四色目 槐黄(ホワイホワン)

光耀こうような得意とするのは化粧だ。

(男なのだけれど…)

光耀付きの宦官かんがんである、陽春ようしゅんで練習してきた。

理由は、陽春があまりにも綺麗すぎるからである。

それが原因で遊んでいたら、いつの間にかうまくなっていた、というわけだ。

「そなた、名前は?」

「黄 丹碧たん こうへきです」

「綺麗な名前だな」

なぜか、この妃はむすっとしている。

そういうときこそ、化粧だ。

「化粧に興味はあるか?」

この者も女子おなごだ。化粧になら、興味はなるだろう。

「まあまあです。あなたさまが、お化粧をなさるのですか?…止めませんが、国を滅ぼす覚悟でお願いいたします」

あっさりと怖いことを言う。

「こちらへ来なさい。余が化粧をしてあげよう」

「け、結構です!陛下に化粧をしてもらう身分ではございません!!」

必死に抵抗する。

「少しだけの辛抱だ」

「はい…。陛下…」

今度は、おとなしくついてきた。

この者には、桃色の可憐なべにが似合うだろう。

さらに、目元を少しだけ赤くした。

それから、ほおをうっすら桃色に染める。

最後に、槐黄の花鈿かでんをつけたら完成だ。

「すごい…!ありがとうございます!陛下!」

喜んでくれたようだ。

おまけで、赤い爪紅つまべにも塗る。

「爪紅…ですか?」

「そうだ。そなたに似合うと思って塗ってみた。これは、余からの贈り物だ。気が向いたら使ってほしい」

むすっ、としていた彼女の目はいつの間にかきらきらしていた。

「女子はやはり、笑っている方が可愛い。…ひとつ、聞いてもよいか?」

「はい。なんなりと」

「そなたはなぜ、あのとき瓦に登っていた」

ふたりの間に沈黙が生まれてしまう。

「それは…」

丹碧が口を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る