第9話:フェリムの木の花粉。
それが起こったのはあまりに急なことだった。
どこかから発生したウイルスがあっと言う間に世界中に蔓延していった。
医療技術がウイルスの増殖の早さに追いつかず・・・犠牲者が出ていた。
そのウイルス発症の原因になったのは実は光の国の「フェリムの木」が千年に
一度と言われる花を咲かせたことだった。
その花粉は次元を超えて人間界にまで飛散して行った。
フェリムの木の花粉は妖精たちには影響なかったが、人間界の外気に触れると
人間にとって恐ろしいウイルスに変化した。
これまでもフェリムの木の花は咲いたが、過去にそんなことは一度も起きた
ことはなかった。
だから、ありえないことだったが、花の突然変異によるもので恐ろしいことに
なったようだ。
それで、ベルにもエンドランドから連絡が入った。
普通なら妖精たちは他の世界には干渉しないんだが、元は「フェリムの木」から
はじまったことだから、放っておくわけにはいかなくなった。
そこで妖精たちはウイルスを撃退するために人間界に行くことにした。
妖精が行くことを人間には前もって打診してあった。
妖精の存在なんか知らない人間は大いに戸惑ったが、背に腹は変えられない。
信じられないことだったが、妖精たちの申し出をいちも二もなく受け入れた。
そしてウイルスの脅威は大気と茜にも襲いかかった。
ベルのことが気になっていた横島は、あれ以来ちょくちょく大気の家に
顔を出していたが、気分がすぐれないと言い出して、来なくなった。
ウイルスに感染した大気と茜は病院にかかったが、ベルがいてくれたおかげで
酷いことにはならなかった。
「私が、ふたりを絶対治してみせます」
ベルは献身的に治療に専念して茜と大気の命を無事救った。
おかげで大気と茜は他の人より早く完治して自分たちのマンションに帰ること
が出来た。
で、ふたりを救ったベルは他の人たちの治療のため日本中のウイルスを
駆除して回った。
治癒能力に長けた妖精たちのおかげで、一時は危機状態だった人間は少し
づつ元気を取り戻していった。
でも力を使いきったベルは一時エンドランドに帰らざるを得なくなった。
「かなら王子様のもとへ帰って来るから、待てってくれる?」
「もちろん・・・だから安心してエンドランドに帰って元気になって
僕のもとに戻っておいで・・・」
後ろ髪引かれる思いでベルはエンドランドに帰っていった。
それから月日が流れ半年あまり・・・ベルは未だ僕のもとに戻って来ない。
僕は心配した・・・ベルはこのまま戻ってこないんじゃないかって?
ウイルスの脅威は一時的に去ったが、完全には消滅したわけじゃない。
・・・妖精たちは時々人間界に様子を見に来てくれていた。
だけどその中にベルの姿はなかった。
妖精たちが人間界に来る時はいつも空から光に包まれて降りて来る。
今日、ひとりの妖精が人間界にやってきた。
彼女の目的地は "桜ヶ丘町2丁目3−22番地"
「空中」って苗字のお宅・・・そのお宅の上空に彼女は現れた。
「私がエンドランドに帰って、そんなに月日は立ってないのに懐かしい」
「王子様、元気かな?」
「もうすぐ王子様に会えるね」
とうぜん大気と茜はその妖精が上空にいることなんか知らない。
で相変わらず姉弟で揚げ足の取り合いみたいなことをしていた。
そしたらいきなりドアホンが鳴った。
ピ〜ン、ポ〜ン。
「は〜い・・・」
「あ、大気、あんた出て」
「え〜俺?・・・どうせ宅配かなんかだろ、めんどくせ〜」
「あんた、ちゃんとマスクしときなさいよ」
「いちいち言われなくったって分かってるよ、要は接触しなきゃいいんだろ?」
ピ〜ン、ポ〜ン。
「はいはい・・・今開けますから」
大気が急いで玄関ドアを開けるとそこに、ひとりの少女が立っていた。
「おはようございます」
そう言ってその子は、ぺこりとお辞儀した。
「ベル?」
「ベルじゃないか?」
「久しぶりだね〜王子様・・・めちゃ会いたかった」
そう言うとベルは、いきなり大気をハグした。
「会いたかったよ〜王子様〜」
「ベル・・・ベルだ・・・」
「大気?・・・なに、大きな声で?」
「姉ちゃん、ベルだよ」
「うそ、ベルちゃん・・・よく戻ってきてくれたね、まじで?私も超嬉しい」
茜にとっても、ベルは命の恩人なのだ・・・だから今ではベルのことを
実の妹のように思っていた。
つづく。
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