十五色目 柿子色(シーツースー)

(ああ…。誰か来ないかな…。暇…)

この状況で暇と思えるのも、幼い頃、少しだけ武術を教えてもらっていたおかげだ。

もしそうでなければ今頃死んでいただろう。

丹碧たんへき!無事…か…」

光耀こうよう陽春ようしゅん宵燕しょうえんが来てくれた。

「あ!陛下!」

丹碧は剣を放り投げた。

「あ!陛下!ではなく、怪我は?!」

「怪我はありません。来てくださり、ありがとうございます」

光耀が心配そうに見つめる。

「今日はここで休む」

「は、はい!」

光耀は宵燕の方を向いた。

「宵燕。そなたはよくやってくれた。褒美として、そなたを丹碧の側近に命じる」




こんなに嬉しいと思ったことは今までにない。

宵燕は光耀に跪いた。頭をゆかにつけそうなほど。

「ありがとう存じます!陛下!」

光耀は頷き、椅子いすに座る。

「さて、本題に入る。此度こたびの件、おかしいと思わないか?」

宵燕はとっくの昔に気づいていた。この事件が、はかりごとだということに。

「ええ。恐らく、謀でしょう」

「謀か…。後宮ではよくあることだが、これは殺人に値する。後宮の妃が考えられることとは到底思えない」

「謀だとすれば…」

後宮の護衛の者が慌てて走って来た。

「陛下!大変です!!」

その護衛はいつも冷静なのだが、今日はどこか様子がおかしい。後宮内で殺人でも怒ったのだろうか。

宵燕の絶対に当たってほしくない予想は、残念だが当たってしまった。

彩碧宮さいへききゅう宮女きゅうじょがひとり殺されました!」

(まさか…梁淑妃りょうしゅくひ…?)

考えられるのは梁淑妃だけだが、人を殺すまではしないはず。なぜなら、あの者は賢く、人を殺したあとのことをわかっているので、人殺しは絶対にしない。

(違う。だとすると誰だ…?妃ではい?だとすると…右丞相うじょうしょう左丞相さじょうしょうか…あるいは…御史台ぎょしだい…)

御史台はありえない。御史台は官吏の監視するための組織で、後宮とは関係ないはずだ。

だが、候補に入れておいて損はない。

今の御史台の長官は手段を選ばず、残酷だと聞いてきるからだ。怪しいと思えば、誰でも殺す。決して油断はできない。

「御史台…という可能性は…?」

光耀は目を見開いた。

「それはありえない。あの者たちは、後宮には入れないから、後宮の情報は手に入らないはずだ」

このとき、もっと調べておくべきだった、と後悔することになるのは、まだ誰にもわからない。



(我々が、どれだけ恐ろしい組織か思い知らせてやる…)

このとき、宵燕の予想通り、御史台は動いていた。

「長官。やはり、やめておくべきでは…」

「何を言っている。せっかくここまできたのだ。いまさらやめるわけにはいかん」

御史台の長官は、怪しい微笑みを浮かべた。

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