しまかぜ荘のフシギ 謎解き編

 3、2、1…0!

 授業終了のチャイムが鳴った。

 私は、すばやく瑞希の席へ向かう。

「瑞希、結局あれはどうなったのよ!授業に遅れたの、あんたのせいだからね!」

 私は、瑞希の胸ぐらをつかみ、言う。……あとで友達から聞いたんだけど、私、般若みたいな顔をしてたんだって。

「も、申し訳ありませんあずみちゃん……。すぐ、説明します!」

「あずみさまと言え!」

「あ、あずみさま、申し訳ありません……」

 どれもこれも、瑞希のせいなんだからね!

「ふん、今日のところは、これくらいにしておくわ」

「今日のところはって……明日は……?」

 瑞希の顔がみるみるうちに青ざめていく。

「それはいいから、とにかく説明してよ」

 勘の悪い私には、結局何も推理できていない。

 私は、なんで瑞希が推理できるのかわからない。

 だって、瑞希は推理小説はあまり読んでないし。瑞希の趣味は、最高硬度のシャボン玉を作ることらしい。全然興味ない。

 瑞希は、なんでこういう時になると、頭がよくなるのかな。前も、不思議な事件を解決してた。

「……じゃあ、説明するけどさ。あずみちゃん、夏海ちゃんが前言ってたこと、覚えてる?」

 覚えてる?って言われても、何のことかわかんないわよ。

「ほら、なんか変なこと言ってなかった?」

 ……ああ、あのことね。

「うん。言ってた。夏海ちゃんに、苦手なものを聞いたら、『チョコレートが』って」

「そう、そのことだよ」

「でも、夏海ちゃん、チョコレート好きだよね?」

「うん、そうだね」

 前の誕生日パーティーでも、チョコレートケーキを食べていた。

 それに……。

「なんで、こわいって答えたの?普通、苦手っていうじゃない」

「じゃあ、もうわかったんじゃない?」

 ……うん。わかったわ。

 私は、無言でうなずく。

 ……前、こんなに私に教えてくれたっけ?やっぱり、瑞希を脅したのが正解だったのかな。

「私が謎解きしていい?」

「うん。いいよ」

 私が読んでいる小説では、謎解きは「さて」から始めるのが鉄則となっている。

「さて、今回の事件ですが――」


「夏海ちゃんの誕生日の少し前から、学校では落語週間が開催されていました」

 私も、落語週間の時期は、大好きだった。

 ……もう、卒業なんだよね。落語週間もなくなるのか……。

「おそらく、夏海ちゃんたちのクラスでは、『まんじゅうこわい』という落語が紹介されていたのでしょう」

 「まんじゅうこわい」って、知ってる?なかなか面白い落語よ。検索してみてね。

「その証拠として、夏海ちゃんは前、『チョコレートがこわい』と言いました。そう言えば、チョコレートをもらえると思ったのでしょう」

 ずっと、なんで「こわい」って言ったのか不思議だったのよね。

「でも、もし、本当にこわいものを言ってしまったら……例えば、虫」

 多分、夏海ちゃんは虫がこわいと言ったんだろう。

「それを勘違いしてしまった和貴くんは、虫をプレゼントしてしまった……。彼は、夏海ちゃんに好意を持っていたのでしょうね」

 だって、好きじゃなかったらあまり真に受けないじゃない。でも、夏海ちゃんのことが大好きで、プレゼントを必死に探していたときにそれを聞いたら……勘違いするよね。


「はい、謎解き終わり」

 私が言って、瑞希が拍手した。

「よくわかったね、あずみちゃん」


 ――帰り道。

「でもさ、和貴くんみたいなちっちゃい子でも恋はするんだね」

 私は言う。

「そりゃあ、僕でもするんだからね」

 ……?

「ねえ瑞希、それって……」

「あずみちゃん、あずみちゃんは、何がこわい?」

 ……ここは、どう答えるのがいいんだろう?

 そう、考えてから、言った。


「私は……私は、瑞希のことが、こわいよ」

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