第5話:ベルって呼んで。

「次の朝、目覚めたら・・・って言うより、結局昨夜僕は一睡もできない

ままだった。

なにもなくても女の子が横で寝てるってだけで正常じゃいられれない。


ベルちゃんはまだ僕の背中にくっついたまま眠っていた。

いつまでもベルちゃんの寝顔を見ててもしょうがない。

僕はベルちゃんを起こした。

まだ眠そうにしてる彼女を連れて下のリビングに降りて行くと姉ちゃんが

すでに起きていて朝食の支度をしていた。


「おはよう、姉ちゃん」


「おはようございます、お姉さん」


「おう、おはよう、王子様、おはようベルちゃん」


「やめてくれる?その王子様っての、バカにされてるみたいだから」


「あの私はバカになんかしてないよ・・・私を助けてくれた大気は

私の王子様なだもん・・・王子様って呼んでもいいって言ってくれたし」


「んん、まあベルちゃんはいいとして・・・姉ちゃんは絶対僕をバカに

してるよな」


「あのね・・・もうベルちゃんじゃなくて、ベルって呼んで?」


「あ、ああ、分かったベルちゃん・・・じゃなくてベル」


「さ〜さ、ふたりとも早く朝ごはん食べて」

「私も今日は大学休めないから、バイトもあるし・・・」


そうか、今日はベルちゃ・・・ベルを連れて学校へ行くんだった。


そう言うことならと姉ちゃんは取っておいてた高校時代の制服を

ベルに貸してくれた。

制服なんてそんなの学校卒業したら、普通処分するだろう?

なんで撮っておいたのか意味が分からん。

けど、まあ制服が残っていて幸いだった。


姉ちゃんとベルの身長、体型はさほど変わらなそうだったから、いけるだろう。


朝食食ってから僕は制服を着たベルを連れて最寄りの駅から電車に乗った。

制服なんか着たらベルは最高最強のおやじ殺しだな。

めちゃ初々しい・・・初恋の兆しって感じ。


電車なんて妖精には珍しいんじゃないかって思ったけど、とくに

これと言った反応もなくベルは大人しく電車に乗っていた。

もしかしたら、人間界に来たことがあるのか?

電車何て実は見慣れてるのかも。


それより乗客の男どもの視線が・・・全部ベルに注がれてる。

嫌な空気。

まあ、ちょっとした奇異の目にさらされはしたが、それでも声をかけてくる

ような失礼な乗客は誰もいなかった。

まあ目まぐるしい世の中、見るには見るがみんな自分のことが精一杯で他人

のことなんか関心ないんだ。


僕らは高校の最寄りの駅で降りて駅からはベルを連れて学校へ歩いて向かった。

他の生徒より少し早めに学校についたので、ひとまずベルを教室へ。


「僕はここで授業受けてるから、ベルはその間、図書室か学食へでも行って

てくれる?」

「なるべくなら知らない人と話さないほうがいいだろ?」

「いい?昨日も言ったけど、おとなしくしててよ・・・」


で、僕は最初に図書室へベルを連れて行った。


「退屈だったらここにある本読んでて・・・」


ベルは本棚の本を一冊取るとページをめくった。


「げ〜っ・・・文字ばっか・・・漫画ないの?」


「絵本ならあると思うけど漫画はな・・・」

「本はダメか・・・じゃ〜ベル、学食行ってみるか?」


で、ベルを連れて学食へ。


「あのさ、好きなもの注文して食べていいからね、お金はいらないから」


「だから、あの文字読めないってば」


「カベにかかってる写真みて適当に注文すればいいから」

「そこに自販機もあるからね、喉が乾いたら好きなものなんでも飲みな」


ベルは困った顔をして、それでも分かったってうなずいた。

まあ、僕もいい加減。

地球でのちゃんとした生活の予備知識すら教えてないのに彼女に無理

押し付けちゃって、そりゃ戸惑うわな。


「あのこれから授業?」


「そうだけど・・・」


「心細くなったら、話しかけていい?」


「話しかける?・・・ってベルはここにいるんだよ」

「教室までついてきちゃいけないからね?」


「ついていけないから、話かけてもいいって言って聞いてるの」


「言ってる意味が分かんないんだけど」


「あのね、私テレパスだから・・・王子様の心に話しかけられるんだよ」


「は〜なるほど、妖精ってそんなことができるんだ」


「どうりでスマホ持ってないわけだ・・・」


とぅ〜び〜こんて乳。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る