十七色目 淡粉(タンフェン)

妹妹メイメイ!刺客が入ったって聞いたけど、怪我はない?!」

香月ごうげつ丹碧たんへきの部屋に刺客が入ったと聞き、慌てて様子を見に来た。

姉姉ジェジェ!怪我はないわ。来てくれてありがとう」

「私も心配したわ。あなたに怪我がなくてよかった。護衛は何をやっていたのかしらね」

香月と一緒に来た、春霊しゅんれいがそう言った。

「私、強いので大丈夫です!」

しばらく、一緒に寝た方がいいと思ったくらい心配になった。

「陛下に、しばらくの間一緒に寝てもらったら?」

春霊が香月の言いたかったことを、全部言ってくれた。

「その方が私たちも安心だわ。お願い…」

「わ、わかしました。頼んでみます」


しばらくして、香月は丹碧の部屋を出る。

昭愛しょうあい、行くわよ」

香月は侍女の昭愛に声をかけたあと、歩き出した。

「かしこまりました」

(これは御史台ぎょしだいではない。恐らく、後宮の妃仕業…)

後宮の妃を一から調べるのは大変なので、的を絞ってから調べることにする。

「昭愛。後宮の妃で、怪しいと思う者を徹底的に調べ上げなさい。いいわね?」

昭愛は頭を下げ、命令を実行しに行った。

「おや?香月じゃないか!こんなところでどうしたんだい?」

香月に声をかけたのは、賢妃けんひである、青蝶せいちょうだ。

「賢妃さまにお目にかかります」

「堅苦しいのはいい。それより、黄充儀こうじゅうぎのところに刺客が入ったと聞いたが、黄充儀は無事なのか?」

「ご心配なく。皇后こうごう候補である丹碧は、何があろうとわたくしめが守ります」

青蝶は香月の肩に手を置いた。

「君と、春霊に任せてよかった」

「…それでは、失礼いたします」

香月は頭を下げ、自分の宮へ戻った。




(あとは、私の役目か…)

青蝶は、華雲かうんのところに向かう。

「本当によいのですか?青蝶さま」

青蝶の侍女、采利さいりにそう聞かれた。

「私だっていやだよ。何をされるかわからないからね。でも、行かないと…」

華雲に会うのは怖いが、これからの後宮のためだと思うと、怖いなど言っていられないことに気がついた。





「失礼いたします」

陛下がよかった、と少し思った。

「用が済んだらすぐに帰って…」

黄充儀が来てから、華雲の元に陛下は来なくなってしまった。つまり、華雲への寵愛ちょうあいは衰えたのだ。

「酷いです。来て早々、帰れだなんて」

華雲は青蝶を軽く睨む。

「何が酷いよ。わたくしから陛下を奪ったこと、忘れたなんて言わせないわよ?!」

この者が後宮に来たときも、今と同じことが起こったのだ。

「ごめんなさいって言えば赦してもらえる?それで赦してもらえたとしても、私はごめんだけは言わない。…梁淑妃。いや、華雲。これだけは言っておく。君は…「皇后」にはなれない」

何を言われているのか、さっぱりわからない。皇后になるために実家を出て、後宮に来た。先ほどの言葉で、何かが失ったような気がした。

「何を…馬鹿なこと…。わ、私は…皇后になるために…」

「では行く」

気がつくと、青蝶の姿は見えなかった。




(やっと…言えた…)

ずっと言いたかったことがようやくいえて安心した。

「青蝶」

誰かが、自分の名を呼んだ。

「陛下…?」



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