一色目 牡丹紅(ムータンホン)

(わあ…!すごい!!)

街に出ると、色で溢れている。

色とりどりの傘や衣、何から何まで美しい。

丹碧たんへきはお気に入りの店に入る。

この娘はのちの「色皇后」だ。

両家の娘なのだが、こうしていつも街に出ている。

色を見るため。

「嬢ちゃん、また来たのかい?」

こう家の娘は色好きで有名だ。

ときどき、あちらの色と勘違いされるが。

「うん!どの宝石も綺麗ね…」

宝石を見ているとため息が出る。

宝石など毎日見ているのだが、ここの宝石はそこら辺の宝石とは違い、よく磨かれている。

「これ、見るかい?後宮御用達に選ばれた品だよ」

後宮、それは、皇帝の世継ぎを産む場所。

両家の娘しか妃にはなれないが、ごくまれに平民の者が妃になることもある。

後宮に入る者はみな、寵愛を受けたがる。

位を上げるためだ。子を産めば自動的に位が上がる。

昇進がない場合もあるが…。

「嬢ちゃんは、後宮に入らないのかい?」

ここのおじさんは、丹碧が両家の娘だということを知っている。

むろん、口止めはしてあるが。

「後宮なんてつまんないよ。色がたくさんあるわけでも、色の勉強ができるわけでもないからね」

後宮入りが決まってしまった。

後宮に上がると、色の勉強ができなくなる。

(断り続けるのも、なんだかな〜)

父に迷惑はかけたくない。できれば、これまでの恩返しがしたい。

屋敷に居させてくれた恩返しだ。

「そうなのかい?…後宮に入らないって決めたときは、うちの息子を紹介させてもらうよ」

ありがとう、と礼を言い、去っていった。


それから半年後、丹碧は後宮に上がった。

牡丹紅の襦裙じゅくんを見る。

嫁入りでもあるまいし、と少し呆れる。

「お嬢様さま、準備が整いました」

侍女の丹麗たんれいがそう告げる。

一番信頼している丹麗がついてきてくれることになり、とても安心しているのだ。

「ついてきてくれてありがとう、丹麗」

丹麗がにっこりと笑う。

この者は丹碧のことが好きすぎるあまり、名を変えた。「丹麗」と。

嬉しいが、なんだか申し訳ない。

こんなつまらない人間の、名の一部を名乗らせるなど。

「ずっと、おそばにおります!」

自身は気に入っているようなのでよかった。

「もっと、つまらなくなるけどね」

そんな予感がする。

牡丹紅色の輿こしに乗った。

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