しまかぜ荘のユカイな休暇 怪奇現象編
……あ、お久しぶりです。光村あずみです。
あんの作者の野郎……!せっかくの春休みだというのにサボりやがって!またとない執筆日和よ?
それなのに、私たちのことなんかすっぽかして他のやつこちゃこちゃと書いて……。新作まで、出しちゃったし!
一生、恨んでやる……。子孫がかわいそうだから、作者の代だけ恨むけど。
話がそれた。
今、肝試し中なのは、覚えてる?
覚えてないのなら、私じゃなくて作者に文句を言ってね。
――で、今、私たちは円の形に沿って座っている。
参加者は、水晶さんと大家さんの二人以外全員。
反時計回りに並び順を紹介しとくね。
まず、私。その次に、萌さんと達樹さん。そして、辻さん、西本さん。で、私の両親、瑞希の両親。その隣には、夏海ちゃんを挟むようにして
そして、怪談を披露する順番も、同じ。
辻さんの仲間の坂上さんは、三脚を立ててカメラ越しに真剣にこちらを見つめている。
え?なんでカメラを回してるのか、って?私だって聞きたいけど、
「この歴史的瞬間を、見逃すわけにはいかない!すべて語り終えた先にある、奇跡のような現象。そして、恐怖に逃げ惑う人々。……なんて、すばらしいんだ!」
……とか、言ってた。「見逃すわけにはいかない」なら、肉眼で見ればいいのにと私は思う。それに、そんな現象が本当に起きるのかな?私、そういうのは信じてない。
「さあ、あずみくん。最初が肝心なんだ。自分の好きなタイミングで話してもらっていい」
西本さんが言う。辻さんたちは、みんなのことを「くん」付けで呼ぶ。
全員の目の前には、皿の上にぽつんと置かれたろうそくがある。話を語り終えると、消すという形だ。
私は、息を吸う。
「むかしむかし――」
これって、昔ばなしに使われるものだよな、とか思ったけど、些細なことよ。
怪談を話し終えた私は、ろうそくの火を消す。
「いまいちだったね。大体、それはネットに載ってたやつだろう?」
カメラを覗きながら、坂上さんが言う。
仕方ないじゃない!うちの学校は、怪談に乏しいし……。
「まあ、そんなに問い詰めるのもよくないんじゃないか?素人に、怪談のすばらしさを語っても理解できないだろう」
辻さんが言う。
なんて、腹立たしい言葉!
ほんとは、立ち上がってそう言ってやりたいんだけど、辻さんに向かっては言えない。そう感じさせる圧がある。
「じゃ、次」
「あ、はい。えっとですね、これは、友人から聞いた話で――」
藤白さんが語る。
これ、なかなかリアリティのある話じゃない……。
「――ある時から、彼女は視線を感じるようになったんです。でも、振り返っても誰もいない……。困った彼女は、この話を私に提供してくれた友人に相談しに来たんで――」
カタン。
そんな音がして、達樹さんの前のろうそくが倒れ、火が消えた。
「え……?」
誰かが、つぶやいた。
もしかして、これが怪奇現象ってやつ?
しかも、これ、藤白さんの話に関係ありそう。まあ、ないんだろうけど……。
誰もいないところから視線を感じるって、透明人間みたいじゃない。今回も、透明人間が皿を引っ張って?押して?ろうそくを倒したみたいだった。
――まあ、瑞希は「透明人間は目が見えない」って言ってたけど……。
「いったん、百物語は中断しよう。現状の整理が先だ」
辻さんが、部屋の電気をつけてから話す。
でも、ろうそくを倒したのって、辻さんじゃないの?
達樹さんは、そんなことをしなさそうな人だし。坂上さんがとってるビデオにいい
「ろうそくは、達樹くん側に倒れた。そして、消えた。犯人は、ろうそくの皿を引っ張って倒したんじゃないのか?反対側から押すには、あまりにも遠すぎる!だから、犯人は達樹くんなのだよ!」
辻さん、前から変な人だとは思ってたけど、まさか他人に罪を着せるとはね……。
「瑞希、辻さん、ひどいよね」
「?あずみちゃん、どうしたの?それって、今言うこと?」
「……え、どういうこと?辻さんの仕業じゃないの?」
「……なるほど、そういうふうに思ってたのか」
いや、「思ってたのか」じゃなくて!教えてよ!
――そういうところ、モテないんだって!
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