しまかぜ荘のフシギ 証拠探し編

 あ、一応言っておくけど、私のこと、忘れてないよね?

 忘れてるようなひどい奴は、読むな!(嘘です)


「さあ、あずみちゃん。手掛かりを探しに行こうか」

「手掛……かり?なんか、あったっけ?」

「夏海ちゃんと和貴くんのことだよ!」

 20秒ほど考えると、思い出した。

「ああ!和貴君は、虫をプレゼントしたんだよね?」

「うん。そのことだよ」

 昨日、あまりにもぐっすり寝すぎたから忘れちゃったみたい。


「ねえねえ、結局どこに行くのー?さっきからブラブラ歩いてるだけじゃん」

「……?あれ?もう、証拠は何回も出てるよ」

 ……この、見下すような言い方。本当に腹が立つ。

 とりあえず、私はこれまで歩いてきたところを思い出してみる。

 私たちは、ずっと廊下を歩いていた。

「そういえば、瑞希。その『証拠』ってのは、じっくり見ないとわからないこと?」

「まあ、違うかな。証拠は、目立つところにあったからね」

 廊下で、目立つところ……。

 ――あ、掲示板か!

「瑞希、掲示板行くよ!」


 そんなこんなで、私たちは、掲示板の前に来た。

「……そのようすだと、もうあずみちゃんはわかってるみたいだね」

「もっちろん」

 ……本当は、何もわかっていない。

 「っ」が入るくらい張り切ってるように見えるけど、違う。これは、返答に時間がかかっちゃったの。

 とりあえず、掲示板をじっくり見てみる。

 掲示板に貼られているのは、絵画コンクールの参加者募集、書初めの優秀作品がいっぱい載ってるやつ、あとは学級新聞とか。

「特に変な掲示物はないみたいね」

「……あれ、あずみちゃん、わかってるって言ってなかった?」

 ……気まずくなった私は、手をヒラヒラと振って、

「気のせいよ、気のせい」

と答えた。

 でも、瑞希には通用しなかったみたい。だって、

「嘘ついてるでしょ、あずみちゃん。わかってるのなら、そんなに掲示板をジロジロと眺める必要はないと思うんだけど」

って、瑞希が言うんだもん。

 ……本当に、瑞希には観察力があると思う。

 そんなに観察力があったら、嫌われるわよ!


 ……気を取り直して。

「ああ、もう、いいから!どうせ私にはわからないよ!教えて」

「そこまで言うのなら、教えるよ。あずみちゃん、当たり前すぎて見逃しちゃってるところ、ない?」

 ……見逃してるところ?あるかな……?

 ――あっ。

「校内ウォーキング週間と落語週間のお知らせの紙?」

「そうだよ。『学級新聞とか』ってまとめると、読者のみなさまに伝わらないだろ」

 なんで、瑞希が読者のこと知ってるんだろう?……たぶん、これは解き明かされることのない永遠の謎ね。

 えーっと、「校内ウォーキング週間」ってのは、寒い冬こそ歩いて温まろう!っていうイベント。みんなが歩いてて、ちょっとよけるのが難しい。だから、みんな、右側通行を意識してる。

 「落語週間」ってのも、寒い冬は笑って温まるのが一番!っていう意見から生まれたイベントなの。落語週間中は、先生が週に2、3個くらいの落語を生徒に紹介する。

 こんなふうに、うちの学校には変なイベントがいっぱいある。

 でも、ほかの学校にいる子に「そんなイベント、ないよ」って言ってもらうまで、これが普通だと思ってた。

「でもさ、これにどんなつながりがあるって言うのよ?」

「それは、またあとでね」

 瑞希がそういった瞬間、チャイムが鳴った。

 授業に遅れる!って思ったけど、瑞希も同じだし、どうでもよくなった。

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