【KAC2024/ささくれ】WARNING☆彼の指に「ささくれ」発見!~その時あなたが得る称号は!?~

弥生ちえ

「ささくれ」で得る女子の称号と進化論

 問題です。


 気になる彼と2人きりになるチャンスを狙っていたあなた。今日はついに打合せと称した午後のコーヒータイムに漕ぎ着けることが出来ました。


 お洒落な流行りのカフェに入った2人は、各々注文した好みのドリンクをカウンターで受け取り、テーブル席を確保。カレカノじゃない2人は、さすがに隣り合っては座れず、向かい合って席に着きました。形ばかりの打ち合わせ資料を広げて、ドキドキなひととき。


 大好きな彼の顔ばかり見ても緊張するばかりで、あなたは視線を下げます。


 すると、なんということでしょう! マグカップを手にした彼の指先に「ささくれ」を見つけました。



 あなたはどうしますか?



 あなたの取る行動によって、意外な展開があるかもしれません。

 何をするのか1~5の選択肢の中から選んでください。


 1、なにもしない

 2、ハンドクリームを勧める

 3、「ささくれてるよ」と教える

 4、むしり取る

 5、かじりとる



 さて、ここからそれぞれの選択肢を採ったあなたの顛末を見てみましょう。






 1、なにもしない

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 勇気を出してやっと漕ぎつけたコーヒータイム!


 堅い話はさっさと済ませたい。いや、もともと絶対に話し合わなければならない事などなくて、2人きりで話をしたいだけの口実だった。だから、打合せ内容なんてぺらっぺら。すぐに話し終えてしまった。


 せっかくの時間。なのに指先のささくれが気になってしまい、打合せ後の雑談も、どこか気もそぞろ。いや、ささくれに思考と視線を侵食されてしまっている。


 そんなあなたの反応に、ついに彼も気付いてしまった。


「なんだか、つまらなさそうだね。打合せも終わったし、今日はこれで切り上げようか」


 ふ……と、軽く息を吐いた彼は、静かな視線を向けてくる。


「え……えぇっ!? そんなことないよ」


 慌てて否定の言葉を紡ぐけれど、彼は静かに微笑んで首を横に振る。


「気を遣わなくてもいいよ」


 ――ピンチです!


 そう、何もしないあなたはガツガツ行かない、おとなしキャラ。奥ゆかしいのも美徳だけれど、狙った獲物をゲットするにはあと一歩を踏み出したいところ。


 ここで留まったなら、あなたの得る称号は『ジレジレひとり相撲女子』!

 あーでもない、こーでもないと悶々と考え続けて事態の進展は見られません。


 ならばツンと顎を上げ、ゆったりと微笑んで見せましょう。「今日は有意義な時間を、ありがとうございます」など、余裕の在る一言も付け加えて、敢えて一歩引いてみます。押してダメなら引いてみな・です。


 そして、何も言わなくとも、とびっきりの笑顔を向けて――いえ、ささくれはもう見ちゃいけません。ひたすら「ささくれ」の誘惑に抗い、彼の瞳を見詰めて微笑んで見せましょう。

「ささくれ」に精神力で打ち勝ったあなたは、きっと貴族の女性並みのアルカイックスマイルを手に入れることが出来るはずです。その時あなたの称号は『必殺令嬢スマイル使い女子』に進化するでしょう。






 2、ハンドクリームを勧める

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 ささくれが気になって仕方ないあなた。きっかけ作りのために捻りだした打合せ内容にも今一つ集中できない。


 彼の顔と、指先をちらちら交互に見るあなたは、彼の不審気な表情に気付くのが遅れてしまった。


「なに? 何か気になることでもあるのかな。打ち合わせ中も、気もそぞろだったみたいだし」

「ひゃっ!?」


 ささくれに気をとられ過ぎて、話しかけられた驚きに両肩が跳ねる。


「あのっ、えっとね。えっと、えっとっ」


 焦りすぎて言葉が出ない。頭の中でさ「ささくれ」と、こちらの様子に気付いてくれた「嬉しさ」が、がっぷり四つで大戦争だ。下手にいまの自分の気持ちを言葉に乗せても、おかしなことを口走るに違いない。そう焦ったあなたは、まずは「ささくれ」問題を片付けようと、脇に置いたバッグに手を突っ込んでハンドクリームを取り出し――


 ささくれの出来た彼の手を引っ張って、そこに容器を握らせた。


「なに!? な、なっ……」

「ごめん、すごく痛そうだなって思ったら話に集中できなくって! これ塗ってみて」

「あ、うん。ありがと」


 無事ハンドクリームを勧めたあなた。ちょっとだけ打ち解けて、いい感じになれた。


 さてここで、スッとハンドクリームを差し出したなら、あなたの得る称号は『あわてんぼうな家族女子』! 言葉足らずでも必要なものが出て来るかわいい存在で、気を遣わない妹ポジションゲットです。あなたの思いとはちょっと違う、じれじれポジション。彼に彼女が出来てしまわないかハラハラする毎日を送ることになってしまいます。


 だからここは、もうひとつ勇気を追加! スッと彼の手を引き寄せて、手ずからクリームを塗ってみましょう。


 ひと塗りする直前に彼の眉間に皺が刻まれていなければ、一気呵成! ガンガン行こうぜ!! 手のひら、指先、手の甲と、ひたすら塗り込んでいきます。

 難しいことを考える必要はありません。だって、その時あなたは既に『あざとしたたか狩人女子』の称号に進化しているでしょうから。


 ただし、相手が嫌がる素振りを見せたら即時撤退です! うっすい眉間の皺とて、見逃してはいけません!!

 ウッカリを強調して迅速に撤退です!

 撤退に失敗して不名誉な『おしつけ母ちゃん女子』の称号に堕ちた者たちの屍は、そこここにたくさん転がっていますから。






 3、「ささくれてるよ」と教える

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 やっと二人きりの時間を共有できる幸せを噛み締めていたのに、なんというアクシデント!

 彼の指先の「ささくれ」が痛々しく見えて仕方がない。

 プリントや本をめくる彼の手が紙面に触れるたび、ささくれが捲れる痛みが自分の身に降り掛かった様に感じて顔を顰めてしまう。


 ささくれた指先を本の表面に這わせ、文字を追い始めたところで限界が来たのは、あなたの方だった。


「ごめん! 見てられない。ささくれてるんだけど!?」

「はぁ?」


 痛いのは自分じゃないのに、思い切り眉間に皺を寄せて苦痛に耐える表情のあなたに、彼はポカンと口を開ける。


「え? 何がささくれてるって!? こわっ、何見たんだよ。千里眼!?」


 彼の言葉に「はぁ?」と今度はあなたが聞き返す。ささくれがついた指先は目の前に有るのに何故「千里眼」なんて話になるんだと、頭の中は疑問符でいっぱいだ。


「だから、うちで親父と言い合ったのが分かったのかなって。俺、そんな不機嫌な顔してた?」


 参ったなぁ、と続ける彼とのすれ違いにようやく気付いたあなたは、「あぁ!」と大きく声を上げてしまった。カフェ中の視線を集めてしまって真っ赤になったあなたは、ようやく彼が「心のささくれ」のことを言っているのだと気付いた。


「ちがうちがう! 指先のよ」


 ここ、ここ……と、彼のささくれを指でちょんっと突いたあなたに、彼はきょとんと眼を剝いて――


 二人揃って吹き出してしまった。


「え!? なに、まさか俺勘違いしてた!?」

「うんうん。そんなこともあるよね、って言うか、これもどっちの意味!? って話だね」


 思わぬ展開に、再び揃って笑いがこみ上げる。


 意外にも、ストレートがなんだかイイ感じです。思わぬ勘違いで打ち解けたチャンスを逃してはなりません。この時あなたの得た称号は『天然ボケ連鎖ゆるふわ女子』です。天敵である『計算ボケ連立あざと女子』が現れない限り、あなたの立場は安泰でしょう。


 けれどこの天敵は、年齢を経るごとに出現率がアップします。くれぐれも、油断は禁物です。






 4、むしり取る

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 目の前をちらつく「ささくれ」。自分のでは無いけれど、見るだけでもあの痛さが、不自由さが脳裏に蘇って耐えられない。そんなあなたは、ついに禁じ手の暴挙に出る。


「えっ、えぇっ!? 何っ!?」

「問答無用よ!!」


 えいっと、力任せに彼の手を引き寄せる。そのままガッチリとテーブルに彼の手を押さえ付け、人差し指と親指の先を合わせて彼の爪元のささくれを――


「あ゛あぁぁあ゛ぁぁっ!!!」


 むしり取った。


 後悔はない。理不尽に痛みを思い起こさせる存在が、視界から消えたから。

 ただちょっと、目の前の彼とは縁が無くなっただけ。


 両方の瞳から心の汗を流しつつ、ふと彼を見ると、やけに熱い視線に行き当たった。


「え? 何? どうしたの!?」

「いや、なんだか善くって……いや、思い切りがあって良いよね、君」


 彼は、頬を赤らめ、ハアハアと荒い呼吸をしながら両膝を擦り合わせてモジモジしている。もしかしたらとんでもない扉を開いてしまったのかもしれない。いや、あなたがこじ開けてしまったのだ。


 あなたは禁断の称号を手に入れてしまいました。その名も『ささくれ男子純情狩りの女王』。

 ひとたび手にすれば、代わりの女王が現れるまで、彼にとことん執着される厄介な称号です。

 彼からの欲求は、ぐんぐんエスカレートしてゆくでしょう。ヒールやローソクの準備は大丈夫ですか? 備えあれば憂いなしです。


 軟膏やワセリンなども忘れずに! あ、もちろん「ささくれ」治療用に・ですよ。






 5、かじりとる

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 いや、ダメです。衛生的にも。

 余程彼の方で、あなたに気がないとドン引き案件です。

 不審者です。って云うか、普通に傷害事件です。


「―――!!!!」

「てへ。かじっちゃった。これでもぉ、だいじょ~ぶだね☆」


 いくら可愛く言っても駄目なモノは駄目だったらしい。


 彼の顔が見る見る蒼褪めて行く。これはまずいことをした、と流石のあなたも気付いた。何も言わずに戦慄く彼に不安感が募って、アニメで学習した上目遣いのウルウル瞳の決め顔を向けてみるが、良い反応は返っては来ない。


 やがて彼は、無言のまま立ち上がってテーブルの上の私物を片付けると、何も告げずに立ち去ってしまった。後から人伝に漏れ聞こえて来た彼情報によれば、あなたからの連絡を全て遮断するべく、各種連絡手段をブロックしたようだった。


 一世一代の大博打に失敗したあなたは、放心状態でただひとりその場に取り残されて、カフェ中の注目を浴びるのにも気付かない……。


 哀れなあなたが得た称号は『ささくれ博打で大破産、黒歴史に偉大なる一歩を踏み出した猛者女子』だ。


 後日彼から打合せ案件を引き継いだという青年が現れることになるが、このときのあなたは知る由もない。


 知らぬが仏――あなたのかじりつき所業を知って尚、一緒に組みたいと希望した彼が、フツメンであるはずもなく。一見おだやかな風体を装いつつも、あなたの思い切りの良すぎる奇行を期待し、「おもしれー奴」と上から目線で愉しめる、『乙女ゲームちょいワル貴族令息風特異性癖男子』なのだから。


 モテる故に、普通のカレカノ関係に飽きた彼。それに振り回されるあなたは、これから波乱万丈な恋愛を楽しむことになるでしょう。










 突飛な選択には、多大なるリスクが伴います。けれど、普通にしていては絶対に得られない思い掛けない称号獲得のチャンスが巡ってくる……可能性が、無くもないかもしれません。


 さあ、あなたもラブコメや溺愛ラブストーリーの、ヒロインへの第一歩を踏み出してみませんか?


 普通に飽きているのなら、ね。




※本作は、普通でない対応を推奨するものではありません。普通が一番。「ささくれ」は、根元から切ったり、軟膏を塗るなどと言った治療方法がネットにも出ております。もしもの際は、ちゃんと適した治療をなさってくださいね。

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