第6話 戦友

「———よりにもよって1時間目から体育とか運無さ過ぎだろ……こちとら全力で走って来たんやぞ……」

「お前は絶対準備運動いらねぇよな」


 俺は最終登校時間後1分前でギリギリ間に合ったのだが……残念ながらまた身体を動かさなければいけない様だ。

 因みに俺に話し掛けてきた奴は、山本やまもと悠真ゆうま

 中1の時から同じクラスで結構仲がいい。

 勿論顔面偏差値は俺と大して変わらず良くて中の上レベルなのだが、如何せん女子と話すのに慣れておらず、常に吃るのでモテない。

 そんな我が親友とも呼べる悠真が俺に尋ねて来た。


「宗介……体操服2着持って来た?」

「持って来てない。帰宅部が2着なんか絶対持って来ないだろ」


 てか普通に運動部でも2着上下持ってる奴は少ない気がする。

 運動部が体操服で活動してる所をあんまり見ないしな。


 俺が自身の体操服を入れた袋の中身を見せると……悠真は何故か少し嬉しそうに目を輝かせた。


「だよなぁ……仕方ねぇ、休んで女子の姿を眺めてるか!」

「寧ろそれが狙いだろお前……内なる喜びを隠しきれてないぞ……」


 俺は先に教室を出て行った悠真を他所に、先程からずっと目を瞑り、終始無言を貫いているクラリスに目を向けた。


「おーい、クラリスー? 君は男のパンイチ姿くらい見慣れてるんじゃないの?」

『……こ、こんな男子しかいない部屋に1人でいたことはない!』


 クラリスが目を瞑ったまま恥ずかしそうに頬を染めて叫ぶ。

 突然大声を出された俺は思わず声を上げそうになるが……ギリギリの所で口を手で塞いで耐えた。

 あ、危ねぇ……これで叫んでたら俺が変人認定されるとこだった……。


「きゅ、急に大声出すなよ……」

『それは悪かったが……とにかく早く部屋を出てくれ! ソウスケだって女ばかりの部屋は嫌だろう?』

「寧ろご褒美、男子の悲願だな。世の男子高校生の女好きを舐めんなよ」

『ここにいる全男子は、そ、ソウスケのような卑猥な悲願があるのか……!? あ、無言で逃げるな!』


 俺はクラリスからの追求を避けるために逃げ出した。









「ほら、アイツのあのだらしない顔を見てみろ。俺の言ったことは間違いじゃない」

『……ソウスケは優しいが……えっちだ』

「酷いな、これくらい普通だろ」


 グラウンドに出て列に並ぶ俺をジト目で睨んでくるクラリス。

 そして俺は、見えないクラリスと話しているせいで先程から隣の女子にめちゃくちゃ引かれている。

 おい、そんな目で見るな。


「何か文句があるなら聞こうじゃないか」

「あ、アンタ……何と話してるのよ……普通に気持ち悪いわよ……」

『ソウスケ……この少女は何者だ? 強者の雰囲気がする……』


 そう言ってうえぇ……とドン引きした表情を浮かべる女子———赤星あかほし雲母きらりは、俺の数少ない女友達である。

 彼女は漆黒の腰まで伸びる髪と、生まれつき光の屈折によって虹色に見える綺麗な瞳を持っており、名前もそれにちなんで夜空に輝く星……雲母になったらしい。

 因みに読みには意味があるが、漢字には大して意味はない、とも言っていた。

 そして———美少女でもある。

 

 実際、周りの男子が彼女に熱烈な視線を向けていた。

 まぁ雲母は全く気にした様子はないが。


 因みに、彼女も俺と同じ異能力者だ。

 しかも同時期に入ったのに、序列は俺よりも上の7位。

 この前使った異能———【風神】は彼女の異能力である。

 クラリスが強者と呼ぶのも妥当だろう。


 ただ、同じ組織に同時期に入ったからか、俺も彼女も互いに異性というよりは戦友とか悪友との認識が強い。

 昔は物凄く男っぽかったし。

 

「ねぇ、何か言いなさいよ……まるで私が悪口を言ったみたいじゃない」

「いや事実だろ。気持ち悪いは悪口以外の何物でもないが?」

「う、五月蝿いわよ! 大体アン———」

「そこ、静かに———赤星、高倉……またお前らか」

「「すいません、小田っち」」


 俺達は呆れたように注意して来る小田先生(身長は低いがムキムキ)に謝る。

 そんな俺達を……いや、俺だけを男子が睨む。

 おい、睨むくらいなら雲母に話し掛けろよな……てか悠真、お前は何度もチャンスがあっただろ女子専コミュ障め。


 此方を睨んでくる悠真を睨み返す俺の肩を叩いたクラリスが小田っちを見ながら言う。

 

『ソウスケ……あの方が先生か? というかあの人の口ぶりからするに……よく注意されているのか?』

「全部コイツが余計なことを言うのが悪いんだよ」

「はぁ? いきなり全責任を私に押し付けて来たわね。ぶっ殺すわよ」


 俺がクラリスの質問に答えると、隣で片眉を釣り上げた雲母から物騒な言葉が飛んでくる。

 

「おいおい物騒だな。あと、お前のぶっ殺すは洒落になんねぇよ」

「ふんっ、どうせ死なないじゃない」

『……私は何を見せられているのだ?』

「悪友の痴態———痛っ!? 力強いくせに無言で殴るなよ!」

「ねぇ、いい加減誰に話しかけているのか教えてくれないかしら? 気になってしょうがないのよ」


 俺の脇腹を殴って来た雲母が五月蝿いのでクラリスに許可を取って彼女にも見えるようにする。

 すると……雲母はクラリスを見て俺の襟ぐりを掴むと同時に叫んだ。



「———アンタ、そんな美少女何処で誘拐して来たのよ!!」

「いや言い方! お前のせいで皆んな俺を見てるじゃないか!」

 


 俺と雲母はその後小田っちから5分くらい怒られた。


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