第4話 男の一人暮らしは炒飯が主食

(俺もあれくらいフランクに行けたらいいんだが)


 自分はあそこまで気軽に人に話しかけられないな、と一種の尊敬のようなものを覚えながら、入学式の会場を離れる。

 外へ出ると、会場の入口付近で家族とともに写真撮影をしている新入生たちで塊ができていた。

 優一の両親はと言うと、「今日は忙しいから難しい」と参加はしなかった。


(高校の卒業式までは参列してくれただけでも感謝すべきか)


 参列してくれた、と言っても毎回「この後仕事があるから」と式が終わり次第すぐに優一を連れて帰っていたのだが。


「はぁ」


 仲良さそうにはしゃぎながら写真を撮っている人たちを見ながら、優一は帰路につく。今日のところは家に帰り、なにか作って食べることにしようと決めた。

 優一は両親が共働きで遅くまで家を空けることの多さから、家事全般はある程度習得している。その中にはもちろん料理も含まれており、人並み以上のものが作れる自信はあった。



 会場から最寄りの駅から電車に乗り、家に帰る。食材は昨日のうちに少しだけ買ってあるので、それを使えば作ることができる。

 シワ一つ無いスーツを脱ぎ、よれよれになった部屋着に着替えた。スーツを着ていた時に感じていた苦しさのようなものから解き放たれる。


 今日の昼飯は、昨日余分に炊いておいた米を使ってチャーハンを作ることにした。

 冷蔵庫から卵を二つ、豚バラ肉と長ねぎを取り出す。卵はボウルに、残りの具材は豚肉のみ塩で下味をつけてから、細かく刻んでいく。

 ガスコンロの上にフライパンを設置して、火を付ける。まだフライパンが温まりきらないうちに、サラダ油を流し込む。油を流し込んでから、コンロの火を強火に変える。

 米と同等の大きさまで刻んだ豚肉を入れ、若干焦げるくらいまで火を通す。ここからはスピード勝負だ。

 ボウルに入れて混ぜておいた卵をフライパンに落とすと、ジュゥゥ、という激しい音と卵の焼ける良い香りが広がった。

 卵が固まりきらないうちに、温めておいた米も放り、かき混ぜる。

 そこまで済んでから、細かく刻んだ長ネギ、胡椒、料理酒を入れ均等に混ざるように炒めたところで完成。


 冷めないうちに皿に盛り付けて、席につき手を合わせる。


「いただきます」


 物の少ない優一の部屋に、その言葉が虚しく響いた。一人暮らしには必要ないと、テレビの購入をしなかったことを少し後悔しながら、チャーハンを口に運ぶ。その味は知り尽くした、優一のチャーハンであった。

 もちろん美味しくはあるのだが、なぜだが物足りず寂しさを覚える。

 優一はこれと言って味に厳しいわけではない。しかしながら、いつもより美味しくないチャーハンに疑問を抱きながら完食した。


「ごちそうさま」


 先ほど使った料理器具や皿を流しで洗ってから、冷蔵庫から豆乳と、ペットボトルのコーヒーを取り出す。それらを一対一の割合でコップに注いで、一息つく。この食後の豆乳コーヒーが、優一にとっては実家に住んでいた頃からの日課だった。

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