第3章 ささくれ作戦 -地球を停止させる日-
光に包まれたモニターが少しずつであるが周囲を映せる所まで回復していく。
あまりの眩しさにモニターから目をそらしていた司令が目にしたのは、破壊されたマイクロ波砲と人型機動兵器。
そして全身に僅かながら放電をする怪獣、ジャイアント・パンダーの姿であった。
「な……。 マイクロ波の直撃を受けたはずだぞ!」
思わず司令が机を叩きながら叫ぶ。
「先程マイクロ波砲の照射タイミングの画像ですが、光量フィルター処理をかけたものを用意します。」
参謀がそれまでと変わらない様子で画像の準備を始める。
しかし、よく見ればその手は震えている。 彼女なりに未知の恐怖と戦っていたのだ。
「まったく、これでは今後動物園に行ってもパンダを見る気になれないな。」
司令が忌々しげに呟く。 強がりだが言ってしまえば、彼の心は幾分落ち着いた。
そうやって彼はかつて、窮地に有った己を鼓舞することで生き残ったのである。
その時から気分を切り替えるために軽口を叩く癖がついていた。
「司令。映像の処理が終わりましたので、御覧ください。」
参謀が司令を見る。 司令が無言でうなずくのを開始の合図と受け取り映像の再生を開始する。
マイクロ波砲の照射直前から始まった映像。
元々マイクロ波は不可視ゆえ、先程のような閃光が起こるはずがない。
しかしタイムが0となる時、突如強力な光が発生する。
その光源はパンダーであった。
ジャイアント・パンダーの全身をスパークが多い、次の瞬間パンダーから光の奔流が放たれたのだった。
そして光を浴びたマイクロ波砲や人型機動兵器は動きを止めてしまったのだ。
「な、発光しただと!?」
絶句する司令とは対象的に、参謀が現場のデータを確認するため端末を操作する。
恐らくですがと参謀が前置きをして話を始める。
「目標は体内に高出力の電磁パルスを発生させる器官が備わっていると考えられます。」
発言をしながら参謀は、次節の荒唐無稽さにあきれる心持ちだったが、採取されたデータはそれを裏付けており、また砲弾で傷がつかなかった理由も見当がつく。
「体内で発生蓄積させた電磁パルスを体毛から発振することで、電磁波攻撃を行うことや、電磁バリアの様な物を展開しているものと思われます。」
そこまで言うと参謀は下を向き小さくため息をついた。
「確かにそれなら、一瞬で打撃部隊が壊滅した理由も納得が行くな。」
そう言いつつ司令は次の手段を頭の中で検討する。
スマートボムによる集中ピンポイント爆撃か、艦砲による飽和攻撃か……。
思案する司令に、参謀がゆるりと立ち上がり進言する。
「司令、遺憾ながら最終手段を提案いたします。」
「アレを使うのかね?」
司令が苦虫を噛み潰した様な表情で参謀を見る。
「はい。熱核兵器の使用。」
参謀は
「ただし、単純に核爆弾を目標の近くで使用する方法ではありません。」
「ん? どういうことかね。」
思わぬ参謀の提案に戦術家としての興味が引かれる。
「世界防衛機構に所属する研究者の提案した方法でして、敵の進行先に核地雷を設置し、その爆発で対象を焼却します。」
「核爆弾ではなく核地雷を使用する意味は?」
「地中で爆発しますので、放射性物質拡散を核爆弾より抑えることが出来ます。」
「……結局、その土地が放射性物質で汚染されないか?」
「はい。でも提案者は核兵器の二次被害を可能な限り抑える方法として提唱しています。」
「どこの馬鹿だね。その科学者は……。」
思わずツッコミを入れる司令。
「元々
地球至上主義。それは地球こそが真の生命体であり、地表で暮らす生物はその従属物に過ぎないと言う考え方である。
そんな考えの科学者が所属しているとは、自分が席を置く組織は大丈夫かと心配になる。
「それにこの作戦の原案は某国が国土防衛のために考案されたものです。」
「敵を国土内に侵入させて、退路を絶った後に熱核兵器で殲滅すると言うアレかね。」
司令もその話は以前聞いたことが有った。 その国は結局この国土防衛術を使う前に電撃的に制圧されてしまったため実施することなく終わり、この戦術は完全に絵に描いた餅だと思われていると考えていたのだが、研究している組織が目の前に存在しているのも恐れ入る。
「爆発さえ成功させれば電磁バリアがあろうと殲滅できるはずです。 作戦の承認を。」
強気にでる参謀。 絶望的な戦況に気が動転しているのかと考えたが、その目を見るとそれは狂気に満ちたものではない。
徹底的に効率を考え最小限の被害で事態を収集するためには、守るべきものの一部を破壊しても良いと考えるものの目だった。
司令自身も決断を迫られている。
このままGを野放しには出来ないが、これと言った決定的な作戦が取れるわけでも無い。
ならばいっそうの事、分の悪い賭けに乗るのも考えのひとつである。
しかし、そうであっても無駄に詰め腹を切らされても面白くは無いので、確認をすることにした。
「ひとつ確認したい。機構本部はこの作戦の選択を承認しているのかね。」
「例え機構本部の眼の前で有っても、必要であれば決行するとのことです。」
司令は思わず天井を見上げる。
無機質な鉄筋コンクリートむき出しの天井が見える。
覚悟を決めるかと考えながら、改めてモニターを見る。
電磁パルスの影響がまだ抜けきらないのか、僅かにノイズ混じりの画面はいつの間にか夜となっていた。
力を使い切ったのか、丸まっているパンダーを空でひときわ明るく輝く星が照らしている。
普段は人工の光に包まれて過ごしていた為、満天の星空はこんなに美しかったのかと思った。
そして、決意を固めた司令は参謀に指示を出そうとした。
その時である。
突如、モニター内で丸まっていた対象が立ち上がり猛烈な勢いで移動を開始したのだ。
「目標、移動を開始。 進行方向には前線司令部として使用している基地があります。」
「接敵予想時刻は?」
「1時間程度と思われます。」
とっさに確認し合う二人。 極限状態とはいえやるべきことは二人とも理解していた。
「分かっ。地球ささむけ作戦を承認する。 前線基地への核地雷設置及び、基地からの撤退を開始しろ。」
「了解です。」
すぐさまに指示を始める参謀に追加の指示が飛ぶ。
「それと本部へ連絡。 放射性物質飛散を抑制封じ込めのための機材投入の許可だ。」
軍人としてできる尻拭いはこの程度だと司令は自分に言い聞かせるようだった。
全ての準備は急ピッチで進められ月明かりの下、Gが前線司令基地へと姿を表した時には全ての準備が完了していた。
基地から強力なサーチライトの光が幾つもGへと向けられる。
すでに基地は無人のため、遠隔コントロールによるもので、パンダーを挑発し基地内へと引き込むための手段であった。
夜空の星にも負けない強い光の元を潰さんとGが基地へと侵入する。
「ではやるぞ。」
一方、指揮司令室では司令と参謀が用意されたアタッシュケースを前に神妙な面持ちで立っていた。
核地雷の起動スイッチ。
複数のセキュリティにまもられここへと運ばれてきたが、後は司令と参謀がスイッチを入れるだけとなっていた。
司令はそのスイッチを前に緊張し続けており、大量の汗をかいている。
参謀はいつもと同じくポーカーフェイスだが、爪を見たりつま先で床を蹴るなど落ち着きがない。
ついに封印付きのカードを破り、中からカードキーを取り出す。
そしてスイッチに付属するカードリーダーへ二人同時にカードを滑り込ませる。
スイッチにある物理的な赤色のランプが消灯し、代わりに青いランプが点灯する。
そしてついにスイッチを掴み、親指と人さし指に力をいれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます