六色目 雪灰(シュエホイ)

次の日の夜、丹碧たんへき寝所しんじょを抜け出し、屋根に登る。

「陛下!こっちです!」

(…ずっと夜でいい)

そう思うのは初めてだ。他の妃と夜伽よとぎをすれば、面倒ごとが起こる。

あしたの夜伽の相手は誰だったか忘れた。

四夫人よんふじんの誰かだろうか。

どうでもいい。この者がいい。そう、強く思ったのだ。

「…丹碧」

名前を言えば、明るい笑顔を作ってくれる。

「なんですか?」

「そなたを…皇后こうごうにしたい」

何を言っているのかわからない。

「す、すまない!今のはなしだ!屋根を登るのであろう?!…どこから登るのだ?」

慌てて話を変えた。

屋根を登るのはいいが、どこから登ったらよいかわからない。

この質問をしたあと丹碧は笑い、こっちですよ、と案内してくれる。丹碧は屋根登りの達人なのだ。

「…よい景色だな」

なんとか屋根に登れた。登れたのは、丹碧のおかげだ。

「そうでしょう?私、気に入っているんです。この景色」

屋根の上で呟いた。

「よい景色だ。とても…」

雲が近かった。今にもつかめそうなほど。

「ああ!いけない!陛下、すみません!今日、朝礼があるんでした!!」

丹碧が先ほど言った「朝礼」とは、妃たちが行ないものだ。簡単に言えば、四夫人たちのご機嫌伺い。

皇后がいない今、四夫人(正一品)の者たちが後宮を仕切っている。

四夫人たち仲はとても悪い。

「そうか。案内をしてくれてありがとう。行ってきなさい」

「はい。それでは、失礼いたします」

丹碧が言ったあと、光耀は自力で屋根から降りた。



「なんですって?!黄充儀こうじゅうぎが陛下と屋根に登っていた?!」

この報告を受けた、とある妃は机を蹴り飛ばした。

「お、落ち着いてください!」

「落ち着いてられるわけがない!!私は寵愛ちょうあいを一番受けている妃。そんな野蛮な娘といて、もし、万が一、寵愛が衰えてしまったらどうするの?!こうしてはいられない!」

その妃は勢いよく扉を開け、寝室を出た。





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