第4話 侵略生物

「———そ、ソウスケ! 私はこのくらいの速さなら走れるぞ!?」


 そう言って俺の腕の中でジタバタするクラリスに……俺は街灯の上を足場にして走りながら真顔で言った。


「俺と同じ速度で走れる人だったら絶対組織に勧誘されるよ?」

「あ、そうか……」

「そうそう。だから侵略生物が見たいんだったら少し耐えてくれ」

「わ、分かった……」


 やっと大人しくなってくれたクラリスに俺は大きく安堵のため息を吐く。


 あ、危なかった……あんなにジタバタ動くもんだから胸とか太ももとか……か、考えるのはやめよう! 

 多分これ以上考えても碌なことないしな!


 俺は頭をブンブン振ってクラリスの太ももや胸の感触を忘れようとするが……流石にそんな奇行を行っていると、クラリスが不思議そうに問い掛けてきた。


「ど、どうしたのだ……?」

「あ、いや……何でもない。少し考え事をしてただけだから」

「……本当か?」

「…………勿論」


 俺は仮面越しにだが、確かにクラリスの視線を感じ、スッと目を逸らしながら頷く。

 何か言いたげなクラリスであったが……彼女も異様な気配を感じ取ったらしく、前方に顔を向ける。


「この気配……」

「あぁ、これが侵略生物の気配だ。それと……大分口調変わるから驚かないでくれ」

「……え?」


 俺は少し間抜けた声を発したクラリスを無視して公園に降り立つ。

 公園……と言っても遊具はなく、ただ観賞用の草木に囲まれた何もない空間に、3人の光沢のある黒いバトルスーツを着た男達と、3体の全体の肉がドロドロに腐った様な見た目の体長3メートル程の人型の生き物がいた。


「あれが侵略生物なのか……?」

「クラリス、君は此処で待っていろ」

「あ、あぁ……」


 俺はクラリスを木陰に降ろし、3人の異能力者の下へ向かい、その中の1人に話し掛けた。

 

「どう言った状況だ?」

「っ、『模倣者イミテーター』様!?」

「驚くのは後にしろ。今は状況説明だ」


 俺の言葉に、驚いていた男が顔を引き締めて頷く。


「はいっ! 現れたのは最低でもB級上位の個体です! 同じB級上位の私達でやっと相手にできる程度ですので。それと……通信機器は奴が現れると同時に使い物にならなくなりました」

「そうか。報告感謝する。ここは俺がやるからお前達は本部に連絡しろ」

「了解です! お前ら、此処は『模倣者』様が請け負ってくれるそうだ! 俺達は急いで本部に戻るぞ!」

「「おうっ!!」」


 俺は3人が居なくなるのを確認し……クラリスを呼ぶ。


「もう出て来ていいぞ」

「う、うむ……随分と堂々としていたな」

「まぁこれでも組織内で12番目に強いんで」

「な、何か微妙だな……」


 俺が気にしていることを……。


 恐らく無自覚であろうクラリスに恨みがましい視線を向ける。

 しかし、そんな俺に向けて侵略生物が腕を伸ばして攻撃して来た。


「ァァァァァァ……!!」

「今は取り込み中だ———【模倣貯蔵ストックⅢ:結界創造】」


 手を前に出すと、半透明の四角い結界が生み出され、容易く腕から俺達を護る。

 

「ほう……中々の結界だな……」

「クラリスに褒められるとは、誠に光栄だよ。ま、所詮劣化版だけどな」


 俺の異能力———【模倣】は、相手の身体のいずれかに触れれば異能をコピー出来る。

 しかし、どれだけ術者が異能を使いこなそうと、最大でも本家の7割程度のレベルにしかならない。

 しかも大量の異能を扱うのは並大抵の努力では成し得ないので、初めは良く『欠陥異能力』と言われたものだ。

 

「ァァァァァァ?」

「ァァァァァァ!」

「ァァァァァァ……」


 単純な攻撃が効かないと理解したらしい侵略生物達は、三方向から襲い掛かってくる。

 クラリスが癖なのか剣を召喚して抜こうとする。

 しかしその前に俺の異能力が発動し、3体の手から伸びた骨の剣を結界が受け止めた。


「……ソウスケ……」 

「クラリス、もう戦わなくていいんだ。コイツら程度なら、俺でも倒せるから」

「……ふっ、そうだな。ソウスケは12番目に強いんだもんな」

「何かイジられてる気が……【模倣貯蔵Ⅶ:風神『風の刃』】」


 俺が腕を振るうと幾つもの不可視の風の刃が現れ、人型侵略生物の1体を斬り刻む。


「ァァァァァァ!!」

「どうせまだ死なんくせに白々しい」


 俺がそう言うと、侵略生物は赤く光る瞳を細めて身体を再生させる。

 ただ……そんなのを許す俺ではない。



「『風槍の竜巻』」



 再生する侵略生物だけでなく、周りのもう2体の侵略生物も巻き込む程の竜巻が発生し、その中に入った者を穿つ無数の槍が3体の命尽きるまでその身体を貫く。


「ァァギュァァァァァァ!?!?」

「ギィィィィァァァァァァ!?!?」

「ァァァァァァァァァ……」


 竜巻の音に紛れて侵略生物の絶叫が聞こえてくるが……1分も経たずにその声は聞こえなくなった。


「ふぅ……はい、おしまい」

「……魔法にしては発動が早い……魔力の反応もない……異能の原力は何なのだ……?」


 俺は異能を解除し、俺の異能に付いて考察するクラリスに苦笑しながら電話を掛けた。


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