十二色目 紫水晶(ツーシュイチン)
(今頃、罰を受けているでしょうね)
ふふっ、と楽しそうに笑った。
「
侍女の
「いかがも何も、あの忌々しい女をつぶせたのよ?楽しいに決まっているでしょう?」
「次の敵は
今、
(寵愛を独り占めするなんて、身の程知らずめ…)
「
「かしこましました。淑妃さま」
失礼いたします、と言い、紫翠は下がった。
(わたくしがしっかり、後宮がどういう場所か、教えてあげないとね)
華雲は紫水晶の
(どなたか、いらしたのかしら?)
「
「はい。こちらに。いかがなさいましたか?…丹…碧さま」
丹碧は、侍女や宦官たちに、名で呼ぶよう言っているのだが、宵燕だけはまだ慣れないようだ。
「無理しなくて大丈夫よ」
「…申し訳ございません…」
宵燕は丹碧に仕える前、とても厳しい人に支えていたらしく、笑顔すら失っている。
「…ご主人さまの名前を言うのは…その…初めてで…。申し訳ございません…」
どんなに厳しい人だったのだろうか。申し訳ございません、しかあまり言わない。
(ずっと、いじめられていたのかしら…。だとすると、物をもらったことはなさそうね)
丹碧は、自分で
(で、でも、今までで一番、よくできたやつだから…)
「丹…碧さま…。いかがなさいましたか?手巾を握って…」
「な、なんでもないの!大丈夫!」
宵燕はとても心配そうに、丹碧を見つめた。
「お顔の色も優れません。
「だ、大丈夫!そ、そんなことより…どなたかいらしたみたいだわ」
「そんなことではございません!すぐに太医をお呼びいたしますので!」
丹碧は宵燕の手を強く握った。
「…呼ばないで…。いらした方を、早くお通しして…」
「はい…。申し訳…ございません…。では、行ってまいります」
(どんな厳しい人に仕えていたのよ…)
事情を聞こうと思ったが、宵燕のことを詳しく知っている者は、この宮にはいなかった。
「黄充儀さま。お客さまがお見えです」
宵燕が言った「お客さま」は、とても豪華な衣を着ている。正二品の者ではなさそうだ。だとすると、正一品の人だろう。
(この方が、梁淑妃さま…)
「梁淑妃さまにお目にかかります…。ご機嫌麗しゅう…」
一番来てほしくなかった人だ。他の
(こんな人が後宮に入れたのは、この方のお父さまが
「黄充儀。あなたの女官や宦官は、本当に礼儀がなってないわね。特に、この者!」
梁淑妃は、宵燕に指を刺した。さすがに我慢できない。
「宵燕の、何がいけないんですか…?」
怒りで全身が震える。
「すべてよ。あなたの教育がなっていないせいで、あの子はあのままなのだわ。それから、この宮は何?お茶ひとつ、出さないなんて。礼儀がなっていないにも、ほどがあるわ!!」
「…お帰りくださいっ!!」
丹碧の声が、部屋中に響いた。
「わたくしに帰れですって?生意気な!」
梁淑妃は、机に置いていた手巾を見る。
「これは何?」
「手巾です」
「誰かにあげるの?陛下とかに?」
馬鹿にしたような笑い方をした。
「いいえ。違います。…宵燕に」
「ふふ。あはは!やめておいた方がよろしくてよ!この子に、手巾なんて似合わないわ」
梁淑妃は宵燕の頭を撫でているが、宵燕はとてつもなく怯えている。
(…まさか…)
もっと早く気づくべきだった。
「お帰りください!!その者は怯えているでしょう?!おやめください!」
「なんですって…?」
梁淑妃は丹碧のことに睨んだ。こんなことは体験したことがないので、どう宵燕を守ってあげればいいのかわからない。
(悔しい…)
「お帰りください!!淑妃さま!私の者に手を出すことは、断じて赦しません!」
「手を出すですって?…わかったわよ。帰ればよいのでしょう?では、また来るわね」
丹碧は梁淑妃を睨み返した。
(…勝った…!)
梁淑妃は丹碧の部屋を出ていった。
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