろ? いくら君の能力でも、元となった素材のことを考えてしまうんじゃないか?」

 形のあるものであれば、自分でいくらでも生み出せる。

 しかし、悟の言うように、それぞれの原材料がその辺の草であったり砂であったりするのは、いささか複雑な気持ちになる。

 それは言ってしまえば気持ちの問題であるのだが。

「痛いところ突いてくるね。俺がおいしい食べ物好きって知ってた?」

「そこまでは知らないけど、その能力があるのにわざわざ買い物をする。そこからの想像だよ。さっきもデザート頼んでたしね」

「なるほどね」

「それで、どうする?」

 再度の沈黙、そして。

「お前の言い分はわかった。でも少し考えさせてくれないか?」

 拾は、はにかんで悟に返事をした。

「……時間はあまりない……明日中には頼む」

「わかった」

 悟は席を立って去ろうとする。

「ちょっと待て」

 拾は悟を呼び止めて、手を前に出した。

創造クリエイト機械ディバイス

 拾がそう言った瞬間、拾の手からスマホが現れた。

 そのスマホを悟に投げる。

 そのあとに、ワイヤレスイヤホンと、ソーラーパネルのついたモバイルバッテリーを創って投げた。

「これもっとけ」

 悟は少し驚いたような顔をしたが、すぐに無愛想な顔に戻った。

「俺が作った物との通信、連絡ができる。それに、元の世界で俺がよく聴いてた曲が入ってる」

「ジャンルは?」

「主にボカロとアニソン!」

「結構偏りあるけど……」

「しかたない! 俺の記憶に鮮明なやつしかできないんだ! あとはゲームミュージックかな」

 人気の曲も聴いていないわけではない。

 ただ、曲の記憶が薄いと、ところどころノイズが入ったり、音程が変になったりしてしまっていた。

 悟はイヤホンを耳につけて、曲を再生し始めた。

「……悪くない……」

 悟はそう言って少し微笑む。

「だろ! 返事はそれでするから! いつでも出れるようにな!」

「ああ」

「というかお前、見た目によらず話しやすいな」

「よく言われる、君も技名というか、そういうことをわざわざ言うんだね」

「することを声に出して言うことで、何を創るのか明確にイメージできるだろ? ほら、言霊ことだまって言われてるやつ」

「そういうことか。それじゃ、また。今度は趣味の話でもしよう」

 悟はイヤホンをしたまま、店を出ていく。

 予想以上に気に入ってくれたようだ。

「てかあいつ、飯食ってないじゃん……注文だけして帰りやがった……」

 そこに、さっき注文した鶏肉が二つ運ばれてきた。

「デザートはお食後でよろしかったでしょうか?」

 店員がニコニコとした顔で聞いてきた。

「あっ、うん。それで……お願いします」

 一人で二人分の肉を食べる青年。

「あれ? なんか少し悲しくなってきた……」

 拾はもやもやしながら、黙って二人分の鶏肉を食べた。


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