八色目 翠緑(ツイリュー)

青蝶せいちょうは朝礼が終わったあと、充儀じゅうぎである、丹碧たんへきに声をかけた。

黄充儀こうじゅうぎ、ちょっといいかい?」

青蝶が声をかけると丹碧は元気よく、はい、と返事をしてくれる。

「なんですか?賢妃けんひさま」

青蝶はかなり、丹碧を気に入っているのだ。

「私の宮へ来ないかい?」

できるのであれば、もっと仲良くなりたい。元下級役人の娘でも仲良くしてくれる人は少ないから。

(いい子だしな。…仲良くするのもいいかもしれない)

「えっ?!賢妃さまの宮にですか?!嬉しいです!」

喜んでもらえて安心した。

「喜んでもらえてよかったよ。さっそくおいで」

丹碧は二回ほど頷ずく。

青蝶の宮は東にある。丹碧の宮とはかなり離れているので、仲良くなっても気軽にはいけないだろう。

「確か…賢妃さまの宮は、翠青宮すいせいきゅう…ですよね?」

「ああ。よく知っているな。後宮に上がったばかりなのにすごいぞ」

青蝶は恥ずかしいことに、後宮に上がって、一ヶ月は自分の宮以外の名前を覚えることができなかった。

「ありがとうございます。あと、東にあるんですよね?」

「…覚えるのが早いな…」

この言葉で、青蝶の自信が半分なくなった。

「賢妃、独り占めはよくなくってよ?」

次に丹碧に声をかけたのは、貴妃きひである、許 朱蘭きょ しゅらんだ。

「貴妃さま…!ご機嫌麗しゅう」

四夫人よんふじんの中でも順番はある。

上から貴妃、淑妃しゅくひ徳妃とくひ、賢妃だ。

今の後宮に皇后こうごうがいないので、貴妃が後宮の最上位になる。

「貴妃さまにお目にかかります」

丹碧は軽く頭を下げた。これがもし、いじわるな姫だったら、罰を受けていただろう。不敬だと。

(ちょっと頭を下げる角度を間違っただけで、罰せられるなんて、怖い世界だよなぁ)

なんてことは、口が裂けても言えない。

「わたくしも、行っていいかしら?」

「もちろんでございます。貴妃さま」

青蝶はこんなに敬語を使ったことがないので、不思議な感覚だ。


しばらくして、自分の宮に着いた。

「わあ!すごい!とばりが翠緑だ!」

「翠緑…。ああ、色の名前かい?」

「はい!そうです!…すごい…!翠緑の帳は初めて見ました!!」

丹碧の目がきらきらしている。

好きなことがあることはいいことだが、青蝶には少しだけ羨ましかった。

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