【KAC20244】旅立ち

龍軒治政墫

僕は旅立つ

「がんばるぞ!」


 僕は今日、ここから旅立つ。

 生まれ育ったこの村を出て、和歌山から軍港として名高い東洋一の町へ行く。

 そこまでは長距離の鉄道旅となる。汽車と電車で目的地へ。長旅になるが、楽しみだ。


 まずは鉄道省運営による国有鉄道――通称省線の日方町ひかたまち駅から紀勢きせい西線で和歌山市駅まで行く。

 そこから南海電車で和歌山から大阪方面へ向かう。超特急の走る阪和はんわ電気鉄道もあるが、海が好きなのでまったりと海を眺めながら旅を楽しみたい。

 そこからは再び省線での旅になる。省線城東じょうとう線で大阪駅まで行ったら、東海道本線に乗り換え。

 神戸駅からは山陽本線になり、岡山県を超えて広島の三原駅まで。


 三原駅から三呉さんご線が延伸して目的地まで行けるようになったので、安心して行ける。

 その前は脱線事故が多発していた河内こうち駅や、セノハチと呼ばれる大山峠の急勾配を下る八本松はちほんまつ駅から瀬野駅間を通って、海田市かいたいち駅からぐるりと回ってからしか行けなかった。

 今は通らなくても、手前から分岐して目的地まで行けるのだ。

 いい時代になった。だからこそ東洋一の町へ行く決意をしたのだが。


 その町の名はくれ


 そこは東洋一の軍港。紀南きなん――和歌山南部から宮崎南部までを受け持つ鎮守府があり、造船部から発展した海軍工廠こうしょうもある。その造船から鉄鋼、機械が発達している町だ。

 大正期には、世界最大の戦艦も建造しているこの町が、国内で一番進んでいるかもしれない。


 だから最先端のこの町で、最先端を学びたい。

 それが、僕の旅立つ理由。

 造船以外の工業も発展している。造船以外にも、その工業技術が生かせるかもしれない。


 だから僕は、この和歌山に別れを告げる。

 和歌山県、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県と走る鉄道旅。長距離をのんびりと景色を楽しみながら、行きたい。


 まずは、この目の前にある駅から鉄道に乗ろうじゃないか。

 数年前にこの村までやってきてくれた、この野上電気鉄道に。



 そう。僕が鉄道に乗る区間は、下佐々しもささくれの間。

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