十三色目 灯草灰(タンツァオホイ)
(死ぬ…かと思った…)
あの者ー
「
(何をいっているんだ!私は!)
主人に甘えるなど、あってはならない。だが、この方には、つい甘えてしまう。
「ごめんね…。守れなくて…」
なぜか丹碧は謝った。
そして、
丹碧は、とある物を差し出した。
「…これ、よかったら。私が
ごめんね、と謝るが、宵燕は嬉しかった。誰かに、物をもらったことがなかったから。
(なぜ私が、牡丹が好きとわかったのだろう…)
宵燕が好きなものは、
「ひとつ…伺ってもよろしいですか?」
「ええ。いいわよ」
丹碧は優しく微笑んだ。前の主人だったら、棒撃ちされていただろう。主人に無礼ではないか、と。意味不明なことを言われて。
「なぜ、わたくしめが…牡丹が好きだとわかったのですか…?」
「なんとなくね。あなたは…「宵燕」は、牡丹が好きかな…と思って…。合っていたら嬉しいわ」
主人に初めて、名を呼ばれた。今までは、名を呼ばれるどころか、顔すら合わせてもらえなかったのに。
(初めてだっ…。こんなこと…)
なぜだかわからないが、涙が止まらない。
恐らく、嬉しいのだ。名を呼んでもらったことが。何かをもらえたことが。
「ありがとう…存じます…!丹碧さま…!」
この手巾は、一生の宝になりそうな予感がした。いや。予感ではない。もうなっている。宵燕は手巾をなくさないよう、
「では、失礼いたします」
「ええ。喜んでもらえてよかったわ。また、来たいときにいらしてね。お茶でも飲みに来たらいいわ」
丹碧は、信じられないことを言った。
(不思議な人だ。さすが、
皇帝が、
世継ぎには困らないだろう。この人がいる限り。
宵燕は退室したあと、とあるものを見た。
(…なんだ…?)
ふたりくらいの者が、彩碧宮の中でこそこそしている。
(刺客か?だとしたらまずい。戻って、丹碧さまをお守りせねば…)
戻ろうとすると、足音を立ててしまい、刺客らしき者にバレてしまった。
「うっ…」
後頭部を殴られ、宵燕は意識を失った。
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