本編の前の箸休め 卒業編

 えっと……これが始まってから一週間ちょっとしか経ってないんだけど、私たち、もう卒業なのよね。


 卒業式の服は、とっても可愛かった。

 瑞希も「可愛いね」って言ってくれたんだけど、これは秘密ないしょ


 で、今に戻るんだけど……。

 卒業式の記憶は全くない。多分、それくらい緊張してたんだろうけどね。

 今日は、お父さんとお母さん、それに、しまかぜ荘の(ほぼ)みんなが来てくれた。(家族以外の人が来てるところはほとんどなくて、ちょっと恥ずかしかった)

 瑞希は、瑞希の両親に連行されていった。

 ……瑞希、親とあんまり喋らないけど、大丈夫かな?

 そう考えていると、突然お母さんが言った。

「あずみ、最近瑞希くんと仲良いわよね」

「べっ、別に、前から仲良いでしょ!」

「……ふふふ」

 お母さんは、にまぁ~と不敵に笑った。

「あずみちゃんも、もう卒業か……。早いもんだねぇ」

 さっきのは、私の下の部屋に住んでいる、大橋友恵おおはしともえさん。

 お母さんたちが越してくる前から、しまかぜ荘に住んでたんだって。

「ちょっと前まで、上の部屋からドシンドシンと音がするなって思ってたのに……」

「そうそう、あずみ。お前がちっちゃい時は友恵さんにどれだけ迷惑をかけたか……。ううっ、そんなお前ももう中学生になるのか……」

 お父さんが泣き始める。……もう、今日だけで8回目だよ……。


 ほかにも、水晶すいしょうさんがいる。

 水晶さんの本名は、大家さんくらいしか知らない……と、思うんだけど、大家さんは教えてくれない。

 水晶さんは、謎に包まれていて、あまりよくわからない。

 わかるのは、一人暮らしで占いをしているってこと。

 それ以外は誰も知らない。あ、性別も分からないのよね。

「そういや水晶さん、今日はなんで私たちの卒業式に来たの?」

「タロットカードで、今日のお前の運勢を調べたら、『順調な愛情』と出たからだ。……何か、起こりそうじゃないか?」

「……気のせいだよ、多分」

 本当は、「どうせ占いなんだから、当たらないんじゃない?」って言いたかったんだけど、水晶さんにそんなことを言う勇気はない。


 さて、今度は卒業式後の打ち上げ!

 みんな、近くのショッピングモールに行っている。

 私も、瑞希と一緒に行った。親たちには面倒くさいから帰ってもらったけど、子供だけで行くのは校則で禁止されている。

 でも、もう卒業したんだから良いよね?


 私たちは、フードコートでご飯を食べた後、ショッピングモールの中を適当に散歩していく。

「おっ、あずみに瑞希。お前らデートかよ!」

 そんなことを、今日のうちに12回は言われた気がする。

 どうして、デートに見えるのよ!!!

「あー、卒業記念におそろいの何か買う?」

「いいね、それ」

 瑞希にしてはめずらしく賛成してくれた。

「じゃ、キーホルダー買おうか」

 近くにいる同級生を見ると、みんな雑貨屋さんで楽しそうに話している。

 フッ、ここから「おそろいのグッズを買っている」と推理することくらい、簡単なことよ。

 私たちは、小さいクマのぬいぐるみのキーホルダーを色違いで買った。

 たとえ、校則違反だろうと、中学校のかばんに絶対つけておこうと思った。

「可愛いねぇ」

「うん、そうだね」

 私のぬいぐるみはピンク、瑞希のは水色のリボンを首につけている。

「……にしても、僕、疲れたんだけど」

 ……こいつ、ショッピングモールをちょっと歩いただけで疲れるだなんて……。

「しょうがないな。そこのベンチに座ろっか」

「うん」

 私たちは、ベンチに隣り合わせで座る。

 しばらく、無言の時間が続く。

「ねぇ……」

 私が口を開いた瞬間、瑞希がそれを遮るように、私に向かって瑞希の手を出した。

「何?」

「……手」

「それが、どうかしたの?ゴミでもついてんの?」

「違う、その……繋がなくて、いいの?」

 ……?

 多分、30秒くらい思考停止していたのだろう。そこからの記憶が、全くない。

 気づいたら、私は瑞希の手を握っていた。

 瑞希が強引に手を繋いだという絶対にありえない選択肢を除くと、私は多分、自分の意志で繋いだのだろう。


 この思い出は、最高の卒業記念になった。


 まあ、中学に入って早々、それを見ていたみんなに冷やかされたんだけどね。

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