第四章「パレットに入れてみて?美しいから。」

 ぼくは、ひたすらな茜色にみりねの輪郭を見る。風に遊ばれる髪が茜の空に溶けるように感じる。東屋から離れて、展望デッキの柵に身を任せた。新鮮な陽を風を宙を前に爽快感につつまれる。体は、寒さのがまんの限界を訴えてるけど。


「ねえ、この世界がこんなに鮮やかだって伝えたかった。」


 みりねの表情は、まるで季節はずれのひまわり。


「おれが、挑戦して見た景色は、帰納したらさ。これみたいな景色だったから。だから、挑戦の楽しさをここで伝えよう、と思ってこの丘に来てもらったの。挑戦で、世界が鮮やかになっていく、世界の色が増えていく。でも、まさか地震に巻き込まれるとは予想外だったけどね、、、。夕焼けを見せようと思って朝焼けになったんだけどね、、、。

 すみにさっき言われて、ちょっと考えた。挑戦はたしかに、全員におすすめできるものじゃないってすみのおかげで気付いた。まさか気付かされる側になるなんて、まぁありがと、すみ。でもいまを楽しむための挑戦はしてほしい。それだったら、すみの身の丈にもあうんじゃないかな、、、どうかな、、、。」


「うん、ぼくもあれからちょっと考えて、ちょっとの挑戦はやっぱりしてみてもいいかなって思い始めてる。っていうのは、いまを楽しむための挑戦は、、、興味あるかも。

 あのとき、挑戦は報われないって知って、それと将来の職業もなんとなく決めちゃってあんまり頑張る必要がなくなって。それで、テストも現状維持で満足してて受動的な娯楽で時間をつぶして、なんとなくな生活を送ってた気はする。」


「そっか。おれはね、挑戦の数だけ、失敗あったじゃん。自分にあってないことは捨ててったじゃん。マラソンは、しんどすぎて、合ってないなって思ってやめたり。

人生で最大の挑戦は、できるだけがんばる!って思ったんだよね。そのために、地震で起こるアレを、すみに話した。だから親にも言える、言ってやる。たぶん言ったらアレはましになると思う。なんかいい解決策あるかもだし。それで、地震のときは、みんなを守れるように、挑戦してやる!って。失敗するかもしれないけど、途中下車して乗り換えるかもしれないけど、それはそのとき、ってね。

 あ、そうだモノクロに飽きたら絶対新しい絵の具をパレットに入れてみて?絶対、美しいから。とにかく、すみの絵筆とパレットは手放さないこと。自分の人生を満足な絵にする努力だけは、やめるのだめだよ。」


「おっけ。それも、分かってるよ。みりねは、多すぎる色のなかに溺れないようにね?色の種類は、使いこなせる量でね?」


「あ、おれのレトリック真似ないでー」


「えっ、いーじゃん。そうだ、いま思ったんだけど、いまを楽しむための挑戦は絵、ちゃんと描きたいなって思って。」


「いいじゃん!モノクロ世界と、鮮やか世界もちょっと楽しんでみるかんじだね。おれは、これからもいろいろ新しく挑戦していくよ〜ピアノしてみようかなーとかね。」


「すごー。そんなぼくは上手くいく気がしない、、、。」


「すみもしようと思えばね、いけるんじゃない?でも、すみがしたいのはいまを楽しむ挑戦って言ってたっけ。あっそうだ、魔法瓶のオニオンスープ飲んで、流石に下山しよ?体が鉛みたい、、、。」


「暖かいスープ?あるんだったらもっと早く飲ませてよー!」








         ❅              ❅



 





 そうしてぼくたちは下山して、昼前にはそれぞれの家に着いた。その後、すっごく怒られたけどね。あと、早く片付け手伝えーってね。


 ぼくは、美術部で去年はパスした冬休みの地域展覧会向けの絵を描き始めた。満足できるように、後悔のないように。いい絵を描きたい。

 みりねも、隣で絵を描く。しかも音楽の授業前、休憩時間にピアノを少しだけ披露するようになってる。なんか、音楽に数学隠れててびっくり、とか言ってた。これが世界が鮮やかになるってやつなのかな。


 そういえば絵を描き始めたら、絵の具をカンバスに塗るのがこんなに楽しいんだって思って。ゴッホは筆跡がのこるくらい厚塗りをしていたけど、ぼくみたいに塗るのが病みつきになったからなんじゃ、、、とか。これが新しい気付き?これが世界が鮮やかになったってやつ?


 そうだったらいいな。



 そうして冬休み前。期末テストも、みりねと勉強会を開いて(昔よりは)猛勉強した。結果、ぼくはちょっとだけ点数UP。みりねは、うーんすごい!って思うような点数。

 みりねはなんか世界史にハマったとか言って、斜線陣がどうのファランクスがこうの言ってた記憶。すっごい楽しそうに話すから。いいなって思った。

 あの丘で泣いたみりねは、なんだったのかなって。あの丘で本音を流しあったみりねは、なんだったのかなって。


 たぶん今見てるみりねが表面だとしたら、あのみりねはちょっと溶かさないと見えない内側。他のクラスメイトももってるんだろうな、そんな内側を。だとしたら、だとしたら、なんかすごい。多種多様な人間が、それぞれが多義的な面を持っている。その組み合わせは、想像できない。



 たしかにぼくは、モノクロの世界かも、挑戦は苦手。せめて身の丈にあった挑戦をと思ってる。人生の絵は満足する形に仕上げたい。まずは、しっかりいまを楽しもうかな。


 みりねの言ってた「人生の絵」。なんていうか『わたしの世界』のほうがぼくはしっくりくるんだけど、については、今まで考えたこともなかったから。

 みりねが連れて行ってくれたあの丘は、ぼくの世界が鮮やかにするきっかけになった。ぼくの世界の境界を知った。境界を押し上げた。ぼくの世界を見つめ直した。



 それってまさに、



ぼくはあの丘も、そう名付けることにした。

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