十六色目 深栗色(シェンリースー)

御史台ぎょしだいの長官である、厳 引京げん いんきょうはとある名簿をさがしている。

「どこだったか…」

名簿を探していると、次官の閻 凌夏えん りょうかが茶を持ってきてくれた。

「茶を持ってまいりました。名簿は見つかりましたか?」

「…今見つかった」

引京はようやく見つかった名簿を開けた。

「何かございました?」

「凌夏。お前、知っていたのになぜ、報告しなかったのだ」

凌夏を軽く睨みつける。

「あなたの手をわずらわすわけにはいかないのでね」

この者は御史台の中で一番優秀だが、大切なことを報告しない癖がある。大事には至らないのだが、報告してもらわないとこちらが困る。

(こいつのことだ。大目に見てやろう)

「引京さま。よろしいのですか?こう家を自由にさせておいて」

引京は茶器を手に取り、名簿を見つめた。

(黄家か…。自由にさせておくと、危ないかもしれぬ。もし、黄充儀こうじゅうぎが皇子を産んでしまったら、一巻の終わりだ。それだけはけねば…)




(御史台の奴らが、堂々動き始めたかもしれない…)

黄家当主であり、丹碧たんへきの実の兄でもある、黄 俊蛍こう しゅんけいは逸早く御史台の動きを予想した。

「俊蛍さま。丹碧さまからふみでございます」

その使者は俊蛍に文を渡し、部屋を後にした。

丹碧からの文を見ると、そこにはあってはならない内容が書かれている。

「何…?丹碧のところに刺客が…?!護衛は何をやっている!」

俊蛍は部屋の外にいる者を呼び、御史台の間諜を一掃するよう命じた。

(よくもやってくれたな…。私の可愛い妹を…)

御史台の長官を殺してしまいたくなったが、それはあまりにも事が大きすぎるので我慢する。

「今から朝廷ちょうていに行く」

我慢できず、俊蛍は朝廷に向かった。




(何やら外が騒がしいな)

と、思った瞬間、俊蛍が勢いよく光耀こうようの執務室の扉を開けた。

「失礼いたします。陛下」

今にも殺されそうなほど睨まれている。光耀はそれに驚き、何も言えなくなってしまった。

「陛下。あなたは何をやっているのです?あなたのところが一番安全だからと思って、私の可愛い可愛い丹碧を嫁がせたのですが」

俊蛍は早口で言った。

「そのことは、余も申し訳なく思っている。今後、このようなとこがないように…」

俊蛍が光耀のあご扇子せんすで上げ、また睨みつけた。今にも唇が当たってしまいそうなほどの距離に顔がある。

「しゅ、俊蛍殿…」

「あなたが離して、と言っても離しません」

俊蛍は扇子を開き、にやりと笑った。

「まぁ、いいとしましょう。ですが、丹碧が少しでもないたら赦しません。…そのおつもりで」

「わかっている。余は、好きな女子おなごを泣かせるほど愚かではない。安心せよ」

光耀がそう言ったあと、俊蛍は何か呟いた。

「ご立派に…」

「何か言ったか?」

「いえ。何も。急に押しかけて申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします」




「そなたが、黄 俊蛍か?」

光耀の部屋を出たあと、一番会いたくない人に会ってしまった。

「引京殿、凌夏殿にお目にかかる」

俊蛍はふたりに圧倒された。

「へぇ…。君が噂の黄家当主かぁ」

凌夏にじろじろ見られる。

「何か…」

「何もないよ。僕たちはもう行くね。さようなら」

ふたりは去ってしまった。何がやりたいのかよくわからない組織だ。

(なんだったのだ?今の…)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る